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未知標  作者: 一族
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第六五四話 羅針儀(三)

 これも、尋道が言っていた。舞姫のためにもなる、と。もろもろ勘案するに、神宮寺孝子の紹介でアストロノーツが有力な外国籍選手を獲得したことこそが、意、になるのだろう。強力なライバルチームの出現は舞姫のチーム力向上につながる。ためにもなる、という表現に、偽りはない。随分と持って回った言い方ではあったが。

「先輩。何か、ご存じなんですか?」

「え?」

 物思いにふけっていたようだ。気が付けば祥子は注目を一身に浴びていた。

「さっきの謎掛けって、要するに、お姉さんがアストロノーツに外国籍選手を紹介した、って話だと思うんだよね」

「私も、そう思います」

「実は、その関係で、ちらっと小耳に挟んでて。舞姫のためにもなるんだよ、って。郷本さんがおっしゃってたんだよね」

「いつです?」

「この間、カラーズの作業に行った時に」

「郷本さんは、どういうつもりでおっしゃったんでしょう?」

「うーん。多分、お姉さんが紹介した外国籍選手って、すごい大物だと思うんだよね。だって、舞姫にシェリルとアートを呼べるぐらいの人だもん。で、その、すごい大物の加わったアストロノーツが強くなれば、それに対抗する舞姫も、より強くなれるよね」

 すなわち舞姫のためになっている。

「ははあ。まあ、確かに、今の舞姫、正確に言えば舞姫のスタメン、えぐ過ぎますもんね。スタメンだけで考えたら世界最強ですよ」

 さもありなん。ポイントガードに神宮寺静、シューティングガードに市井美鈴、スモールフォワードに北崎春菜、パワーフォワードにアーティ・ミューア、センターにシェリル・クラウスといったバスケットボール界有数の名手たちが集っている舞姫だ。世界最強と称えても、全く過大ではなかった。

「正直、スタメンの後に出ても、張り合いが、全然、ないんですよね。強いチームとできるなら、私は歓迎したいかな」

「伊澤は誰が来ると思う?」

「そうですねえ。やっぱり、今のアストロノーツに不足してるところを補強してくると思うんですよ」

「元々、強いチームだし、不足といっても、そんなにないんだけど、対舞姫で考えたら、一番と五番が、明確に弱いかな」

 祥子とまどかの着くテーブルに彰が来た。一番はポイントガードで五番がセンターを指す。舞姫の選手に当てはめれば静とシェリルである。

「でも、雪吹さん。例の『ビッグガード例外条項』があって、アストロノーツは大きなセンターを取れませんよ?」

「うん。一九〇のセンターじゃ、シェリルに対抗するのは無理だよなあ」

 はてさて、と三人が額を集めかける。

「私なら、一番と二番に外国籍選手を入れるな」

 離れたテーブルから届いた表明は中村だ。一番と二番なら、ポイントガードとシューティングガードのバックコートコンビで、舞姫では静と美鈴が該当する。

「中村さん。シェリルは、どうするんですか?」

 まどかの問いに対する中村の答えは簡にして要を得ていた。

「諦める」

 誰を当てようとも「Ms.Basketball」の阻止は不可能である。ならば彼女へのボールの供給を遮断することでもって対策とするしかなかった。故の一番と二番指定になる。確かに、もくろみどおりにいけば有効な戦術であろう、が。

「北崎さんが下がってきたら、どうします? 北崎さんはバックコート寄りのプレーをする三番ですし、そうなったら、並大抵の一、二番じゃ抑えきれませんよ?」

「並大抵で収まらなければいいだけさ。伊澤。さっき高遠が言ったぞ。神宮寺さんの紹介だ。相当な大物が来るに決まってる」

「例えば誰ですかね?」

「例えば、か。例えば、ウィニー・ルーとヒメノなんて、どうだ?」

 中村が出してきたのは、今シーズンのLBAで激烈な新人王争いを繰り広げる二人の名だった。ポイントガードのウィニー・ルーことウィノナ・ルイスと、シューティングガードのラクウェル・ヒメノは、いずれアメリカ代表の中心選手になるであろう、と目される若き逸材たちである。

「連れてこられればアストロノーツは強くなるぞ」

 応じて上がった声たちは賛否両論に別れた。やれ、この上なく的確な考察だの。やれ、ホープ過ぎて来日させるのは不可能だの。正解は九月一日までわからないというのに、この後も議論は遅くまで続いたことだ。バスケットボールを愛する人たちによる清爽の挙と称してよかっただろう。

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