表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知標  作者: 一族
366/746

第三六五話 祭りばやし(二四)

 メダル授与式を見届けた孝子たちは、直ちに行動を開始した。尋道の読みどおり、バスケットマンたちは動きを見せない。一気に駐車場に出ると、懇親会に呼ばれているので、同行はここまでになる尋道に見送られて、三人は高鷲重工本社を後にした。手を振る尋道に那美があかんべえをしていたのは、懇親会に連れていけ、とねだるも拒絶されたためであった。

 鶴ヶ丘に戻った孝子は一直線に自室に向かった。興奮冷めやらぬ麻弥は、ぶつぶつと言っていたが、無視である。午前一時起きなのだ。さすがに眠かった。中村と広山の顔を見た。アメリカの美挙を見た。素晴らしい一戦だった。早起きしたかいはあったといえる。満足した孝子は安らかに眠りに落ちた。

 どれくらいの時間がたったのか、それは定かではなかった。呼ばれた、ような気がして、孝子ははっと覚醒した。枕元には那美がいた。腕にロンドを抱えている。

「呼んだ?」

「呼んではないんだけど。わんわんに、ケイちゃんを起こして、って頼んだら一緒に寝ようとしたから叱った」

「今、何時?」

「九時」

 睡眠時間は一時間強といったところだ。これ以上は、この後の生活に差し支えが発生する可能性がある。ころ合いといえた。孝子は起き上がった。

「麻弥ちゃんは?」

「帰った。ケイちゃんが寝て、少したったぐらいに。急に眠くなった、って」

 麻弥とて孝子と同じスケジュールで動いていたのだ。そうなるのが自然だった。

「那美ちゃんは、寝たの?」

「少し」

「そうだ。起こそうとした、ってことは、何か用だったんでしょう?」

「お母さんたち、帰ってくるって」

 美幸はみさとを引き連れ、舞浜市が主催するパブリックビューイングに参加していた。

「時間、だいぶかかったね」

「忙しかったみたいだよ」

 全日本の主力の一人といっていい神宮寺静の母親だ。祝福の嵐にさらされたのだろう。忙しくもなるはずだった。

「お疲れになってなければいいけど……」

 孝子の予想は、望ましくない方向で的中した。帰宅した美幸は、はっきりと顔に疲労がにじみ出るほどのやつれぶりであった。

「おばさま! しっかり!」

「眠い。気持ち悪いぐらい眠いの」

「もう、美幸さまったら、帰りの車の中でぐらい寝たらよかったのに、必死で起きてるんだよ」

 こちらは疲れ知らずで、艶々としたみさとだ。

「こんな時間に寝たら、起きるのが夕方になっちゃうでしょう」

「一二時になったら、容赦なくたたき起こします。寝ましょう。寝ましょう」

 美幸を寝室に放り込んだ後、孝子とみさとはLDKに戻った。

「そういえば、他の二人はどした?」

「麻弥ちゃんは、眠い、って帰った。郷本君は、桜田大の懇親会だかに呼ばれて、そっちに」

「了解ー。よし、ロンちゃん。お姉ちゃんと遊ぶぞ」

 みさとは那美と戯れているロンドの下に向かう。

「元気ね」

 ロンドと一緒になって跳ね回るみさとに、あきれ返った孝子の声だ。

「これぐらい、余裕だって。そっちは、どうだった?」

「重工体育館?」

「うん」

「すごい人出だった。重工の会長さんとか大手の役員とか、スポーツ省の大臣も来てたみたい」

「えっ!? あいさつした!?」

「私たち、市のパブリックビューイングに行ったていになってたでしょう。顔なんて出せないよ。郷本君は、あいさつした、って言ってたけど」

「こっちは、せいぜい舞浜市の市長だったしなあ」

 みさとは無念そうに、しばらくぼんやりだった。

「次は、多分、黒須さんも、そこまで力こぶは入れないよね。レザネフォルに、みんなで行かない?」

 次回のユニバースはレザネフォル市が、その舞台となる。

「賛成!」

 那美が立ち上がった。

「レザネフォルか。アートの家に泊めてもらえたら、なんとかなるかな、任せていい?」

「任された。ああ。そうだ。四年後の話もいいけど、取りあえずは、今日のお祝いをしないと。正村は、こっちの家でしょう?」

「うん」

「郷さんの行った懇親会、っていつごろまでやるんだろ?」

「さあ。スタートは一〇時、って言ってたけど」

「夕方なら大丈夫だな。電話しておこう」

 みさとはスマートフォンを取り出した。

「予約入れておかないと、あの人、直前に呼んでも来ない可能性がある」

 やがて、つながったようで、みさとは祝勝会について、べらべらと始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ