表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知標  作者: 一族
166/745

第一六五話 私のために鐘は鳴る(一七)

 反応があったのは、Tシャツの発送から三日後の午後のことだ。荷物を預けたときに二、三日と説明を受けたので、予定どおりの到着といえる。荷送人をカラーズとしていたために、反応が返ってきたのもカラーズに対してであった。みさとがコミュニケーションツールに応答すると、画面には例のTシャツを着た静と美鈴が映る。

「お! 届いたか!」

「届いたよー! いいね、これ!」

「でしょ?」

「斎藤さん」

「あいよ」

「アーティが、話があるって」

「……はい?」

 なんとも返さないうちに、画面にはカラーズ謹製のTシャツを着たアーティが現れた。静と美鈴の間に割って入って、みさとに正対する。

「ハーイ。ミサト」

「ハ、ハーイ」

「頼みがあるんだけど」

 もちろん、アーティは英語で話し掛けてきている。

「頼みがある、って」

 遅れて静の通訳が入ったのだが、その時には恐慌を来したみさと、対面でカラーズ公式サイトの更新作業をしていた尋道を呼んでいた。

「郷さん! 郷さん! 来て!」

「はい」

 小走りにやってきた尋道が、画面の向こうに向かって手を上げた。

「ハーイ。ミス・ミューア。僕はヒロミチ・ゴウモトです。ヒロと呼んでください」

「オーケー、ヒロ。私はアートでいいわよ」

 ここまでのやりとりは英語だ。あっけにとられるみさとを、尋道は椅子ごと押しやって、ノートパソコンの正面に陣取る。

「オーケー、アート。どういった用件ですか?」

「このシャツ、私も欲しいんだけど」

 欲しいも何も、既にアーティは着込んでいる。正式に自分に宛てて送ってほしい、という意味ではないのだろう。

「アートのグラフィックシャツですね?」

「そう!」

「わかりました。お願いがあります」

「何?」

「資料にしたいので、アートのデータを送ってください」

「いいわよ」

「たくさん送ってください」

「オーケー」

「データを参考に描きます。きれいに撮れたデータを送ってくださいね」

「ヒロ。私を撮ったなら、それは全部きれいに決まってるじゃない」

 両手の親指を突き上げ、尋道は「Yeah」とやる。アーティも同じく返してきて、二人とも大笑だ。

「ヒロ。もう一つ、いい?」

「なんでしょう?」

「シャツと一緒に送ってきたアクセサリーがあるわね?」

「はい」

「あれも、欲しい。葉っぱのデザインが、すごく細かくて、素晴らしいわ」

 ひとひらの葉っぱは、一葉が自分の名をモチーフにして手掛けるオリジナルのデザインだ。

「実は、お送りしたアクセサリーは僕の姉の作品なんですよ。アートのために世界にただ一つのものを頼んで、お送りしますね。よろしければ、ご愛用ください」

「本当に! ヒロ、待ってるわ!」

 その後、しばしの談笑を経て、準備に取り掛かる、とアーティとの会話を終えた尋道は、

「ああ。緊張した」

 と天井を見上げている。

「ね。私も動揺しちゃって。思わず郷さんを呼んじゃったよ」

「やっぱり迫力ありますね」

「うん。ブロンドの威力はすごいわ」

「エディさんもブロンドですよ」

「エディさんは日本語が達者過ぎて、なんか違う。それにしても、郷さん。英語できたんだね。すごいじゃん!」

「洋楽のおかげですかね。ただ、リスニングはだいたい大丈夫でしたけど、返しは単語の羅列になってしまって。そこはもっと勉強しないといけませんね」

「洋楽かぁ。私も聞いてみようかな」

「聞くだけじゃ駄目ですよ」

「やる気をくじく、このつれない対応よ」

 みさとは自席に戻ろうとする尋道を追い掛け、体当たりを食らわせる。そのままコーヒーメーカーに向かい二人分を淹れると、片方のカップを尋道の前に置いた。

「ありがとうございます。しかし、斎藤さんのもくろみどおりになったじゃないですか」

「え? ああ、アーティが着てくれるかも、って話ね。うん。なんとなく、ああいうの好きかな、って。そうだ。郷さん、アクセサリーのことも話してた?」

「ええ。売り込んでおきました。世界の一葉さんになったら、お小遣いでもいただきましょうかね」

「いいね。そっちも、いい感じ」

「そうだ。正村さんに伝えないと」

 やがて、急展開に、はあ、と叫んだ麻弥の声が、尋道のスマートフォン越しにみさとの耳にも届いた。耳を押さえて顔をしかめている尋道に、申し訳ないな、と思いながらも、みさとは失笑しているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ