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未知標  作者: 一族
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第四九三話 翼はセルリアンブルー(一〇)

 五月中旬の開幕から二カ月余りがたった週の終わりは、LBAのオールスターウイークエンドだ。今年の開催地、シアルスに、見事、オールスタープレーヤーとなった日本の四人が集結した。ここで、迎えるホステスチーム、シアルス・ソアの瞳が呼び掛けてきたのは、川相宅への訪問であった。せっかく日本人がシアルスに集まるのだ。ぜひ連れてこい、と倫世に言われたらしい。孝子の幼なじみであり、Colours of Sealthの代表でもある人のお声掛かりときては、断る理由はなかった。

 レセプションを終えた四人が、ホテルのロビーで待ち構えていると、瞳に電話だ。車寄せに着いた、早く出てこい、とのことである。エントランス前の車寄せには、一台しか車はとまっていなかったので、すぐにわかった。小山のようなブルーグレーのミニバンだ。カラーズ公式サイトに掲載されているColours of Sealthの活動日誌より、同部署が使用している車の輪郭を、静は見覚えていた。

「おいす! よく来たな、小娘ども!」

 運転席を飛び出してきた女性が威勢のいい声を放つ。倫世だ。Tシャツにショートパンツは、彼女の痩せぎすがよくわかる格好だった。

「おらー。誰が小娘じゃ。私は年上だぞ。敬え」

 美鈴がずいと出た。

「これは、これは。大変、失礼しました。謹んで訂正させていただきます。よく来たな、年増さまと小娘ども!」

「泣かす」

「離せ、年増」

 美鈴に担ぎ上げられて、倫世は大笑だ。陽性の者同士の波長は抜群のようである。釣られる形で、それ以外の交流もはかどる。

 やがて、さざめきの収まったところで、

「よし。行こうか」

 倫世の号令が下るや、静は三列シートの三列目に飛び込む。どうせ、最も体格の劣る自分が座る羽目になる。先回りをした形だ。

「あれ。静は、そんな後ろで、いいの? 誰か、車の運転できる人がいるなら、私が行くよ? 一応、客なんだし」

 免許は所持しているが、国外運転免許証の申請をしていない、と応じた美鈴に、私も、私も、と静、春菜が続いた。

「アイは免許自体、取ってきてないし。ここはアメリカだぞ? 何をやってるの。結局、全員、小娘じゃない。こりゃ、大成しないな」

「でも、ミッチ先輩。川相先輩だって、免許、持ってないじゃないですか」

「ベースボールプレーヤー、川相一輝には一心同体の私がいる。私は運転できる。なんの問題もない。よし。乗れ。行くぞ」

 かくして車は出発した。運転席に倫世が座り、助手席は瞳。二列目に春菜と美鈴。三列目の静。この配置であった。

「静ー。大丈夫か? 狭くない?」

 走り始めて、すぐに倫世の声が届いた。

「私、後ろに乗ることがないから、どんな感じなのか、わからないんだよなー。どう?」

「全然、平気です。広くて、びっくりしました」

「なら、よかった」

「おい。私たちにも気を使えよ」

 にやにやと倫世に絡んでいったのは美鈴だ。年増、と言われたのを根に持っている。

「年増さま、面倒くさいな。一応、聞いてやる。座り心地は、どうです?」

「快適だぞよ」

 立派なキャプテンシートに、美鈴は深々と腰を下ろしている。

「具体的には、この時期の西海岸の気候ぐらい。最高」

「それは、サラマンドなんて焦熱地獄みたいなところで暮らしていれば、そういう感想も出てくるでしょうよ」

 軽口を春菜がたたく。美鈴の所属するサラマンド・ミーティアが本拠を置くアリゾナ州サラマンド市は、夏の酷暑で有名な都市だ。

「何が、焦熱地獄、だ。ロザリンドだって暑いだろ。おまけに蒸すし。サラマンドは、ほとんど蒸さないんだぞ」

 一方、春菜が在籍するロザリンド・スプリングスは、フロリダ州ロザリンド市のチームである。こちらも夏は高温多湿の厄介な土地柄といえる。

「確かに暑くて蒸しますけど、サラマンドの暑さよりはましです。確か、サラマンドって、外に水を入れたカップを出しておくと沸騰するんですよね?」

「しねえよ」

 温暖湿潤気候と砂漠気候の、見苦しいののしり合いだ。聞いていて面白いので、BGM代わりにやらせておこう――倫世の人の悪い提案に、静は噴出するしかなかった。

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