僕は大馬鹿だ!
試しに交互に視点を動かしてみる。ハッキリ言って中々に難しい。......封印しておこう。
僕はカナメが貸したハルバードを持って親玉の所へ向かう。敵の場所は分かってる。この村を出て直ぐの森にいる。森の奥に逃げられる前に倒す!
「にしても、本当にバカだな!僕もカナメも...!」
ああ、本当にバカだよ。勇者ともあろうものが、足を挫いて動けない彼女を1人置いてくなんて。本当にバカなんじゃないか?彼女...カナメも自分から置いていけなんて言うとはね。確かにカナメには神がついているけど。
「見えた。あいつか!」
「勇者か...?」
「この声、前魔王の手下か!?」
カナメを1人にするべきじゃなかった。
前魔王の手下が何故ここにいるのかはもういいさ。問題はあいつが操る人や物は通常より強化される。それ事態は普通だ。
ならなんで問題になるのかと言えば、限界を壊して更にその上に強化を重ね続けるからだ。そうなれば体は壊れ、最後には死が口を開く。
「悪いけど、カナメの為に死んでもらうよ」
「あの時と似たような事を言うんですね?まぁ良いです。私はあの時とは違いますから」
知ってるよ。こいつは前魔王の手下、死霊魔術師。つまり、ネクロマンサーだ。速攻で倒さないと。
「逃がさないぞ。ネクロマンサー」
「逃げますとも。勇者グエンドリン」
「進め、蜂達よ!」
一斉に蜂たちが村人に襲いかかる。どういうわけか知らないけど、蜂の針から出るものは猛毒だけではないようでさ。つまり相手に刺すと、こうなる。
「う、......ぐぅ」
「よし、寝た!これなら行けそう」
大量の蜂が人に襲いかかる光景はホラーだ。
とにかく大量の蜂を村人に向けて、それでもこっちに来たやつはジンジャーが対象する。つまり中身が強制交代となる。
そして意外にもそれはすぐに来た。
「おらあ!!」
「っ、吹き飛べ!」
俺もといジンジャーがそう叫ぶと、前に突き出した右手から衝撃波が発生した。
「痛ったぁ......!!」
あだだだ!!? 衝撃波が自分にも来たんだけど!って、まだこいつら来るのか?どれだけタフなんだこいつら!さっきの衝撃波なんてまともに受けたら吹っ飛ぶぐらいなのに。
「魔王様...。大地よ、敵を飲み込め!」
ジンジャーが短めの詠唱をすると、今度は地面にぽっかりと大きな穴が空いた。そして周りにいた村人達を吸い込んでいる。おい、殺してないだろうな!
「そんな事しないわよ!...っつぅ、まずは足を治すべきね...ヒール」
おお?痛みが引いてるのか?
「はぁ、散々ね。でもやっと攻撃に出れる」
て?ちょ、待て待て。体の主導権俺に返せや!え?嫌だじゃねぇわ!このバカ!あぁもう。次来てるぞ!
「はいはい分かってるから!スピードスター!」
「聖なる一撃を受けよ!エンジェルランス!」
「さぁ行け。なに、死を恐れることはない。貴様らは既に死んでいるのだからな」
ハルバードを前に突き出すと、白く耀き前方のアンデッドを浄化していく。でも、あぁ。倒しても倒してもキリがない!雑魚は直ぐに復活するし、ネクロマンサーにダメージを与えたとしても、こっちが先にスタミナ切れで倒れるだろうな。本当に面倒な奴だ。
「うむ....向こうはあまりよろしくないですね。逃げるとしましょう」
「っ!クリスタルボム!」
咄嗟に爆弾を飛ばしたけど、煙が晴れた時にはあいつの姿はなかった。逃げられたか....回りの雑魚も勝手に倒れて消えていった。
何なんだ?それに何となく見逃されたみたいな気がしてムカつく。でも今は我慢。
「あいつが消えたならカナメの所に戻らないと」
あれ?ジンジャーが無双してたら、相手の村人が勝手に倒れていってる?もしかしてグエンがやってくれたのか!
「落ち着きなさいよ。取り敢えず体返すから、この蜂達戻してあげて」
あいよー!そう返事すると体を動かせるようになった。別に一々口に出さずとも念じれば蜂達は帰ってく。あーばよー。
「カナメー!」
「あ、グエン!」
「大丈夫だったかい!怪我してない!?」
わー!?どうしたんだ、グエン?急にお母さんみたいな事言うなんて。
「お、お母さん...!?」
何故狼狽えているんだ。それより村人はどうなったんだ?後ろを見てみるとほとんど地面に寝転がっているが、何人かは起きあがっている。凄い根性だ...。
「置いていってゴメンね、本当に大丈夫だった?」
「うん。心配してくれてありがとう、グエン!」
にしても、だ。ずっと戦っていたからもう朝になってしまったな。どうしよう...もう終わったんだ~と思ったら、気が抜けて眠気が一気に...。
「ワープ、じゃなくてもいいか。カナメ、ありがとう。もう休んでいいよ」
「うん...お休み、グエン......くぅ」
間が空いて何か変わったか気がする。何だろう?