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未知標  作者: 一族
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第五七八話 スイートホーム(一〇)

 尋道はみさとへの説明に、以下のただし書きを付帯していた。孝子のオープンカーは納車日未定となっているので、駐車スペースのプロデュースは、焦って行う必要のない作業になる。暇を見つけて、やってくれたら結構だ、と。

「まあ、そうは言ったところで、あなたは一気呵成にやっつけてしまうと思いますが」

「わかってるじゃーん」

 尋道の駄目押しに孝子は確信した。明日の早い時間帯にも、なんらかの動きが見られるであろうことを、だ。

 翌日、信念に基づき、孝子が舞姫館を訪ねたのは正午ちょうどになる。さすがに早過ぎるかもしれない、と抱いていた懸念は杞憂に終わった。平日の早い時間には、めったにとまっていないマリンブルーの車体が見えたのだ。みさとの車だった。

「やっぱりね」

 舞姫館に入るなり、開口一番でお見舞いする。カラーズ島で尋道と何やら話し込んでいたみさとが顔を上げた。

「何がよ」

「郷本君にあおられて、黙ってる斎藤みさとじゃないと思ってたよ」

「あたぼうよ」

 孝子はカラーズ島に乗り込んだ。

「事務所は?」

「半休。これ終わったら行くよ」

 身を包んでいたスーツを、ラペルに手を掛けて、みさとは揺すってみせた。しげしげと見ればメークも仕上がっている。尋道への説明が済み次第、飛び出していくつもりだったのだろう。

「途中? だったら、私は後で郷本君に教えてもらうけど」

「大丈夫。始めたばっかり」

「じゃあ、手早く済ませないとね」

「うん。聞いておくれ」

 神宮寺医院、「新家」と朝駆けし、それぞれの主に作業の了解を取り付けたのが皮切りだ。斎藤英明税理士事務所と付き合いのある外構業者への急襲が二の矢となる。概算の見積もりに加えて、工事の予定日まで定めて、と。これが、明らかとなった斎藤みさと氏、午前中の軌跡であった。

「今が、ちょうどあの業界は繁忙期なんだってね。だいぶ先になっちゃったけど、そこは、勘弁してくださいな」

 五月の連休明けという着工時期への説明だ。

「それはいいんだけど、結局、ロータリーは、どうなることになったの?」

「うん。見て」

 みさとは足元に置いていたビジネスバッグからタブレットを取り出した。昨日、尋道も使った神宮寺家の敷地の俯瞰写真が画面に映し出される。

「郷さんの読みどおり、ロータリーはなくなるね。車路が確保できるぎりぎりの、下三分の一ぐらいまで『新家』がせり出してくる予定」

 言いながら、みさとはタブレットの画面に指を滑らせる。フリーハンドの白塗りで、ロータリーの下三分の一が塗りつぶされた。

「対する『本家』は、その対面に、同じくロータリーの上三分の一を使って、カーポートを設置する」

 白塗りが画面上に追加された。

「一応、三台分。あんたの二台と、美咲さまの一台。他の子たちも持つんだったら、野天でよければ、スペース、追加できるよ?」

「いらないでしょう」

「了解。まあ、まだまだ時間はあるんで、変更があったら言って」

「うん。ところで、『新家』は、車、どうするの?」

「せり出したうちの一階部分をビルトインタイプのガレージにするみたいよ」

 出勤に備えてか、立ち上がりかけていたみさとが応じた。

「わかった。もう行く?」

「おう」

「素早い仕事、ありがとう」

「どういたしましてん」

 タブレットがビジネスバッグの中に放り込まれて、準備万端となったようだ。バイバーイ、と言い置き、みさとは舞姫館を出ていく。見送ろうと追い掛ければ、孝子が外に出た時には、もうマリンブルーの車は動きだしていた。

「あばよー」

 手を振り振り、みさとは走り去っていった。爆走女め。同属の自分の言動は忘却のかなたへと追いやって、苦笑交じりに孝子はつぶやいた。

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