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未知標  作者: 一族
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第一四五話 加速度(一二)

 夜は「本家」での報告会兼祝賀会だ。招かれたのは、まず、各務智恵子、長沢美馬、野中主務ら静の恩人たち。次いで、須之内景、高遠祥子、伊澤まどか、そして雪吹彰ら静の友人たち。孝子以外のカラーズの面々も、もちろんいる。

 迎えるのは神宮寺家一同。仕出しはいつもの「英」である。こういうとき、日本家屋は便利だ。ふすまを取り払えば広いぶち抜きが完成する。ここに、今回は若い子も多いので、と「英」に拝借した大量の座椅子が運び込まれた。宴席の完成だ。

 会食の時間も程よく過ぎたころ、孝子が立ち上がると、周囲に一礼の後に、こう続けた。

「皆さま。ご歓談の途中でございますが、ここで妹よりレザネフォルでの活動についてのご報告をさせていただきたいと存じます。静ちゃん」

「うん」

 静とともに野中主務が動いた。舞浜大女子バスケ部から持ち出してきたプロジェクターとスクリーンを設置するためだ。

「いいよ」

 設置が済み、野中主務が静に告げる。

「はい。お願いします」

 映ったのはレザネフォル国際空港での静の姿だ。静が撮った写真と、伏見に提供された写真とを映しながら解説を加えていく、という手法である。

 LASUでの出来事。アーティ・ミューアとの出会い。

 ミューア家の人たちとの交流。特に、異様な日本びいきのエディ・ジュニアの存在。

「Ms.Basketball」、シェリル・クラウス。

 話題は尽きない。

 スクリーンに入団を決めた際の記念撮影の模様が映った。

「実は、これ、裏話があって」

 セレクションの直前だった。緊張に身を硬くする静の下に、LAシャインレッドのユニフォームを手にしたアーティが近づいてきたのだ。

「シズカ。背番号は『2』にしたわ! 私の次よ!」

 アーティの背番号は「1」である。

「それは、セレクションの前には、もう決まってた、ってことか?」

「はい。後で、ジェフが教えてくれました」

 ジェフことジェフリー・パターソンは、レザネフォル・エンジェルス球団社長だ。

「ばらすのが早過ぎる、ってシェリルは笑ってました」

「まあ、あの二人の推薦があるなら、エンジェルスもLBAも断らんだろうが。それにしても買われたものじゃないか」

「当然です。一流は一流を知るです」

「これはシーズンも期待できそうだ。夏に行くかな」

「よっしゃ。カラーズも行くぞ!」

 これを機に、私も、私も、と那美やまどかやらが騒ぎだして、収拾のつかないありさまとなってくる。うっ、と顔をしかめている静の頭を、各務の手のひらが、そっとなでた。

「安心しろ。まだ半年も先だ。半分も都合が付いたらいいほうだ」

「はい。各務先生は来てくださいますか?」

「私は何があっても行くさ。で、私の教え子だ、って言う」

「ちょっと、先生。何を言ってるんですか。私の教え子」

 各務の隣に座っていた長沢が口をとがらせた。

「高校教師は忙しいですからなあ。お前は来られないでしょうなあ。名将各務の誤報が全米を駆け巡りますなあ。あっはっは」

「このおばはんは……」

 師弟同士のいがみ合いに、周囲は大きな盛り上がりである。やがて、どちらからともなくの破顔で休戦となった後、長沢が言った。

「静。次を見せて」

「はい」

 静の返事と同時に、野中主務の操作でスクリーンが切り替わった。写真の並びは、セレクションをハイライトとなるよう構成されていたので、残りの枚数は多くない。宴も既にたけなわ、といったあたりだ。

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