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未知標  作者: 一族
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第七〇四話 クラリオン(二八)

 完全に直感だった。目配せの一つもあったわけではない。しかし、みさとは、尋道が「両輪」の一たる自分との差しを欲している、とみたのだ。岩花から舞浜へと帰る途中に垣間見た彼の表情が、その根拠となった。懸念。これである。機会を作らねばなるまい。帰途の順路を、自分と尋道が最後に残るよう、定めていく。

「郷さん、さ。帰りの道順だけど、できれば一筆書きにしたいよね」

 助手席から声を掛けた。

「理想は。できますかね」

「うん。舞浜に入ったら、まずは私の家に寄ってほしいんですわ。で、私と正村を下ろす。私は、正村を送っていく。私とあの子だけ外れてるしね」

 みさとは市域の北西部、碧区に、麻弥は北東部、椙山区に、それぞれ住まっている。対して、孝子たちは南部に固まっている。

「ほう」

「で、郷さんは、鶴ヶ丘で神宮寺と池田さんを下ろすでしょ。小磯で斯波さんと風谷さんを下ろして、車を返すでしょ」

「はい」

「最後に、私が小磯で郷さんを拾って、鶴ヶ丘に戻れば、解決さ」

「あなたが構わないのでしたら、僕に異存はありませんが」

 構わぬ。決まった。心ときめく談合に向かってみさとは躍動する。

「お待たせです」

 小磯駅そばのレンタカー店に乗り入れ、店舗外で返却手続き中だった尋道氏を急襲すれば、ぎょっとした顔が向けられた。わからなくも、ない。移動する距離も、交通の量も、違う。椙山ルートのほうが、長く、多かった。それを、ほぼ同時刻で走破すれば、それは、驚かれる。

「スピード、出し過ぎてませんか?」

「捕まるようなへまはしませんって」

「斎藤さん」

「冗談でっす。抜け道、裏道、駆使してきましたの」

「ならいいんですが」

 車両に瑕疵はなく、契約は無事に満了した。レンタカー店のスタッフに見送られ、二人は店舗を後にする。

「さあ。お待たせ」

「ほとんど待ってませんよ」

 そういうことを言っているのではなかった。「両輪」の一、相棒といっていい自分と差しになったのだ。もっと、こう、あるだろう。

「何かご用でしたか?」

 運転中でなければ、ずっこけていた。斎藤みさとともあろう者が、読み違えた、というのか。

「どうされました?」

 沈黙を気遣われた。

「いやあ。私は、そちらが、ある、と思ってたんですよ」

「何か、そんな、誘うようなそぶりがありましたかね」

「誘い、じゃなくて、気掛かり、かなあ」

 間が、空いた。

「怖いな。斎藤みさとは」

 む。みさとはうめいた。この反応は、はずれ、ではなかった、ような。

「ええ。ただ、まだ相談にまでは育ってなくて、ですね。思案の段階」

「待ったほうが、いいです?」

「いえ。聞いていただきましょう」

 聞かされたのは、昨日、バーベキューの準備をしていた時に、孝子と斯波が交わしていた会話であった。飲んだくれたちをどやす声には気付いていたが、取り合わず、そのまま流していた。よもや、そのような展開になっていたとは。なんと言うべきか。なんと……。

「大丈夫ですか?」

 潤んだ目で運転を続けられるのか、とただされた形になる。みさとは自他共に認める涙もろいたちだった。

「大丈夫っす。平気っす」

 指先で拭って、強がっておく。

「わかりました。で、ですね。きょうだいの結成で、神宮寺さんの、斯波さんを支援する気持ちは、確固たるものになったな、と。それを受けて、斯波さんも前倒しして就農されるのではないか、と読むんですが、どうでしょうか」

「私も、そう思います」

「カラーズの態勢づくりも前倒しする必要がありますね」

「うっす」

「期待していますよ」

「やりましょう」

 みさとが左手を掲げれば、察した尋道も右手を掲げて、両の手のひらが打ち鳴らされた。号砲。「両輪」の始動だ。

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