表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知標  作者: 一族
227/747

第二二六話 強風、ハロー(一八)

 着々と「中村塾」への覚悟と準備を進める静だったが、一方で、なかなか踏ん切れなかったのはエンジェルスへの報告だ。それはそうだろう。嫌悪感もあらわに、あの男をやっつける、と宣言し、チームメートたちの助力を得て、それを達成しているのだ。どの面下げて、というやつではないか。

 恐る恐る打ち明けた最初の相手のアーティには、

「……はあ? 呼ぶやつも呼ぶやつだけど、行くやつも行くやつね」

 とぺしゃんこにされた。

 げっそりとしながら静は、まずTHIセンターにフロントを訪ね、次いでチームメートたちへ報告する。

「あれだけのされて、それでも声を掛けてくるなんて。スーの勝ちじゃない」

 トレーニング前のミーティングで時間を割いてもらい、例のミスター・ナカムラと一緒にやることとなった旨を発表したところ、返ってきたのが、ヘッドコーチ、ノーマ・バリーの、この言葉だった。

「スー。あなたは、ミス……。誰だったっけ?」

「ナガサワ……?」

「そう。そのミス・ナガサワが正しかったことを、確かに証明したのよ。胸を張って。大威張りで行ったらいいわ」

 爆発したようなライトブラウンヘアをゆらゆらとさせながら、ノーマは両手の親指を突き上げている。

「いい気分でしょう、スー。スーにすがり付いてきた、ってことだもんね」

 静の隣に立っていた金髪お下げのコニー・エンディコットがしゃべりだした。

「まあ、ね」

「何を、甘っちょろいことを。私だったら相手が辞めない限りは絶対に許さないわよ」

「あなたなら、そうでしょうね」

 アーティとシェリルだ。ぴしゃりとアーティの世まい言を止めておいて、シェリルは静を見つめた。

「日本がユニバースに出てきたら、スーと真剣勝負ができるわね。スー、決勝で会いましょう」

「うん!」

 胸を張った静の周囲では、ぷっ、と噴き出す声が複数だ。

「ちょっとー。なんで笑うのー」

「だって、全日本って、五月に対戦した、あのチームでしょう? いくら、スーがいても……。サラマンドのミスはいるの?」

「加わるよ」

「そう。それでも、やっぱり、難しいんじゃないかしら?」

 ほほ笑みを浮かべながら、シェリルに次ぐベテランのデビー・スコットが静の肩を抱いた。

「じゃあ、デビー。ランチを賭ける?」

「いいわよ。全日本がユニバースの決勝に勝ち進んで、ステーツと戦えるか、どうか、ね? 私は、そうね、ベストエイト、って言ったら気を悪くさせちゃうかしら」

「ううん」

「私も交ぜてよ。私は、全日本、決勝まで来ると思うな。スーとミスがいれば、ステーツ以外には、そうそう負けっこないよ」

 コニーの参加を機に、チームメートたちも続々と声を上げる。だいたい半々でベットがされていった。過去の実績を考えれば、相当、気を遣ってくれている感じがして、ほほ笑ましい。

「アートは? シェリルもどう?」

 端で見守っていたアーティとシェリルは、コニーに声を掛けられたのと同時に笑いだした。

「どう、って。全日本が決勝まで来るに決まってるじゃない。しかし、スーもひどいわね。『cutie Sue』なんて呼ばれるだけのことはあるわ」

「え!?」

 二人を除き、静を含めた全員が困惑だ。

「スー。『機械仕掛けの春菜ハルナ・エクス・マーキナー』は? いるんでしょう?」

「あ」

 シェリルの指摘で気付いた。チームメートたちは五月に粉砕した全日本の姿しか知らないのだ。そこに静と美鈴が加わったところで、という考えは、ある程度、正しい。その彼女たちに『機械仕掛けの春菜ハルナ・エクス・マーキナー』の存在を告げることなく賭けを持ち掛けたのでは、「cutie」――抜け目がない、と言われるのも当然だ。

「いるのね?」

「いる。みんな、ごめん。賭けはなしにするよ」

「どういうこと? シェリル。『機械仕掛けの春菜ハルナ・エクス・マーキナー』って、何?」

 コニーの声に皆の視線がシェリルに集まった。

「皆は、知っているかしら? ハルナ・キタザキというプレーヤーのことを。日本人よ。今年の七月にあった世界大学スポーツ選手権大会で、ステーツのチームは、彼女一人に負けたわ。まるで機械のように正確な動きをする、本当に素晴らしいプレーヤーだわ。私は彼女を『機械仕掛け(エクス・マーキナー)』と呼んでいるの。彼女のいるチームが、私のいるステーツ以外に負けるとは、とても思えないわ」

 けんけんごうごうだ。トレーニングの後、アーティの依頼で世界大学スポーツ選手権大会バスケットボール女子決勝の映像をエディが持参して、急きょ、観戦となった。

 結果、満場一致で賭けの不成立が決まった。エンジェルスのつわものたちも春菜を認めたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ