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未知標  作者: 一族
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第三〇一話 舞姫(一六)

 長い一日の最後は、自分の誕生パーティーだ。なんで、そんな時間に、と尋道が言った開始時間は午後一〇時である。義妹ら「中村塾」組と舞浜大学病院の勤務医である養父、隆行の帰宅を考慮しての設定だ。

 孝子は尋道に同意する。こんな夜遅くにやるぐらいなら、もっと時間に余裕のある日にずらすか、いっそ、やらないか。そう、強く主張したいところであった。喜々として準備する養母に、言えるはずもないのだが。

 会場となる「本家」のぶち抜きで、孝子は、一人、ぽつねんとしていた。準備を手伝おうとして追い払われた。「中村塾」組と隆行は、まだ帰ってこない。

「ここー!」

 けたたましい那美の声が、部屋の外から聞こえてきた。ふすまが開いて、姿を見せたのは尋道だった。那美に案内されてきたようだ。一人だ。

「こんばんは」

「こんばんは。一葉さんは?」

「寝ました。あの人、早寝と夜更かしの差がひどいんですよ」

「あらら。遅くてごめんね」

「いえ。お一人ですか?」

「手伝おうとしたら、追っ払われて。暇なんです。お話に付き合って。舞姫の話をしよう」

「わかりました」

 尋道は孝子の隣に来て、腰を下ろした。

「今日で、一気に話が進んだね」

 舞浜ロケッツ社長、伊東との面談が済んだ後も、盛りだくさんであったのだ。

 重工体育館には井幡が来ていた。メインアリーナの隅に座り込んでいる四人を見掛けるや、すっ飛んできた。中村に運営会社の社長就任を承諾してもらった、と胸を張っている。

「さすが、仕事が早い。でも、こっちも負けてませんよ」

 受けて立ったみさとが、ロケッツとの連携を語るや、井幡は口走ったものだった。

「そんなの、もう、勝ったも同然じゃないですか」

 遅れて姿を見せた「中村塾」の面々から、舞姫への入団を希望する三人を呼び出し、碧町小学校の存在を告げ、さらには、尋道が抜かりなく撮影していた校内の様子を見せるや、大噴出となった。やはり、浴室代わりとなるプールの更衣室への評判は、散々だった。

「たーちゃん。勘弁して」

 と美鈴が言えば、

「こう見えて、私、きれい好きなんですよ」

 春菜は顔をしかめ、

「ここでお風呂に入るぐらいだったら、どこか、近くにお部屋を借ります」

 佳世に至っては、断固拒絶を、早々に言い出してきた。

 仕方ない。孝子とて、あの場所での入浴には、二の足を踏むだろう。伊東が連れていってくれるlaunch pad完成までの仮寓探しは、急務だった。

 四人が次に向かったのは舞浜大学千鶴キャンパスだ。産学連携の名の下に、施設を、特に、住環境を世話してもらえないか、と舞浜大学女子バスケットボール部監督、各務智恵子に打診するためであった。

「お前たちも手広いな。ついに、日本リーグか」

 驚き、あきれながらも、各務は協力を約束してくれた。チームの継承が成立した暁には、選手を紹介するであろう、というおまけまで付いた。

 すっかり話し込み、時刻は午後六時を回っていた。とくれば、孝子のアルバイト先の学協北ショップだ。閉店間際の店内には、風谷涼子と斯波遼太郎がいた。

「私の目を盗んでいちゃついていないか、見張りに来ました」

 勃発した押し合いへし合いのそばでは、みさとが産学連携センター所属の斯波に、舞姫への協力を要請している。もちろん快諾を得ていた。

「――ですね。早急に企画書を作って各務先生と斯波さんにお渡しできるようにしましょう。伊東さんとの折衝は、斎藤さんに担当していただくとして。各務先生が正村さん。斯波さんが神宮寺さん。これで、いいですかね」

「一人、何もしてない男がいるようですけど?」

「どの方とも、若干、距離があるんですよね、僕は」

「じゃあ、距離のない人との折衝をやらせてあげる」

「誰でしょう?」

「剣崎さん」

 新舞浜トーアの劇場で尋道が語った、めったにない場所の活用を、音楽家に相談してみたい、という考えだった。

「あ。確か、セールスシートには、トリニティが劇場の設計と施工を担当した、と書いてありましたね」

「うん。それで、思い付いた」

「わかりました。やってみましょう。時に、岡宮さんは、どうされるんですか?」

「どう、とは?」

「要請があった場合は、協力していただけますか? それとも、突っぱねますか?」

「劇場を使うなんて、絶対に大掛かりになるでしょうし。あの人も、私に用はないと思うけど」

「仮に、あった場合には?」

「カラーズの一大事業なんだよね。あまり、邪険にもできないのかな。マネに任せます。私が嫌な顔をするだろうな、ってことだけは断ってください」

「だいたい、全部だと思うんですが。僕は、どうしたら?」

 微少の間の後、二人して肩を震わせていると、玄関の引き戸が開く音がして、静と景がぶち抜きに姿を見せた。静によれば、同じタイミングで重工本社を出た麻弥の車は、信号運が悪かったらしく、途中でルームミラーから消えたそうである。隆行ともども、おいおいやってくるだろう。

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