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未知標  作者: 一族
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第三〇八話 舞姫(二三)

 麻弥の予言どおり、SO101にはみさとの姿があった。朝一の入りから詰め切って、現在は午後三時だ。相変わらずのスタミナである。

「買い込んできましたな」

 三人が抱え込んでいる沖縄土産を見て、みさとは目を丸くしている。

「車の中にも同じぐらいあるぞ」

「いくらでも持って帰ってくださいな」

「こりゃ、当分、茶菓子には困らないね」

 キャビネットの上に菓子の箱を積み上げながら、みさとはつぶやいた。

「ずっと一人か?」

「いや。さっきまでは郷さんもいたんだけど、逃げられたよ。入れ違いだったね」

「ああ。せめてお菓子、持って帰ってもらえたらよかった」

「どうせ、こき使ったんでしょ」

 孝子はみさとの肩先をつついた。

「いや。そんなつもりはなかったんだけど。乗りに乗っちゃって、つい。実際、がんがん、話が進んだんだよね」

 用意に想像できる気がした。この強壮な女の馬力と、逃げ出した蒲柳のたち気味の男の馬力とは、違い過ぎるのだ。いよいよ付いていけなくなった尋道が逃走したのだろう。

「ほどほどにしておかないと嫌われるよ」

「うん。徹夜させちゃったとき以来の罪悪感」

「全く。そうだ。もっさんなら、結構、やり合えるんじゃない? 斎藤さん。もっさんが舞姫の話を聞きたいって」

「ほい。了解。まずは、座って、座って。せっかくのお土産だし、つつかせてもらおうよ。みんな、コーヒーでいいかな?」

 ワークデスクの中央に沖縄土産の菓子が広げられた。孝子たちの分のコーヒーも供される。準備は、万端、整った。

「今は、舞姫のロードマップを練ってるところね。いや、まさか、会社ができる前に申請が通るとは思ってなかった。伊東さん、突っ走り過ぎよ。大慌て、大慌て」

 そんなことを言いつつも、カラーズのCOOは余裕綽々だ。

「幸い、中村さんは、全日本のヘッドコーチ以外、フリーで、すぐにこっちに参加してもらえるのね。だから、今月中には神奈川舞姫合同会社、立ち上げられるよ。法務は相良先生、財務は、引き続き、うちの親の事務所で見させてもらいます」

「お金は、どうするの?」

 孝子の問いに、みさとはウインクをしてみせた。

「カラーズで出すよ。いいよね」

「もちろん」

「斎藤さん。私、設立ドキュメンタリーを作りたいんだけど、協力してもらえますか?」

「どうぞん。あ。そうだ。だったら、小早川さん。一緒に新潟に行こうよ」

「新潟……?」

 舞姫の運営形態はクラブチームとなる。そして、日本リーグで唯一、クラブチームとして活動するのが、新潟県阿賀田市を本拠地とするゼネラルパワーリッカーズだ。クラブチームの実情を取材させてもらう狙いがある。

「行く。超興味ある」

 スポーツキャスターの卵は、即答だった。

「イエーイ。出張費、二人分、出してくれるよね?」

「出すよ。いいところ泊まって、おいしいもの食べておいでよ」

「よしよし。じゃあ、小早川さん。なんでも、聞いちゃって」

「あ。ちょっと待って。この組み合わせなら、長引くでしょう。私たち、家の買い出しに行ってきたいんだけど、いい?」

「え?」

「ああ。麻弥ちゃんは聞いていたい? じゃあ、私だけで行ってくるよ。もっさん、迎えに来るから、たっぷり取材してね」

 異論ありげだった麻弥を切り捨てて、孝子はSO101を出た。そうだ。買い出しはうそだ。買い物は計画的にしている孝子と麻弥だった。急な買い出しが必要になることなど、まずないのだが、それをみさとや基佳が知る由もない。その点を孝子はついた。

 元気者同士の一戦は、いつ果てるともなく続くはずだった。そんなものに付き合わされてはかなわない。そこに頭が回らぬとは、麻弥も、おろかだった。

 海の見える丘に戻った孝子は、たっぷり二時間、くつろいだ後に、SO101に戻った。果たしてみさとと基佳の一戦は継続中だ。傍らには、かの尋道氏と同様に、付いていけなくなった麻弥が、しかばねと化していた。言わんこっちゃない、と孝子はせせら笑うのでった。

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