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未知標  作者: 一族
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第二一五話 強風、ハロー(七)

 景を女子バスケ部に戻してからも、春菜は矢継ぎ早にゴールドメダルのための方策を打ち出していく。

「次は池田ですね」

「池田か……。松波先生は、どうして私に預けてくださらなかったんだろうか。私の権高なところを見抜かれていたのかな」

 那古野女学院高等学校の池田佳世もまた、全ての年代で全日本チームに参加経験がない。一八九センチの長身と規格外の身体能力を持つ逸材の不参加は、静や景と異なり、女子バスケットボール界の名伯楽、松波治雄の方針によるものだった。

「それだったら、ナジョガクの子は誰一人、中村さんのところに来ないことになりますよ。実は私が外には出さないようにお願いしていました」

「なぜ……!?」

「あんなのがいたら、若きエースとかいって、中心に据えたくなったりしませんか?」

「それは、なるさ。池田は、アーティ・ミューアにだって対抗できる逸材だろう」

「でも、それをやったらアウトです。あれは、へなちょこです」

「へなちょこ……?」

「そのままです。精神的にも肉体的にも、ぶつかり合いが死ぬほど嫌いで。ナジョガクでも、それが原因で辞めそうになったことがありましたし。褒めようと、すかそうと、無駄です。甘やかして、自由にやらせるしか、あれを生かす方法はありません」

「……そうか。それで、私には預けられない、と判断したか」

「違います。中村さんじゃなくても出しません。池田の性質を完全に理解しているのが私だけで、その私の言うことを無条件で信用してくれるのが松波先生だった、というだけです。どうですか。名将への精進、その二、として池田もうまくあしらってみてください」

「……やってみよう」

「ありがとうございます。池田への連絡は私がやりましょう。最後は瞳ちゃんですね。ところで、そちらは、連盟の黒須会長さん、ですよね?」

「おう」

 腕組みをして一連の流れを見やっていた黒須が応じた。

「ごあいさつが遅れまして、すみません」

「構わん。あいさつなんぞ、いつでもできる。物事には順序がある。今は、そっちの話が最優先だ」

「はい。そのように。……黒須会長は、高鷲重工の方ですよね?」

「そうだ」

「アストロノーツに顔は利きますか?」

「女子部か。もちろん」

「もうすぐ日本リーグが始まりますけど、瞳ちゃんを全日本に専念させるように、話を通していただけませんか?」

「ほう……?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、北崎。そういえば、確認していなかったが、『中村塾』というのは、いつやればいいんだ?」

 急き込んだ調子で中村が言った。

「これからです。日本リーグが始まれば、全日本の活動はほぼストップして、ヘッドコーチは暇になりますよね。その暇な時間で私たちに付き合ってください、という話です。LBAのスケジュールを考えると、春以降は向こうの人たち、使えなくなりますので。来年の春までが勝負になりますよ」

「そういうことか。わかった。女子部の武藤を中村のところに出せばいいんだな。確約しよう。任せてくれ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「……春菜。すると、部は休みにするか?」

 各務の問いに春菜は大きくうなずいた。

「はい。私と、あと、来るなら須之も、今シーズンは『中村塾』に専念させてください」

「ああ。ただ、池田には強要するなよ。高校の夏、秋、冬は重いぞ」

 夏は、全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会。秋は、国民体育大会。冬は、全国高等学校バスケットボール選手権大会。合わせて高校三冠と称される重要な大会である。

「池田はこちらを選びますよ」

「そりゃ、お前に言われれば、断ることなんてできんだろうよ」

 各務の表情はさえない。そこへ、

「おばあちゃん」

 孝子だった。見やってきた各務は失笑だ。

「もう一人のばばあに怒られたよ。わかった。春菜。思うさまにやってこい」

「はい。では、早速ですが、各務先生。『中村塾』の練習場所を提供していただけませんか。正式な全日本の活動でない以上、国立トレーニングセンターとかは使えないでしょうし」

「待て。うちのを使えばよかろう」

 発言の主は黒須だ。ということは、うちの、は高鷲重工の施設を指す。

「今から、見に来んか。武藤、だったか。女子部には俺が掛け合ってやる。本人には、北崎、お前が当たれ」

「へえ。アストロノーツの本拠地って、確か、すごい豪華なんですよね」

 ここらあたりまで、だろう。孝子は一歩を引いた。専門家たちの躍動に紛れ込むつもりはなかった。

「神宮寺君」

 不意に黒須が寄ってきた。

「君も、来んか?」

「私、ですか?」

「ああ。さっきは、見事だった。あれも」

 と黒須が示したのは中村だ。

「まんまとしてやられた。どうだ。たき付けた手前、もう少し付き合ってくれても、いいんじゃないか」

 一理ある、といえばある。部活を放っては行けない、と各務は同行しないようだ。春菜を一人でやるのも不安だった。

 もう少し付き合うのも、いい、か。

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