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未知標  作者: 一族
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第六六一話 羅針儀(一〇)

 ホームパーティーは、お開きとなった。尋道の号令一下だ。ダイニングチェアに深く腰掛けて、くつろぎ切っていた佐伯が意外の声を上げた。

「ええ? もう終わり?」

「ホームパーティーはだらだら居続けないのがマナーです。神宮寺さん。後片付けの指揮をお願いします」

「よしきた。どけ、どけい」

 キッチンに入り込んだ孝子は、奥村の母を押し出す。

「郷本君。おばさまを連行して。終わったら、こっちに戻ってきて。さっちゃんも、おいで。残りのやろうどもは、おばさまの接待」

 的確な人員の配置が奏功し、ホームパーティーの事後処理は瞬く間に完了した。辞去である。

 エレベーターを待つホールでのことだった。奥村母子の見送りは謝絶していたので、この場にいるのは、孝子、尋道、伊央、佐伯、祥子の五人となる。

「思い出した。郷本君」

「なんでしょう?」

「長沢先生、結婚するんだって?」

「そうですね」

 隣では、別の会話が始まる。

「イオケンは、あんなデカい車を買うぐらいだし、車好きなの?」

「うん。結構、な」

「佐伯君の話で思い出したんだけど、私、車、買ったんだよ。ナジコの」

「なんで、二人の話からナジコが出てくるんだ?」

「長沢さんというのは、僕たちの高校時代の恩師なんですが、ナジコに務めている方とご結婚なさるんですよ」

 尋道の補足で二つの会話が入り混じる。

「その方が、神宮寺さんのお買い上げになった車のデザイナーさんでして」

「おお。それでか」

「へえ。デザイナーさんって、結構、えらいんじゃない?」

「みたい。先生、いいのを引っ掛けた」

「ちなみに、神宮寺さん。どんな車を買ったの?」

「名前は忘れた」

 祥子にも参加できそうな展開となってきた。一人だけ蚊帳の外にいるのも面白くない。首を、突っ込めるものなら、突っ込んでおくべきだった。

「お姉さん。オープンカーでしたよね」

「ナジコのオープンカーって、シータか!?」

 エレベーターが六階に到着した。孝子、伊央、佐伯、祥子、尋道の順で乗り込む。扉が閉まり切ったところで会話が再開した。

「おケイ、いったな。シータなら、高かっただろう!」

「値段なんか、気にしないよ。衝動買い」

「納車はいつだ?」

「来月。半年かかった」

「シータなら、それぐらいかかるだろう。でも、来月か。俺、もう、日本にいないよ。乗せてほしかったけど」

「イオケン、天井に頭が付きそうで、乗せるの嫌だな」

「ほろを突き破ってやるよ」

「絶対に乗せてやらない」

 そうこうするうち、一階だ。一行はホールを抜けて外へと出た。

「暑い」

 途端の熱気に孝子が愚痴る。

「一カ月後も暑いんだろうなあ。ほろを開けて走ったら頭が焦げそう」

「夏場は開けないものなんじゃないか。多分」

「知らない」

 建物前のこぢんまりとした駐車場で五人は足を止めた。とめられている車は二台で、見覚えのある黒い巨大な高級車が伊央の愛車、もう一台の白い軽は、車で来た、と言っていた佐伯か。

「どう割り振る?」

 伊央が言った。ちなみに往路では、渡辺原動機に立ち寄っていた孝子以下三人が伊央の車で移動し、自家用車の佐伯、電車と徒歩の祥子、と分かれていたが、

「たっちゃん。車、貸してよ。で、イオケンはたっちゃんを送ってあげて。郷本君は私と一緒ね。話がある。さっちゃんは、どうするかな。そっちだと落ち着かないだろうし、こっちで送ろうか」

 対して孝子が提示してきた分乗案は、随分と妙な案配となっている。

「それだと佐伯の車を返す手間があるだろう。俺が佐伯に送ってもらうよ」

 言うなり伊央は取り出した車の鍵を尋道に渡した。

「そうしてくれる? イオケンは気が大きいよね」

「まあな。ごゆっくり」

 急な展開を受けて、佐伯はきつねにつままれたような顔をしている。おそらくは、自分も同じだ。知らぬ間に何事かが発生していたらしい。当事者たちと訳知りの顔をいくらうかがったところで正解が見えるはずもなく、どうやら、ここでも祥子のできることは、待つ、のみであるようだった。

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