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未知標  作者: 一族
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第二一八話 強風、ハロー(一〇)

 春菜の救出に動いたのは麻弥だ。帰宅するとLDKには仏頂面の孝子が一人でいる。春菜の姿は見えない。どうかしたのか。長期休暇中の海の見える丘で、夕方を過ぎても三人がそろっていないとは、極めて珍奇なことだった。聞けば、春菜を高鷲重工に置いてきた、らしい。それ以上は、ただしても、にらみ付けてくるだけで、らちが明かない。仕方なかった。唐突に出てきた高鷲重工の名など、まるでちんぷんかんぷんだが、まずは春菜だ。

 連絡を入れると子細が判明した。全日本女子バスケットボールチームのヘッドコーチ、中村憲彦との接触の過程で知り合ったという、黒須貴一とやらの言動にいらついていたのが火種となったらしい。そこへ、福岡県人の武藤瞳に春菜が無礼を働いたことで、大爆発につながったようだ。

「……お姉さん、怒っていらっしゃいますか?」

 ついぞ聞いたことがない、春菜のおずおずとした声だった。

「……怒ってる」

「……じゃあ、私、今日はこちらでおとなしくしてます。と、明日ですけど」

「明日?」

「いろいろとあるので、カラーズの皆さんにもお越しいただきたいんですよ。大丈夫ですか?」

 いろいろについてこまごまと聞き取った麻弥は春菜との通話を終えた。

 LDKに戻ると、依然、孝子の表情に変化はない。

「……春菜に電話した」

 返事はなかった。

「今日は、向こうでおとなしくしてる、って。で、春菜が言ってたんだけど、黒須さん、って人? 先方の話を信じるなら、誤解だったかも、だって」

「……何が」

「色目使ってきてるみたい、って話があったんだろ? お前が帰った後に、春菜が言ったらしいんだよ。そのせいで機嫌が悪かったんだぞ、って」

「……自分の振る舞いを棚に上げて、何を言ってるの、あの子は」

「まあ、それは、置いておいて」

 色目を使っているつもりはなかった、と黒須の釈明だ。目を掛けている後輩の窮地を救ってくれた孝子のけれん味に対する称賛と関心のみだったが、不快な思いをさせたのなら当方の不徳の致すところである。謝罪する、と彼は結んだとか。

「……それと、『中村塾』だかについての打ち合わせもやりたいんで、明日はカラーズ総出で来てほしい、ってさ」

「どうしてカラーズ」

「連盟の正式な活動じゃなくて、全日本のスタッフが使えないから、カラーズに手助けしてほしい、とか、そういう話らしい」

「ふうん」

 孝子が大仰に嘆息した。

「だいたい私は色目なんて、言ってないのに。なんだか知らないけど、妙に私にかかずらってきて、うざったい、とは言ったけど。あの人の言うとおりなら、私、とんだ面の皮じゃない」

「うん」

「私もあまり人のことは言えないけど、あの子は、外に出しちゃ駄目だね」

「松波先生も、そりゃ、心配するわけだよ。さて。出欠でも確認するか」

 急報を受けたカラーズ一同の中で、最速の動きを見せたのは「両輪」の一、郷本尋道であった。送ったメッセージに対して、もしも招集予定の者たちに、まだ春菜がコンタクトしていないなら、絶対に止めてほしい。斎藤みさとか自分かに任せてくれ。これだった。

「さすがというか。なんというか」

 尋道の返信を、麻弥は失笑しながら孝子に披露した。

「当然。おはるに任せたら面倒なことになるね」

「どうする?」

「手分け、ってことにしようか。おはるには、池田の佳世ちゃんを任せる、って言うよ。あの子なら、おはるに呼ばれれば、ほいほい来るでしょう」

「うん。市井さんと静は?」

「せっかく他薦と自薦があったんだし。二人に任せよう」

「どっちにどっちを任せる?」

 より難物は中村憲彦に激甚な拒絶反応を示す静だろう。さらに静には盟友の景という存在もいて、事態はより複雑となる。

「人選も含めて任せる」

 信頼感をあらわにして、孝子は「両輪」への一任を宣言したのだった。

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