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未知標  作者: 一族
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第三四八話 祭りばやし(七)

「どうやら、ぽっさんに仲間ができたみたい」

「なんだよ」

 孝子が言い出した基佳の蔑称に麻弥が反応した。自分のことをくさすつもり、と気付いたのだ。

「ぽやちゃん」

 ぽっさんは、ぽんこつなもっさんの略だったが、ぽやちゃんは、ぽんこつな麻弥ちゃん、の略である。

「誰が、ぽや、だ!」

「片や、取材にかまけて寮の片付けをおろそかにした、ぽっさん。片や、車好きが高じてTPOをわきまえない、ぽやちゃん」

「お前も何かやったら、ぽか子、って呼ぶからな」

「許さん」

 たわいない二人の横では、みさとと尋道が額を集めている。

「福利厚生の一環として、社用車を従業員にシェアさせる、なんて制度もあるようですが」

「社用車はやめよう。余計なコストは背負い込みたくないし、事故られたら面倒。車を持つなら、あくまでも個人で持ってもらおう」

「さっき、軽はずみに手当、なんて言ってしまいましたが、全員、となると大変ですね」

「どうかな。不便は困る、でも、車に使う金はねえ、って人も、当然、いると思うんだよね。あと、ね。割と、免許は持ってないし、取る気もない、って人も。全員が全員、とはならない気がする」

「なるほど。車に対する意識調査を行う必要がありますね」

「八月の企業説明会のときにしよう。launch padは、まだできてないけど、周辺だけでも見てもらう機会を作って。意外と、自転車でもあれば生きていけそう、みたいな話も出てくるかも」

「では、当日のスケジュールを練り直しましょう」

 クラブチーム方式の運営を掲げる舞姫は、基本的に選手と所属契約のみ締結する。雇用については協賛企業の支援を仰ぐのだ。カラーズでは両者のマッチングを図る説明会を、ユニバース終了後の八月下旬に開催する予定としていた。そこに交通の便に関する実地見学を盛り込んでいく、という。「両輪」の額が、さらに接近した。

 一方、員数外の二人は、引き続き雑談にいそしむ。

「そうだ。麻弥ちゃん。もっさんの車、結局、どんなのを薦めたの?」

「ウェスタと同じくらいの、重工のSUVにした」

「その心は?」

「取り回しと乗り心地と、PHEVだし出先でパソコンとかの充電もできるんだ。あいつ、駆けずり回りそうだし、いいかな、と思って」

「それにする、って?」

「うん。そのうち乗り付けてくるだろ」

「おお。小早川さん、車を買うのか。いいなあ」

 ワークデスクの上のぺらに目を落としたまま、みさとが言った。

「お前も前に、欲しい、って言ってただろ。どうなった?」

「雪吹君みたいに卒業と就職の前祝いで買ってくれ、って親に頼んだら、うちを出ないんだったら買ってやる、だって。決裂した」

 不便な僻地、と彼女の言うところの舞浜市碧区碧北に生まれ育ったみさとは、実家からの脱出願望が旺盛だ。卒業したら家出、とは孝子たちもよく聞くみさとの口癖であった。

「あらら。どうするんだ?」

「手持ちで安いのを買うかな。五〇ぐらいで、なんとかなるかしらん」

「やめたほうがいいよ。麻弥ちゃんが乗ってた車、すぐに壊れたし、中古はお勧めしない」

「あれは、仕方ないだろう」

 麻弥がかつて所有していた車は、伯父の厚意で譲り受けたものだ。なんと、伯父と共に二〇年の長きを走り続けてきた古強者である。麻弥の元では、わずか一年足らずしか稼働しなかったが、これをもって、中古は壊れやすい、とするのはフェアな見解ではないだろう。

「でも、私の車は極端な例としても、安全装備とかのことを考えると、やっぱり、できるだけ新しいほうがいい、とは思う」

「じゃあ、新しいのを買ったらいい。私が出してもいいし、カラーズのお金を持っていってもいい。二人も。手弁当で、よくやってくれてる。それぐらい、いいんじゃない?」

 一瞬の静止を経て、みさとがこれ以上ないような前のめりだ。

「え! いくらまでオーケー!?」

「おい!」

「さすがにもらいはせんわ。贈与になるしな。でも、低利で貸してもらう、ってのはあり。神宮寺、私、借りるよ!」

「そうか。普通に渡しちゃったら、贈与になるんだ。つまらない」

「まあまあ。私たちに対する評価を、びりびり感じたよ。ありがとね。よし。お二人さんも借りるときは、私がきっちりした契約書を作ってあげますでな。言ってよ、言ってよ」

 結局、借り入れを申し込んできたのはみさとのみだった。麻弥は、返せるかどうか、と尻込みし、尋道は、車を買う予定がない、そうだ。親愛なるカラーズの朋輩たちの、それが選択となった。

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