第三二二話 回転扉(八)
アストロノーツが一連の高遠騒動、「中村塾」はオーストラリア遠征と、いろいろ慌ただしい陰で、カラーズは舞姫の体制づくりを進めている。主軸となるのは、もちろん、斎藤みさとだ。新潟行で得た知見を大いに示し、活動をリードしている。
この日、SO101でみさとがぶっているのは、クラブチーム的な人材確保の手法についてだった。
「とにかく徹底的に外部を使うんだね。チームが直接、抱えてる選手は一人もいなくて、全員、協賛企業に面倒を見てもらってるし、チームも専従スタッフっていうのが、本当に少ない。五人しかいないんだって。アストロノーツさんなんて、うじゃうじゃいるのにね。だから――」
ぐるりとみさとは室内の参加者を見渡した。
「当面は、中村さん、井幡さん、雪吹君、そして、長沢先生の四人でチームを回してもらって、手に余る仕事はロケッツさんに手伝ってもらうの。でも、いずれは、全部、自前で賄えるようになれたらいいね」
「しかし」
参加者の一人、山寺がうめく。みかん銀行シャイニング・サン継承を、カラーズに持ち込んだ張本人だ。経過の報告を兼ねて招いていた。
「長沢さんまで参加されるとは。舞姫さん、とてつもないチームになりつつありますね」
「別に、私一人、いようがいまいが」
このごろ、カラーズのミーティングへの参加が積極的な長沢は首を横に振った。祥子の度重なる背信行為に、げっそりした彼女だった。気分転換がてら話を聞かせてくれ、とぽつぽつ通ってくるのである。
「ああ。孝子。なかなか忙しいと思うけど、中村さんたちと話す機会、作ってよ。一年後に備えて、トレーナーの勉強を始めようと思うんだけど、そのあたり、確認しておきたいんだ」
「先生。指導はされないんですか?」
孝子は問うた。
「中村さんがいるなら、私の出る幕はない。あの人は、やっぱり、格が違うよ。私はトレーナー寄りで、雪吹がアナリスト寄りにやっていったら、ちょうどいい案配になると思うんだけど。中村さんは、どうお考えなのかな、って」
「長沢先生の指導が受けられないんじゃ、須之内さん、がっかりしますよ」
「え。須之内、舞姫なの?」
山寺が驚く。
「なんと、山寺さん。須之だけじゃなくて、静もなんだ。市井、北崎、静、須之ときて、遅れて池田も合流するし。で、あいつらを率いるのが、中村さんでしょ。舞姫、一〇年ぐらいはどこにも負けないかもしれませんよ」
「長沢さん。それは、いくらなんでも固め過ぎだ。もう少しばらけさせないと」
山寺は苦笑している。
「これはこれで、いいんじゃないですか? 二強もうかうかしてられなくなって。日本リーグに大地殻変動が起きますよ」
「確かに。今、名前の挙がった以外は、どうなってるんです? 舞姫さんが日本リーグに参加するのは、次の次、でしたね」
日本リーグの今シーズンと来シーズンは、舞姫の継承元であるみかん銀行シャイニング・サンが参加する。再来シーズンが舞姫の初陣で、それは、一年半よりもまだ先だ。
「そうなんです。そのシーズンのアーリーエントリーで、ハルちゃん。その次が、須之内さん。そのまた次に、池田さん。なので、初年度のはなにいるのは、市井さんと静ちゃんだけなんですよね。日本リーグの規定が一〇人以上の登録なので、最低でもあと八人は取らないと」
「めどは?」
「市井さんたちの口利きで、ナジョガクさん。カラーズとの産学連携で、舞浜大。これで、何人かは埋まるんですけど、残りは……」
「お役に立たせてもらえませんか?」
突如、山寺が名乗りを上げた。実業団のスカウトから漏れた学生や実業団で見切られた者に当たってみる、というのだ。創刊以来、五〇余年を数える老舗のコネクションを使えば、掘り出し物に巡り会える可能性は、大いにある。願ったりかなったりの申し出といえた。
「一つ、絶対に外せない要件があって。それを伝えていただかないといけないんですが」
孝子だ。歌舞の件である。
「はい」
「先方との兼ね合いもあって、まだ全容を明らかにするわけにはいかないんですよ。今、言えるのは、試合に勝ったら歌舞をする。歌って踊ってもらう、ってことだけで」
「は……?」
世の耳目を引くためのパフォーマンスだ、と尋道が補足した。
「ああ。なるほど。他のスポーツでも、たまにありますし、それ自体は問題にはならないでしょうが……」
「が?」
「大丈夫ですか? どの、とは言いませんが、私が見知っている、パフォーマンスをやっているスポーツの、それは、はっきり言って無様ですよ。ちんたらやって。あれなら、やらないほうがましなぐらいの」
「大丈夫です。真剣にやれば、間違いなく素晴らしいものになります」
「わかりました。必ず伝えます」
こうして徐々に舞姫を体を成していくのであった。




