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未知標  作者: 一族
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第六四一話 週末の騎士(一六)

 三日間は、こたえた。これは、前回、孝子が観戦したサッカー日本代表チームの準々決勝から、次戦、準決勝までの間隔だ。特に、奥村のプレーだけが見られればよい、というようなにわかのファンには、つらい長さだった。

 さりとて、いくら孝子がじれようとも、時間は気を利かせて、流れを速めたりしてくれない。至極当たり前である。とくれば、致し方なかった。一日千秋の思いを、孝子は観戦環境を充実させることでなだめにかかった。

 真っ先に思い付いたのはクッションだ。適切な姿勢を維持するのに、丸めたタオルケットでは不足の感があった。大きく、固めのクッションは、必須といえるだろう。小物や飲食物の置き場所として座卓も導入するべきだった。前回は床やマットレスの上に直接で、あまり行儀がいいとはいえず、何より、うっかり蹴飛ばしたりで、こぼしてしまう危険性があった。飲食物の保存に用いるため、ポータブルの保冷温庫を検討してみるのも面白い、か。

「こんなに、まあ、たくさん買って。世界選手権が終わったら、どうするつもりです? 使う当ては、あるんですか?」

 SO101に増殖していく孝子の私物を、尋道は微笑を浮かべて眺めている。

「そりゃあ、もう」

 先のことなど、考えているはずがない。

「ないよ。置いていって、いい?」

「さすがに、駄目です」

 狭いSO101では持て余す、という理由は、もっともだった。

「じゃあ、あげようか?」

 何が、じゃあ、なのか。まるで前後がつながっていない。そう叱責されると思いきや、尋道は思案顔を見せる。

「では、いただきましょうか」

 意外。孝子はすぐさま聞き返していた。

「いいの?」

「いいですよ。いただきます。使い終わったら、そのまま、ほっぽっておいてください。折を見て回収しますので」

「押し付けておいて、なんだけど、何に使うの? おうち?」

「いいえ」

 来年二月に完成予定のカラーズ新社屋へ持ち込む予定、と尋道は続けた。

「休憩時間に、寝たり、くつろいだり、しようかな、と。僕が個人で使えそうなスペースがあるので、そこに、配置します」

「いいよ。じゃんじゃん使って。部下の福利厚生に役立つんだったら、こやつらにも浮かぶ瀬があったじゃない」

 これにて一件落着である。

「ええ。それにしても」

 尋道が話題を転換した。

「ここまではまり込んでいただけるとは」

「君が仕向けたことでしょうに」

「あなたにしては珍しく、興味津々のご様子だったので、うまく推移してくれれば、カラーズにとっても大きいかな、なんて」

「案の定、たくらんでいやがった」

 わざとらしい舌打ちを響かせる。

「まあまあ。詳細な筋道までは立てていませんので。布石ですよ。布石。ただ、当たったときは大きいと思いますので、その節は、よろしくお願いします」

「うまくいけばいいね」

 構築の完了した観戦環境は、こうだ。

 真っ先に導入を決めたクッションは、寄り掛かれば背もたれとして使え、腰を下ろせば座椅子として使える、というようにマルチユースな品を選定した。弊害として付属してきた高価格については目をつぶっておくとする。

 脇を固める品にも孝子は意を凝らした。クッションを補完する抱き枕ならぬ抱きクッションの存在で、視聴時の姿勢は盤石となった。小物や飲食物を置くための座卓は、折り畳みの可能なコンパクトな品ながら、作りはどっしりとしていて、安定感に優れている。足で蹴飛ばそうが、タオルケットで引っ掛けようが、びくともせぬ。極め付きに挙げられるのは、ポータブルの保冷温庫になる。五〇〇ミリリットルのペットボトルが二〇本も入る大容量の機種を確保した。フルコースだって、入れようと思えば入れられる。ほぼ怖いものなしの陣容が完成した、といえる。

 かくして準備は万端、整った。いざ準決勝、である。

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