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未知標  作者: 一族
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第四一七話 未来への序奏(一九)

 ぱんと手を打って、みさとは前のめりになった。口元に浮かんだ笑みは、自信の表れだろう。

「シェリルとアーさまが舞姫でプレーするのは、多分、三シーズンなんだよね。次のユニバースまでの。シェリルが有終の美を飾るのか、全日本が返り討ちにするのか、それは、まだ、わからないけど。一応、そのつもりで二人に払うお給金を考えてみたよ」

 出し抜けに、だらららら、しゃーん、と言ったのはドラムロールのつもりか。

「発表します。シェリルが、三年五億。アーさまに、三年四億。どうだ!」

 はっ、とか、えっ、とか、麻弥、春菜、佳世の三人は同時の大声だったが、その中で、すぐに居住まいを正したのは春菜だ。

「失礼しました。お姉さんと郷本さんは、微動だにしていらっしゃらないのに」

「あの二人になら当然の額でしょう」

「次元の違うスーパースターたちですものね」

「でも、他とのバランスもあるし、あんまり高過ぎるのも、まずくないか?」

「なんのバランスだよ。舞姫にはアーさまの比較対象になるような選手はいない。あんた、アーさまがアメリカ有数のセレブリティーって、忘れてない?」

 三者三様の反応を眺めた上でのみさとの言だ。やり玉に挙げられているのは、一人、異論を唱えてきた麻弥である。

「その人が舞姫に来るんだぞ。もっと出したっていいぐらいだ。きっと返ってくる。分のいい賭けだよ。これで理解してくれた?」

「シェリルの分は……?」

「鈍いなー。アーさまが尊敬してるシェリルの額を、アーさまより安くできるわけないでしょうが」

「あ。そうか。……その額って、中村さんはオーケーしてくれたのか?」

「あんた、一言居士か。まあ、いいけど。する以前の話よ。舞姫が、そんなお金、持ってるわけないでしょ。全額、カラーズで出すんだよ」

「え。お前、そんな、払えるのか!?」

「ばか。払えるから言ってるんでしょうが。二人だけじゃなくて、LBA勢は全員、カラーズで面倒を見るつもり。なんてったって銭になるのはLBA勢なんだよね。手放さないよ」

 孝子ならとっくにどやしているところだが、みさとは剛柔自在だ。適度な毒舌を交えつつ、麻弥をあしらっている。

「悪いやつだな」

「こちとら身銭を切ってるんだよ。上がりはしっかりもらわないとね」

「まあ、な」

 とうとうみさとの粘り勝ちとなった。苦笑を交わし合っている二人を眺めて、孝子も内心でこれに追従する。全く。

「神宮寺。こんな感じでよかった?」

「うん。その条件なら堂々と提示できるよ。二人の了解をもらったら、細部は、またお願いね」

「任された」

「じゃあ、最後、郷本君」

「はい。出発、六日の午後です。で、授賞式の翌日、一一日の便で帰国、と」

 随分と慌ただしい予定だ。理由は、尋道が解説してくれた。

「飛行機の都合が、その期間しか付かなかったそうで」

 妙な表現をする、と思った刹那だ。思い付いたことがあった。便の確定まで、妙に時間がかかったのは、もしかしたら倫世、自らが渡米したときに用いたビジネスジェットを、幼なじみのために手配すべく手を尽くしていたのではなかったか。

「郷本君」

「はい」

「六日は、この前の乗り場に行ったらいいの?」

「ご明察です。もう間に合いませんけど、僕もパスポート、取っておけばよかったですよ。一生に一度ぐらい、乗ってみたかった」

「それは残念でした」

 物問いたげな周囲への説明は尋道が担当した。

「川相倫世さん、なんと、神宮寺さんのためにビジネスジェットを飛ばしてくれるそうで」

「え。いいな」

 麻弥は目を見開いている。

「一緒に乗ってく?」

「もうチケット、剣崎さんが取ってるよ」

「キャンセル」

「いや。六日だと、早い。ホテルとか、いろいろ、困る」

 話題の幕引きを担ったのは、尋道によるさらなる説明だった。

「それに、川相倫世さん、シアルスに向かわれますしね」

「あ。シアルスか。移動が二度手間になるし、無理だな」

「そうですね。神宮寺さん。レザネフォル入りは、前日か当日で願いたい、と言付かってます。あまり長い間、川相さんを一人にしておけないそうで」

「あのやろう。のろけか」

 孝子のそしりは的外れであった。倫世の夫、川相一輝は、特級のぽんこつで、一人では何もできないとか。作り置きの食事を、ちゃんとレンジで温められるか、倫世は本気で心配しているらしい。そういう事情であれば、強行軍も、甘受するべきであったろう。

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