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未知標  作者: 一族
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第六〇九話 緑の日々(一一)

 今シーズンのLBAは例年よりも開幕が早い。具体的には半月ほどの前倒しとなっている。秋口に開催されるバスケットボール世界選手権へ対応した日程だった。当然、静たちの始動も早まった。こちらも半月ほど、である。

 渡米の翌日だ。到着日を静養に充てた静たちは、先に活動を開始していたアーティらのワークアウトに、この日より合流する。

 ところが、であった。春菜に覇気なし。朝食の時間にミューア邸のダイニングへと見せた姿は、いかにもしょぼくれている。

「どうした、ハルナ」

 先にダイニングテーブルに着いていた美鈴が声を上げた。

「あり得ません」

 どっかと春菜は美鈴の隣に腰を下ろした。

「何が」

「アストロノーツに断られました」

「は? あの話、もう動いたんか!?」

「動いたんですよ。カラーズから連絡があって、駄目だった、と」

「スー。二人は何を言ってるの?」

 事情を知らぬアーティら、ミューア邸の人たちへ、静は渡米の寸前に起きた動乱を語り、終えると春菜に話を戻す。

「マイヒメとアストロノーツが提携するようですね。で、シスター・タカコはアストロノーツの部長付アドバイザーに就任されるそうです」

「へ? どういう流れさ?」

「シスターが気兼ねなくヒカリのバックアップに回れるようにする手はずでしょう。確かに、これがないと、シスターとマイヒメが対立することになりますからね。ミスター・ヒロあたりの知恵かと」

「お前が、うちに断られた、っていうのは?」

「編成上の都合だそうですよ。内定者がいたんでしょう。ほごにして私を取ればいいものを。今後の付き合いに配慮したのでしょうが、つまらないチームです」

「お前、本当に、口が悪いよな」

 瞳は鼻白んでいる。

「うちみたいなお堅いところには向いてないよ。来なくていい」

「後悔しますよ」

「しない。そっちこそ、その減らず口を後悔させてやる」

「楽しみにしておきますよ、と一笑に付してばかりもいられません。なんといっても、シスター・タカコがいますしね。油断できません」

「え」

 思わず、口に出してしまった。バスケットボールのバの字も知らない孝子の存在が、チームの成績に影響を及ぼすことなど考えられない、という考えの発露となる。

「スーは、浅いですね。あの人が、意識無意識でやってこられた所業を考えたら、そういう分析にはなりませんよ。普通」

「でも、戦力的に考えたら、シスターが何をしようと、アストロノーツではマイヒメに勝てないと思いますけど」

 舌打ちが、響いた。

「四試合、ぼろぼろにやられたんだ。言い返す資格はないけど、あえて、言う。お前ら、絶対に許さない」

 アストロノーツ所属の瞳だった。英語でのコミュニケーションが通例となっているミューア邸で、したたるような口調は日本語である。我を忘れている。静の血の気が引いた。

「待ってください。瞳ちゃん。お前たち、って。私も入ってるんですか」

「つまらないチーム、って言ったよな。静も。なめるなよ。うちも。春谷もんも、な」

「すみません!」

 瞳が立ち上がった。大股でダイニングを出ていく。二階にあてがわれた自室に戻ったようだ。

「ばかどもー」

 乾ききった美鈴の声が響く。

「展開が、見えた。武藤のこった。たーちゃんには泣き付かないだろうけど、須之内には声を掛けるな。やるぞ、って。で、須之内は武藤ほどお堅くないから、たーちゃんにご注進ー。たーちゃん、怒り狂って、アストロノーツに超てこ入れー。やったな! お前たちのおかげで、来シーズンのアストロノーツ戦は、楽しくなるぞ!」

「確かに、それは、楽しみですね」

「ははあ」

 驚いたような、あきれたような、大口が見えた。

「全然、反省してない。もう。やばいな」

 天井を仰ぐ美鈴。にやついている春菜。傍らでは、ミューア家で、唯一、日本語を解するエディ・ジュニアが、事態を家族に向かって解説している。静はがっくりうなだれた。思いも寄らぬ展開となってしまった。これから、一体、どうなるのか。全く、読めない。

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