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未知標  作者: 一族
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第七〇七話 よいよいよい(三)

 孝子は舞姫館へ向かうみさとと尋道に同行した。その後の高鷲重工行きに付き合うと決めた上での時間つぶしだ。待っているだけなどは性に合わぬ。

「随分と久しぶりな気がする」

 後部座席で孝子はつぶやいた。

「いつ以来か、覚えてる?」

 運転席のみさとが、ちらりと視線を送ってきた。

「全く。表までなら、ちょっと前に行ったけど」

「へえ。何しに?」

「さっちゃんを送って。で、私が中に入ったのって、いつ?」

「今年の三月だね。カラーズの撤退も、ほぼ同じ」

 些事で振るわれる孝子の猛威を舞姫に直撃させぬため、という名目で当地から一歩を引いたカラーズだった。

「思い出した。スー公に、ごちゃごちゃ言われて、私がかんしゃくを起こしたら、なぜか郷本君も続いて。で、カラーズ撤退になったんだっけ」

 折しも、日本リーグのファイナル期間中であった。孝子が音楽活動を話の種に美鈴、アーティと意気投合していたらば、わきまえろ、と静が叱声を飛ばしてきて、反応の結果、連発だ。

「ずっと言っていたんですよ。あなたのすることなすことには、いちいちご意見無用、と。だのに、それを無視して、よくもやってくれたものだ。まあ、静さんとの一件がなくとも、いずれどこかでもめたと思うのでね。英断だったんです。英断」

 したたるような口調は、いかにも不穏当だった。

「怖い。斎藤さん、頼んだよ。この人、意外とタカ派なんだ。暴れさせないでね」

「タカ派の『タカ』は孝子さんの『タカ』という説もありますが」

「怖い。もう暴れだしてる」

「ここは、このみさとさんに任せて」

 頼もしく請け負った女は、舞姫館に着くなり、飛ばす。土産を引っ提げ、舞姫を一手に引き受けての世間話だ。

「ここ、どうする?」

 カラーズ島に陣取り、みさとの独擅場を見守っていた孝子だが、そのうち暇を持て余してきた。同じく暇そうな顔の尋道に声を掛けた。

「どうする、とは?」

 指したのは眼下のカラーズ島である。

「さっちゃん、一年の半分はアメリカでしょう? ここ、なくしちゃっても、いいんじゃないの?」

「え。先輩を、どこに移されるおつもりですか!?」

 先輩、という単語を耳ざとく聞き付けたのは伊澤まどかに決まっている。が、突出は、みさとが許さない。すっ飛んできて立ちはだかる。

「ああー。そうね。高遠さん、舞姫は退団してるわ、一年の半分はいないわ。もう舞姫担当の適任者じゃないもんね。ここはなくして、本社勤務、かな。ああ、でも、どこに住むか、って問題もあるか。そこは本人と相談するとして、取りあえず、カラーズとの連絡係は舞姫さんから出していただきましょうか。井幡さん。人選を、お願いします」

「あ。それでしたら、私が」

「訳知りの井幡さんが担当してくださるのでしたら、こちらも助かります。あ。私たち、来年早々に本社を移転するんですよ。ちょっと、不動産投資みたいなことにも手を出し始めまして。舞浜駅の西口に、ちっちゃいビルですけど、店子も募ったりして。あと、手を出す、といえば、農業! 実は、岩花に行ったのも、その視察を兼ねて、だったり」

 よく回る舌だった。まどかが付け入る隙を見いだせないままに話題は変転している。

「農業、ですか!」

「ええ。お付き合いのある方の就農をお手伝いする形なんですが。まあ、お手伝いといっても、相当、大規模になりそうなので、私たちも本腰を入れるつもりではあるんですよ。そうそう。舞姫さん、ハルちゃんと高遠さんが退団されて、選手の登録枠が二つ、空きましたよね。これは、取るように、って話じゃないので、誤解なさらないように」

 断った上でみさとが言い出したのは、就農を前提とした選手獲得の検討、だった。

「舞姫さんが抱えるのにも、ロケッツさんに引き受けていただくのにも、限度がありますものね。協賛企業の開拓に力を入れていただくのは当然として、カラーズとしては、こういうルートもあるんですよ、という紹介まで。ああ。でも、やっぱり、難しいかな。何しろ勤務地が岩花ですし。現役中は、週に一度、通うぐらいが限度かな。本番は、引退した後ですね。まあ、すごく長い目で見る必要のある話になるかと。あ。今、言ったこと、ご興味がおありでしたら、相談とか、視察とか、随時、受け付けてます。ご遠慮なく」

 本当に、よく回る舌だった。

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