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未知標  作者: 一族
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第四五八話 乱れ髪(二一)

 選手紹介の終わった舞台上では質疑応答が行われている。それが済めば、残るはフォトセッションのみだ。一時間余に及んだ設立会見も、ようやく終わりが見えてきた。

 フォトセッションが始まったところで孝子は席を立った。ロケッツ勢を訪ねるためだ。会見を成功裏に終わらせてくれた礼を、とくと述べる必要があった。舞姫たちが戻ってきた場は雑然とするだろう。今しかなかった。

 舞台裏へつながる通路には麻弥と伊東以下数人のロケッツ勢がたむろっていた。

「やあ。どうでした。上は」

「素晴らしい眺めでした。わがままを言った甲斐がありました」

 併せて伊東に謝辞を申し述べた。周囲のロケッツ勢にも片っ端から礼を言って回る。そうしているうちに会見が終了したようだ。通路に舞姫たちがなだれ込んできた。

「お。たーちゃん。ちゃんと見てたか」

 美鈴の大声だ。

「見てたよ。二人の醜態も、ばっちりね」

「あれは春菜が悪い」

「言い訳するな。減俸。むしった分は静ちゃんにあげる」

「やった!」

 騒乱のさなかに基佳がやってきた。

「あれ。なんの騒ぎ?」

「もっさん、お疲れ。会見でばかをやった二人に減俸を食らわせてた」

 苦笑いの基佳を見て、孝子はふと思い立った。

「もっさん。おじさまは、今日、お店?」

 基佳の父は、小磯駅そばで「ア・ラ・モート」というフレンチレストランを経営している。

「うん。今からランチはちょっと無理だけど、夜なら都合付けるよ」

「いや。ビジネス」

「ああ」

 傍らでうめいたのは尋道だ。孝子の意図を察したらしい。

「どうした?」

「正村さん。この後、例のマンスリーマンションの内覧に行くのですが、ご一緒しませんか?」

「それは、いいけど」

「マンションが小磯にあるんですよ。ついでに、お店に寄って、ボックスシートの活用法をシェフにご相談させていただく、と」

「あ。お前、そのために上に行ったのか」

「どうせ、暇つぶしのわがまま、とでも思ってたんでしょう。麻弥ちゃんが私を、そういう目で見ていることは知ってる」

 尋道はともかく孝子については、まさしく、暇つぶしのわがまま、だったのだが、そんな事情は遠い棚の上に放り投げて知らぬ顔する。

「待って。神宮寺さん。その話、興味ある。話、夜に回せない? サービスさせるよ」

「どうする?」

「夜は別件がありますので」

「うそつけ。食べるのが嫌なだけでしょう」

 尋道は食欲が希薄な人だ。絶品のフレンチであろうとも、彼の琴線には触れない。

「うそではありません。具合がいいようなら、そのまま契約して、中村さんをお迎えできるようにしようと思ってるんですよ」

「ああ」

「雪吹君。あなたも、毎日、遠路はるばる大変でしょう。広い部屋なので、中村さんにご一緒させていただいたらどうです?」

「いいんですか?」

「構わないから誘いました。いちいち聞き返さなくていいです」

 珍しく厳しい声に、周囲は、はっと息をのんでいる。

「雪吹君。僕は気になりませんが、この手は聞き返した時点で宣戦布告と受け取る向きもおられます。気を付けてください」

 誰のことを言っているのだ。孝子は危うく噴出しかけた。

「は、はい」

「入居祝いを用意して待ってますので、そのあたり、夜にでも、とっくりと話をしましょう」

 周到な男が感化に動くのか。ならば一任するのがよい。

「わかった。じゃあ、カラーズは二手に分かれようか。麻弥ちゃんは私と一緒ね」

「うん」

「お姉さん。私もご一緒します」

「たーちゃん。私も」

「お二人は舞姫の活動に集中してください」

 名乗りを上げた春菜と美鈴を尋道が制する。

「後は、個別の取材とか表敬訪問とかでしたよね。一人ぐらい欠けたってばれませんよ」

「その名を知らない者は、もぐり、とまで言われる女子バスケ界の至宝を欠く舞姫なんて、お話になりません。他の方はともかく、北崎さんだけは参加していただかなくては」

 尋道の鮮やかなカウンターアタックが決まった。全く、口は災いの門とは、よくも言ったものである。返答に窮した春菜の苦悶に孝子は破顔した。

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