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未知標  作者: 一族
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第二九二話 舞姫(七)

 ミーティングは、みさとの仕切りで始まった。

「順序立てていこうか。まずは日本リーグに正式な申請を行うでしょ。みかん銀行さんのチームを継承するに当たっては、当然、日本リーグが私たちにその資格のありやなしやの審査をするはずだよね。その目安を示してもらうんだ。それが、私たちの目指すべき最低限の目標になる。次に、ゼネラルパワーリッカーズさんとの連携を探りたい」

 補足の説明もみさとの弁舌がさえ渡る。シャイニング・サンを継承したチームの運営体制は、クラブチームになる予定だ。カラーズの規模では実業団を保持できないためである。日本リーグで唯一、クラブチームとして活動するゼネラルパワーリッカーズの実情は大いに参考になるはず、という考えは、なるほど、うなずけるものであった。

「この時期の新潟は、きっと、強烈に寒いね。でも、訪問がてら温泉のご褒美、って考えもあるかな。行こうぜ」

 ゼネラルパワーリッカーズの本拠地は新潟県阿賀田(あがた)市だ。

「一人で行って」

「僕も遠慮させていただきます」

「おい。冷たいな。正村は一緒に来てくれるよね?」

「え……?」

「君たち、さっきから斎藤君に任せっきりじゃないか。それぐらい付き合ってやったらどうだ?」

「いえ。遊びを絡めた私のミスでした」

 素早いみさとの収拾だった。ミーティングは再開する。クラブチームという形態が示された。では、動力源は、どうするか。セミプロの日本リーグにおいて、興行のみで利益を上げるのは、相当に難しそうだ。もちろん、可能性は追求していくが、当面は他の手段に頼るしかないだろう。

 スポンサーの確保は最優先で取り掛かるべき事項だった。彼らには選手の勤務先としての期待もある。開拓していかなければならない。カラーズが力を入れている物販も推していきたかった。

 先に挙げた以外のステークホルダーとも積極的に関わっていくべきだろう。例えば、準備段階で出てきた案だが、舞浜大学との産学連携は、どうだ。施設の利用や部員に協力を仰ぐことで、チーム運営のコスト削減が期待できる。見返りに提示できるのは、今のところチームの競技力ぐらいで、ここは悩ましい部分だが、ぜひとも実現にこぎ着けたい……。

「斎藤君。ここを使え」

 唐突に、黒須だった。

「ここ、とおっしゃいますと、こちらの体育館ですか?」

「そうだ」

 静は目を見張った。この体育館をカラーズのチームに提供しようというのか。黒須も言うことが大きい。

「バスケに関して、ここ以上の施設は日本にないはずだぞ。空いてるのは、どっちの階だった?」

 黒須は傍らの木村を見た。

「はっ。三階です。今は中村の下でやっている諸君に提供していますが、そちらの活動も年度いっぱいと聞いていますので、後は自由に使っていただけます。実は、つい何年か前まで、こちらには男子部も入っていたんですよ。それが、プロになったときに出ていきまして」

「逃げ出したんだ」

「逃げ出した? 詳しく伺ってもよろしいですか?」

「うん。あいつら、プロになったときに、別法人になってる。重工本体を出た以上は、ここも使用料を払ってもらう、って話になって。で、逃げやがった」

「高かったのでしょうか?」

「そう言ってたな。木村は、知ってるか?」

「具体的な金額は。問い合わせますか?」

「いえ。それでしたら、見積もりをいただきたいです」

「いらんよ。これぐらい受けてくれ」

「いけません。精査しないと断言はできませんけど、おそらくは、男子部すなわち舞浜ロケッツさんが忌避して退去したほどの金額が、重工さんからの利益供与と見なされて、当社にどんと来ます。法人税でつぶれます。おやめください」

 黒須が詰まった。

「なので、見積もりをお願いします。払えるようでしたら、ぜひ、お世話になりたいと思います」

「……君たちでは払えんぞ」

「はい。私もそう予想しております。残念です」

 みさとが再び黒須を詰まらせたところでミーティングは終了した。いつしか時刻は午後一時を過ぎていた。前倒して昼の休憩に入っていた「中村塾」およびアストロノーツは、午後の活動の準備に取り掛からなくてはならない時分だ。この点を、アストロノーツのスタッフが喚起してからの流れで、カラーズもオフィスへ引き上げとなったのである。黒須を筆頭に遺憾の念が各所で噴き出ていたし、静も先の展開を知りたく思ったが、練習をサボって首を突っ込むわけにもいかない。また実施する、よければ参加してほしい、と言ったみさとの言葉に期待させてもらうとしよう。

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