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未知標  作者: 一族
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第四八四話 翼はセルリアンブルー(一)

 思えば、武藤瞳のLBA入りは、降って湧いて、の連続であった。さかのぼること、晩冬の候だ。LBAを目指す瞳の活動は暗礁に乗り上げていた。インサイドにしてはサイズ不足、アウトサイドにしてはスキル不足と見なされ、どのチームからも存在を黙殺される状況に陥っていたのである。

 そんな彼女の窮状を見かねて、救いの手を差し伸べてきたのは、同郷の友人、神宮寺孝子だった。サラマンド・ミーティアに所属する市井美鈴に掛け合い、同チームのキャンプに参加できるよう、取り計らってくれたのだ。めでたし、めでたし――降って湧いて、である以上、これで終わったりはしない。

 美鈴との共闘に向け、腕を撫していた瞳の元に届いたのは、北崎春菜による勧誘となる。いわく、バスケットボールを教えてやるので、彼女が契約したロザリンド・スプリングスに来い。大上段に振りかざしやがる、と思っても相手は「至上の天才」だ。全日本への雪辱に燃えるシェリルとの決戦に備えて、瞳の力を借りたい、高めたい、という説明をうのみにして、こらえるべき、なのだろう――まだまだ、次がある。

 アーティ・ミューアが、レザネフォル・エンジェルスなら、瞳をビッグマンとして重用するが、と言ってよこしてきた。それを聞き付けた春菜は、いい話だ、スプリングスでも、エンジェルスでも、好きなほうを選べ、と無責任に放り投げる。どうにでもなれ、であった。取りあえず、春菜とは一緒にやりたくなかった。必然的にアーティの提案に応じることになる――いよいよ最後の一幕だ。

 二カ月前のLBAドラフトで、変事が起きた。寝耳に水の指名を受けたのだ。三巡目でシアルス・ソアに、その名を呼ばれた。エンジェルスは瞳をドラフト外で入団させるつもりでいたため、全くの無防備だった。やすやすかっさらわれた形となった。

 後に、瞳は報道で目にした。ソアの動機は、美鈴だ、春菜だ、アーティだ、と世界屈指の実力者たちがもてはやすヒトミ・ムトウとやらに、ちと食指が動いたため、とか。無名の悲哀、というやつだろう。最初から最後まで紹介者たちの名声頼りだ。武藤瞳自体は無価値か。情けない。何もかも投げ出したくなる。

 しかし、瞳は投げなかった。自分を押してくれる存在のために踏ん張った。孝子だ。差し伸べた手で引き上げ、そのまま、抱え込んでくれた。瞳がシアルスで居候するのは、孝子の幼なじみの自宅だった。瞳がソアの指名を受けるや、直ちに受け入れを依頼してくれた。チームとの契約に際し、凄腕のエージェントが出張ってきてくれたのも、孝子の意を酌んだもの、と聞いていた。絶対に、厚意に報いねばならなかった。ちょうど、所属するチーム名の「ソア」は、急上昇する、や、舞い上がる、といった意を持つ英単語である。あやかって、ひたすら、上へ、上へ、羽ばたく。

 キャンプ、プレシーズンゲーム、シーズンと瞳は一心不乱に励んだ。結果は伴って、小柄だがタフなプレーヤーとの評価を確立させた彼女は、今や、ソアのスターティングフォワードとして、押しも押されもしない地歩を築いた。

 開幕以来の一カ月、ソアは無敗で西地区の首位をひた走っている。静とアーティ・ミューアのレザネフォル・エンジェルスも、美鈴とアリソン・プライスのサラマンド・ミーティアも、はるか後方だ。

 一方の東地区は、どうか。春菜とグレース・オーリーのロザリンド・スプリングスが猛威を振るっていた。ちまたでは、気の早い予想として、今年のLBAファイナルは、ソアとスプリングスの激突となるだろう、との声も上がっている。望むところであった。スプリングスを撃破し、孝子にチャンピオンリングをささげよう。それが、瞳にできる一番の報恩になる。

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