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未知標  作者: 一族
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第三九四話 さかまく火群(二四)

 孝子による個人レッスンの存在を静が知ったのは、参加を許可されなかった春菜と佳世から流れてきた情報によってだ。

 感想は、二人と、麻弥と、同一のものとなった。なぜ、美鈴だけなのか。なぜ、他を誘わないのか。自分だって受けておきたいのに。釈然としなかった。

 同じく舞姫で歌舞をやる予定の景と、ぶつぶつ言い合いながら帰宅してみると、普段は静よりも早く家に帰り着いている美鈴の姿がない。今日がレッスンの初日というが、その影響なのか。

「静。晩は、どうする?」

「美鈴さんを待つよ」

 美幸の確認に、静はそう答えた。

「お父さんも、まだ?」

 敷地内のロータリーに、父、隆行の車が見当たらなかったことからの問いだった。

「夜勤」

 隆行は舞浜大学病院に奉職する医師である。

「お医者さんは大変だ」

 リビングのソファに静と並んでいた景がつぶやいた。

「ね。小さいころ、遊んでもらった記憶ないよ。土日なんて、いつも寝てる」

「子供の情操面を考えたら、ああいうのを引っ掛けたのは失敗だったかもね」

 静は首をすくめてキッチンの母を見やった。

「でも、引っ掛けてなかったら、私たち、生まれてないし」

「それは、そうね」

 結果は、親子がそろっての苦笑となった。

「あ。珍しい。こんばんはー」

 静の帰宅に気付いた那美がLDKに顔を見せた。

「こんばんは」

「あれ。ジャージーは? まだ帰ってないの?」

 ジャージーとは、那美が奉った美鈴のニックネームだ。日がな一日、ジャージーを身に着けているさまが出典になっている。

「うん。まだ。お姉ちゃんに歌舞の個人レッスンをつけてもらってる」

「ケイちゃんが? それ、なんの話?」

 うわさをすれば影とやらで、パントリーの勝手口が開く音に続いて美鈴の声だ。

「ただいま帰りましたよ、っと」

 キッチンに姿を現した美鈴を那美が捕らえた。

「ジャージー。ケイちゃんの個人レッスンって、何?」

「ああ。ナーミは、舞姫の歌舞の話は、知ってるの?」

「話だけは」

「私、メインボーカルだし、早めに練習を始めておこうと思って、たーちゃんに頼んだ。いやあ、初っぱなから熱かったよ。超鍛えられた」

「どうせなら、私たちにも声を掛けてくれればよかったのに」

 よっぽど充実していたのだろう。喜々としてレッスンの模様を語る長口上が途切れるのを待って、静は口を開いた。立ち上がり、キッチンに向かう。

「スーちゃんや」

 迎えた美鈴は、なぜか渋い笑顔だった。

「春菜にも文句たれられたな。そこは完全に私の先走りだったけど、でも、結果的には一人でよかった、みたいな気がしてる」

「え……?」

「たーちゃん、やる気とか、気合いとか、すごく重視するタイプだよ。私に文句を言う暇があったら、たーちゃんのところに走って、自分も参加させて、って言わないと。スーちゃんも須之内も、春菜も池田も、そもそもの波長が、あの子と合ってないぞ」

 詰まる、しかない。義姉の気性なら美鈴の言ったとおりだ。静たちがレッスンに関わり合える可能性はゼロとなった。

「そうだ。スーちゃん。話は変わるんだけど」

 にわかに黙然となった静に美鈴は語り掛けてきた。

「はあ」

「免許、どこで取った? 近くに教習所あるん?」

「え? ああ、隣、長船に。でも、美鈴さん、免許、もう持ってますよね?」

「限定解除するんよ。たーちゃんといったらマニュアルでしょ。共通の話題を持ちたくってね」

 そういえば、神奈川ワタナベから提供を受けるとかいう自動車も、マニュアルトランスミッションと聞いた。カラーズの顔たる自分が、運転できない、では様になるまい。一石二鳥だ、と美鈴はまくし立てている。この積極性なのだろう。義姉とこの人とは、そもそもの波長が、合っているのだ。他が立ち入るのは極めて困難であるようだった。

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