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未知標  作者: 一族
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第四四一話 乱れ髪(四)

 尋道の予想は当たった。桜田大OB同士の手打ちが、しゃんしゃん鳴り響き、今年度の高校女子バスケットボール界、最大の出来物である伊澤まどかの舞姫加入は、直ちに決定したのである。入社前であったため、まどかは即日、重工寮を退去して舞姫館にやってきた、という。連絡を受けた静は、急ぎ舞姫館に駆け付けた。

「静先輩! また三人で一緒にやれますね!」

 寮棟の玄関をくぐるなり、まどかが寄ってきた。

「まどか! びっくりしたよ! 相談してくれたら、よかったのに」

「相談なんかしませんよ、こんなことで」

「サチには言ったの?」

「先輩にも。親にも。長沢先生にも。誰にも言ってません。誰かしら反対してきそうな気がしたし」

「もう……」

「立ち話はそこまでにして、二人とも、こっちに来いよ」

 食堂と兼用となるミーティングルームの前から声を掛けてきたのは美鈴だ。食堂に入ると、円卓にカラーズ、舞姫の面々が座していた。

「お。来たか。適当に、座ってくれ」

 静とまどかが席に着くのを見届けた中村は、立ち上がり、エントランスホールとの境に立つ壁の前に移動した。舞姫のミーティングにおける基本的な配置だ。必要に応じて、壁に掛けられた六五インチのテレビを用いながら進められていく。ちなみに、くだんの六五インチは、かつてSO101の主だったものである。

「そろったな。始めよう。と言っても、近々に高遠も来るだろう。改まったあいさつは、その時に併せてで構わんな、伊澤?」

「はい」

「うむ。では、軽く、でいい。一言、頼む」

「はい。ええ、カラーズならびに神奈川舞姫の皆さん。舞浜市立鶴ヶ丘高校出身、伊澤まどかです。初めましての方も、そうでない方も、よろしくお願いします!」

 拍手が湧き起こる。

「よし。以上、だな。しかし、当初は規定ぎりぎりの人数で開幕を迎える予定だったのに、一五人とは、増えたな」

「一五……?」

 口走ったのは井幡だ。どこか不審な点があっただろうか。尋道も言っていた。一五人で合っている。ここまで考えて、思い至った。アーティたちの参加を井幡は知らないのだ。カラーズと関わりの深い者以外も知るまい。人々の仰天するさまを思い描いて、静は、一人、にやつく。

「うん? そうか。まだ言ってなかったな。カラーズさん、よろしいですか?」

「どうぞ。ただ、ぼちぼち先方の発表もあると思うので、うっかり漏らして、邪魔しちゃわないよう、今から中村さんがされる話の内容は、絶対に内密で、お願いします」

 みさとの容認に謝した中村は、ぐるりと一同を見渡した。

「皆が把握している人数は、一三人だな。この場にいる一二人と、福岡の高遠で、一三だ。実は、それ以外に二人、外国籍の選手が加入する」

「え? うちも取るんですか?」

「いいですか?」

 挙手したのはみさとであった。

「どうぞ」

「はい。ちょっと、失礼して」

 つかつかとみさとが中村の隣に進み出た。

「すみませんね。取る、というか、取れ、かな。外国籍の二人は、うちの社長の案件なので、中村さんには拒否権はなかった、と。なので、発表が遅れたことも含めて、皆さん、中村さんを責めないでくださいね。親会社の主導じゃ仕方ない、とご理解くださいな」

「斎藤さん。一体、神宮寺さんは、誰を? アメリカ人ですか?」

「アメリカ人です。シェリル・クラウスとアーティ・ミューア」

 あまりの衝撃に食堂にいる多くは凍り付いている。当然だ。世界最高峰の二人がチームメートになるのである。驚かないほうが、おかしい。

「静先輩が誘ったんですか!?」

 同じ円卓のまどかが身を乗り出してきた。

「違うよ。呼べる、とか、来る、とか、考えられない二人だよ」

「そう。違うんだよ」

 声が届いたのだろう。みさとが乗ってきた。

「実は、うちのボスのせい。シェリルは全日本へのリベンジに燃えてるのね。次のユニバースでゴールドメダルを奪還するため、『機械仕掛けの春菜ハルナ・エクス・マーキナー』と日本のバスケットボールを研究したいから舞姫に入れてくれ、ってカラーズに言ってきたのよ。で、次、すごく大事よ。カラーズ検定で出る。うちのボス、そういうやる気、大好き。よし、わかった、って秒で契約しちゃって!」

「でも、随分と思い切ったことをされますよね。シェリルのリベンジの成功は、すなわち全日本の敗北なのに」

「負けるほうが悪い、ぐらい言うよ。うちのボスは」

 まどかの懸念は、一刀の下に切り捨てられた。

「なるほど。お姉さんとカラーズさんって、この乗りなんですね。わかりました。私もはじけないと」

 その意気だ、とまどかをたたえたのは中村だった。

「それに、な。シェリル・クラウスとアーティ・ミューアの日本リーグ参加は、日本の女子バスケ界にとっても大きなチャンスといえる。LBAに行くか。全日本に選ばれてアメリカとやるか。このどちらかでしか体験できなかった、トップ中のトップのプレーが体感できるんだ。ぜひ、諸君らも、大いに二人にチャレンジしてほしい、と思う。きっと、新たな世界への扉が開かれるはずだ」

 中村の総括的な話で、ミーティングに一段落の感が生まれた。練習開始の午後四時も近くなっていた。腕時計を指して、中村が解散を告げた。ころ合いだったろう。

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