表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知標  作者: 一族
400/746

第三九九話 未来への序奏(一)

 月が変わって、いよいよ舞姫の体制づくりは本格的な始動をみた。井幡由佳里の合流が、その契機だった。ユニバースの終了から三カ月余りを経て、ようやく前所属先の男子プロバスケットボールチーム、東京EXAの引き継ぎ作業を終えたのだ。

「中小のチームは、どこも似たり寄ったりだと思いますけど、一人二役、三役、四役が当たり前になっていて、それの割り振りですね。とにかく難儀でした」

 その難儀も、ついに終わった、という。

「お待たせいたしました。舞姫の一員として、誠心誠意、努力してまいる所存です。何とぞ、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます」

 神奈川舞姫合同会社は、昨年度の時点で、中村憲彦の一人会社として成立こそしていたものの、実務家の不在により長らく休眠状態にあった。「神奈川舞姫、舞浜ロケッツ企業連携室」室長の伊東も、スポンサーやサプライヤーの紹介などで存在感を示してはいたが、なんといっても、よそのチームのことだ。勝手はできない。これは、舞姫の運営母体、カラーズのみさとあたりにも通ずる事情だった。舞姫中の実務家、井幡の登場が本格化につながるゆえんといえた。

 手始めとなるミーティングは、一二月最初の日曜日、その午前中に行われた。場所はSO101だ。参加者は、カラーズの四人に、静、春菜、美鈴、佳世、中村、井幡、彰ら計一一人である。狭小の部屋にすし詰めとなっている。

「相変わらず狭いのう。テレビが大き過ぎなんだよ」

 美鈴はびしりと窓際を指さした。カラーズの誇る六五インチが鎮座している。

「市井さん! あと少しの我慢ですよ!」

 唐突に、みさとが叫んだ。

「いきなり、どうした、みさっちゃん」

「二カ月!」

「二カ月?」

「なんと、launch padの舞姫館は、二月上旬の完成予定なのです!」

「ほう! だいぶ、早まりましたな。確か、前に聞いたときは、二月の末、と」

 うめいた中村に、みさとはピースサインを向ける。

「シーズン中のロケッツさんは、引っ越しなんてできっこない、って美幸さまが舞姫館を優先させたんです。ただ、そのおかげで、ロケッツ館は、ちょっと遅れちゃって、舞姫館に人が入ってからも、しばらく隣でトンカンが続くんですよね」

「それは仕方ないでしょうね。……二月か。そのころに向けて、私も引っ越しの準備を、ぼちぼち始めないとだ」

 ぶつぶつ言っていた井幡が、あっ、と声を上げた。

「そうだ。斎藤さん。スタッフの件は、どうなりました?」

 長沢美馬の離脱を受け、不足気味となったスタッフの補充を、舞浜大学女子バスケットボール部に依頼できないか、という案が持ち上がっていた。井幡が尋ねているのは、その首尾についてであった。

「何人か、舞姫に関わってみたい、って希望されてる部員さんがいらっしゃるそうなんです。で、後の話は、井幡さんと直接したい、と各務先生の伝言をお預かりしてます。ただ送り付けるんじゃなくて、実際に面談して、使えると思ったやつを連れていけば、って」

「わかりました。お二人とも、周旋、ありがとうございました。早速、週明けにでも各務先生をお訪ねして、いろいろ伺ってみますね」

「はい。よろしくお願いします」

「人がそろったら、がんがん動かないと。カラーズさんが持ってきてくれた企画に負けないようにね。カラーズ発と舞姫発で、ツインターボ!」

「でも、歌舞は、かなり強力ですよ」

 腕を撫す井幡の述懐に反応したのは美鈴だ。

「なんてったって、メインボーカルがいけてるからな!」

「一人だけレッスンを受けて、ひきょう者」

 口をとがらせたのは春菜だった。

「まずいですよ。このままでは舞姫の顔が美鈴さんになってしまいます。なんとかして、きゃつを駆逐しないと」

「駆逐するなよ。仲よくしようよ」

「嫌です。郷本さん」

「なんでしょうか」

「私、伊央さんにコーチしてるじゃないですか。それのバスケ版をやろうと思います。SNSで。構いませんか?」

 わざわざ確認したのは、尋道の提案により、カラーズはSNSの使用を控えている事実があったためだ。SNSの持つ負の側面に注目し、距離を置こう、という方針は、今日まで堅持されてきた。

「どうぞ」

 伊央との契約の際に、これは天才と天才の交渉、と孝子によって他の三人には申し送りがなされていた。凡俗に出る幕はない。口出しは無用とする。孝子の説いた天才の掌握術を、このとき、尋道は忠実に守ったのだ。説明が行き届いておらず、ちんぷんかんの美鈴たちは蚊帳の外だが、構うものではない。

 果たして、

「ありがとうございます。必ず、当ててご覧に入れますよ」

 春菜は莞爾と笑ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ