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未知標  作者: 一族
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第三七六話 さかまく火群(六)

 翌朝、目覚めた尋道は行動を開始した。概要を記したメッセージを、孝子、麻弥、みさとに送付する。みさとが一番、スマートフォンにつれない孝子は気付かず、麻弥が彼女に伝達した上で、二番に返してくる、という順番の予想は完全に的中した。三人ともに色よい返事であった。

 カラーズ三人娘の了解を取り付けたところで、尋道は佐伯にメッセージを送った。またしても反応は早い。

「やあ。郷本君。どうだった?」

「オーケーですよ」

「おお。よかった。神宮寺さんは、なんて?」

「任せろ、むしろ、カラーズが全て引き受けてもいいぞ、だそうです」

「郷本君の言ったとおりに! あ。奥村君、予定どおりに今朝の飛行機で向こうにたったよ」

「奥村、出国の報がサッカー界を駆け巡ったようですね」

 関わり合いになる、と決まった以上、周到に情報の収集を開始している尋道だった。

「F.C.は、今日、オフなんだけど、気持ち、寮の中がざわついてる気がするよ。明日は大騒ぎだろうね。そうそう。奥村君に、僕だけじゃ手が足りない可能性もあるから、カラーズさんの力を借りるよ、って話したら、行くのをやめようとして、焦った。郷本君は、聞いてる? 奥村君が、神宮寺さんを、って話」

「知らないですね」

「高校のときに告白して、断られて、で諦めた、とは言ってるんだけど。そのくせ、カラーズさんが出てくる、って聞いて、えらく興奮してた。多分、奥村君、知らないよね。神宮寺さんが、かなり、きつい人、ってことは」

 そうだろう、とは思う。神宮寺孝子という女性は、うわべだけなら相当なものだった。容姿端麗、品行方正、学業優秀、と隙が見当たらない。奥村が思いを寄せているのは、おそらく、この孝子だ。恐ろしいほどに短気、強気の人ではあるまい。

「教えてあげてないんですか」

「神宮寺さんの悪口になっちゃうじゃん」

「確かに」

 失笑を挟んで次の話題だ。

「奥村君のお母さんに紹介したいんだけど。今日とか、どう?」

「ああ。オフなんでしたっけ」

「うん。急で申し訳ないんだけど」

「わかりました。僕は動けます。他の方たちにも、一応、声を掛けてみますよ」

 折よくカラーズ三人娘の都合は付いた。奥村宅のある碧区田鶴に在地の近いみさとは現地で合流し、それ以外の三人は佐伯が拾っていく、と決まった。

「奥村のおばさんって、どんな人?」

 奥村宅を目指す車内で、運転席の麻弥が声を発した。車は佐伯が乗ってきたミニバンだが、運転した経験のない車種だ、とハンドルを握らせてもらっているのだ。

「小動物みたいな人」

 佐伯は後部座席に深く腰を下ろしていた。四人家族の佐伯家では、母と妹の専用となっているキャプテンシートに、初めて座った、と座り心地を堪能している。

「小柄な方なの?」

 助手席の孝子が振り向いた。

「小柄は小柄だけど、やっぱり、性格かな。大きな声出したら、さっと逃げそうな感じ。すっごくシャイな人なんだ。初めて会ったときなんて、声が小さ過ぎて、耳を澄まさないと何を言ってるのか、よく聞こえなかったもの」

「ふうん」

 佐伯の評の正しさは、やがて明らかとなった。田鶴駅そばにそびえ立つグランタワー田鶴の四階、四〇三号室で四人と相対した奥村の母、加奈(かな)は、ぴくりとも動かない。初対面の四人を警戒しているのは、明らかだった。

「おばさま。実は、私たち、三人とも高校のとき、奥村君と三年間、同じクラスだったんですよ」

 口火を切ったのは孝子だ。

「奥村君たら佐伯君の存在を忘れていたらしいですけど、私は絶世の美少女なので、きっと覚えているはずです」

 かっと目をむいた孝子に、加奈はあぜんとしている。

「う、うん。本当に、きれいなお嬢さんたちで……」

「でも、顔だけですよ」

 混ぜっ返したのは尋道である。

「普通の人は、自分を指して、絶世の美少女なんて言ったりはしません。大きな声では言えませんが、明らかに性格に問題がありそうですよ。こういう人たちと交流を持つのも不安かと存じますので、ご用の際には、僕に一報ください」

「待った、郷さん。私は何も言ってないよ?」

 場の空気を和ますため、二人はべらべらとやっている、と悟ったみさとも加わってくる。

「いえ。さっき、おばさんが、きれいなお嬢さんたち、とおっしゃったので。お二人も、性格が悪いんだろうな、と」

「おばさん。こいつこそ、勝手に人を、性格悪い、って決め付けて。一番、性格に問題があるのは、絶対に郷本ですよ。信用しちゃ駄目」

 飛び火を覚悟していたとみえて、麻弥の反応も鋭い。

 陽気に騒ぐ四人に対して、ついに加奈が陥落したのは、それから三〇分後であった。

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