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未知標  作者: 一族
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第一六八話 四月の彼女たち(二)

 後になって思えば、アリソンの目は要所で美鈴に注がれていたようである。エンジェルスの新戦力としてではなく、ミーティアの新戦力として、どうか……? これを見定めていたのだろう。

 しかし、アーティあたりは、

「前から思ってたんだけど、アリーはエディに気があるんだわ。二人を口実にして、うちに顔を出したいだけなのよ」

 などと言って笑い、静と美鈴も追従してはしゃいでいたわけで、そろいもそろってではある。

「ドラフト、見ない?」

 その日は、LBAドラフトの当日だった。午後のワークアウトを終えた一同にアリソンの一声が飛んだ。

「……はあ?」

 LBAドラフトの対象者は、ほぼほぼがアーティの大嫌いな大学生だ。見る理由がないとは、アーティを知る者なら把握していそうなものだったが。

「興味ないわね。帰って一人で見たら?」

「そう? じゃあ、そうしようかな」

 つれない一言にもへらへらと笑みを浮かべてアリソンは去っていった。静ですら、妙な、と感じた態度だ。隣ではシェリルが大きな嘆息だった。

「……アリー。やったわね」

「シェリル。もしかして、ドラフトかな?」

「多分」

「何よ。どうしたの」

 アーティが二人の間に首を突っ込んできた。

「アーティ。アリーにしてやられたかも……!」

「うん? なんの話よ?」

「そうね。『クイーンアリー』、三巡目ぐらいなら、なんとかさせるでしょうね」

 大騒ぎとなった。アリソンに連絡を取れば、今は「ザ・スターゲイザー」に向かっている途中、という。ザ・スターゲイザーはレザネフォル・エンジェルスのホームアリーナで、総ガラス張りの天井からその名が取られた全米屈指の美観を誇る屋内競技場だ。見上げれば星空の「Stargazer」である。LBAドラフトは例年、このザ・スターゲイザーで開催されているのだった。

「ええ。三巡目でミスズを指名して、って頼んであるよ」

 四人は円になってジムの床に座り込み、スマートフォンのスピーカーを通じてアリソンとやり合っている。

「大した役者だったわね、アリー……!」

「あんまり早くに話しちゃうと、アートがジェフを脅すじゃない?」

「この盗人!」

「黙っているのはつらかったわよ。でも、もう、大丈夫ね。いくらアートでも、今からエンジェルスの指名は変えられないでしょうし。ああ、愉快、愉快。いいシューターをありがとう、エンジェルス、って言わせてもらうわ!」

「はあ!?」

「だって、そうでしょう。ミスズほどの選手をドラフト外で取ろうなんて、せこいまねをエンジェルスがしてくれたおかげで、ミーティアにチャンスが回ってきたわけだし。恨むなら編成の連中を恨みなさいな」

 憤怒の形相でアーティは唇をかむ。

「でも、アリーだって、私のドラフト指名は難しい、って言ってたんでしょう?」

 問いは美鈴だ。

「そうね。でも、実際にミスズのプレーを見て、その考えが間違いだった、って気付いたの。何事も自分で確認しないと駄目ね。ミスズ。私たちはリーグで一番のバックコートコンビになれるわ。ねえ。せっかくだし、ザ・スターゲイザーに……」

 アーティが床のスマートフォンを取った。アリソンの話の途中にもかかわらず通話を切る。

「なめるんじゃないわよ!」

 すぐさまの発信だ。

「ジェフ! ミスズがミーティアに盗まれる! アリーが三巡目にねじ込んだわ!」

 相手はエンジェルス球団社長のジェフことジェフリー・パターソンらしい。大声での数度のやりとりの後、アーティは立ち上がった。かっと目を見開き、

「あのクソ女! 目にもの見せてやる!」

 そうほえると、猛然と駆けだしていったのだった。

「シェリル!」

「追い掛けないと……!」

 立ち上がりかけた静と美鈴を、シェリルは手で示して座らせた。

「まずは、おめでとう、ミスズ。アートがあの勢いなら、まず一巡目は間違いないわ」

「ええっ……?」

「二人はLBAのドラフトの仕組みは知ってる?」

 それは、基本的には昨シーズンの下位チームから指名順を得るウエーバー方式を採る。ただし、上位指名権を得るための敗退行為を防ぐ策として、一巡目四位までは抽選で順位が決定されるのだ。最下位チームが必ず最上位で指名を行えるわけではない。これにより最下位の価値を減らすのである。

 現在、リーグ二連覇中のエンジェルスの指名順は、当然、最後だ。リーグ五番目の勝率だったミーティアは、逆順の八番目となる。つまり、エンジェルスの前には常にミーティアがいるのだ。これにより、ミーティアがその権利を行使するなら、エンジェルスに美鈴を指名することは不可能となる、のだが。

「一巡目の八位で私を……? それは、無理だ」

「そうね。ミーティアでは難しいでしょうね。でも、アートなら、たとえ一巡目の一位でもエンジェルスにミスズを取らせるわ。それぐらいエンジェルスにとってあの子は大きな存在なのよ」

 いずれにせよ、美鈴の指名は確実となった。行きつけの店を紹介するので、皆でドレスアップしてザ・スターゲイザーに向かうとしよう。シェリルの提案に静と美鈴はうなずくのだった。

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