第8話 ウチのボスモンスターは一癖も二癖もある
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「ジョーぢゃんがだべられぢゃっだよぉ〜!!!」
というイアンの訴えにより慌てて第一階層に転移した。
リット爺はする事がないから連れてけ、としがみつかれた。骸骨に乗っかられるとかどんなホラーシーンだよ。誰得だ。
にしてもジョーちゃんねー男なのか女なのか分からんな。こんな名前付けたかな。
「ほう、第一階層は迷路かい。センスいいの〜。」
「そりゃどうも。つーかいい加減降りてください。」
「けち臭いやっちゃな。全くお前は危機感が足りんぞよ。ダンジョンマスターが普通にダンジョン内を歩くとは…。」
「だってまだ開いてないですし。冒険者なんて来ませんよ。」
「は?」
あー準備期間なんてもんがあるのを知らないのか。
「ま、待て待て、ここは出来立てホヤホヤのダンジョンってことかいな?」
「まだ開いてすらないですけどね。そういう事になります。」
「しょ、初心者で【死霊魔導師】を召喚やと!?」
ん?なんか固まってんな。ま、いいか。それより泣きじゃくっているイアンの方を何とかしなくては。
「それで?そのジョーちゃんがどうしたんだ?」
「ヒッふぇっ、あ、あの子が食べちゃったんですぅ〜」
イアンが指さした先にはどこかで見たことのあるような毒々しい赤色をした、スライムがいた。
……どこで見たんだっけ…?
……………あ!あいつだ、ジョ○ズだ!食人魔植物の!【真紅鮫花】っていう植物の!謎が解けた。(スッキリ)
いや待て、そこじゃねぇよ。
食った?アレを?
「え?スライムが?食べちゃったの?あの鮫を?んな馬鹿な。」
『マスター。事実だと推測されます。微ですがあのスライムからジョ○ズの魔力を感じられます。』
「おうふ……」
レットさんが言うんなら食べちゃったんですね。マジでか。スッゲェな、おい。スライム最強説か。
「うぅぅ…ジョーちゃんがぁ…ジョーちゃんがぁ…」
イアン、お前そんなに可愛がってたんか。いや、ドライアドなら普通なのか?
と、とにかくこっちのスライムの話を聞かないとな。双方の言い分をしっかり聞いた上で判断しないと。
「えーと、お前はなんでジョ○ズを食べちゃったんだ?」
「……ピュイ(う、羨ましかったんです…)」
「羨ましい?」
「…ピュイ(…は、はい。)」
この赤いスライムは俺が召喚した内の実験しなかった普通のスライムで、実験して新たな進化を遂げたスライム達が羨ましかったらしい。
「ピュイ、ピュ、ピュイ(お、俺もマスターの役に立ちたくて、それで……)」
「そうか…おい、他のみんなもそうなのか?」
「ピュイ(そうだよー。)」
みんなを代表してライムが答えた。そういや、リーダーのライムも普通のスライムだったな。
俺としてはこいつらには純粋な戦闘力を身につけて欲しかったんだよなぁ。こう、キングスライム!みたいな進化先があるかと思って。
それを伝えなかった俺にも責任があるわけで。
ちゃんと纏めないとな、俺はマスターなんだから。
あんまりこういう学級委員的な立場好きじゃないんだけどな。
「レットさん、こいつは進化したっぽいけど種族名は?」
『これも新種認定ですね。【血鮫粘着体】です。』
「そっか。イアン、俺の監督不行き届きだ。今回はこいつを責めないで欲しい。責めるなら俺にしろ。」
「ピュ、ピュイ!(ま、マスターは悪くないですよ!俺が!)」
「マスター責めるなんて出来ませんよ!」
俺には勿体無いぐらいの良い部下だなぁ。俺恵まれてるわ。
「じゃあ、今回はおあいこってことにしないか?こいつがジョ○ズの魔力を継いでるってことはこの中にジョ○ズが生きてるってことだ。合体したんだよ。」
「ジョーちゃんが生きてる?」
「あぁ、つー訳だからお前の名前はジョーちゃんな。」
「ピュイ(はい!ジョーちゃんです!い、イアンさん、すみませんでした…。)」
「…うん、許してあげるよ。これから一緒に頑張っていく仲間なんだから。」
「よしよし。ジョーちゃんもイアンもこれから仲良くしてな。」
……頼む、ジョ○ズ、生きててくれ。溶けてしまったとしても俺はお前が生きてると信じてる。
んー今回は価値観の違いだな。俺だってイアンのように植物に感情移入できる訳じゃないし。それは新・ジョーちゃんにも言えるな。草を食べただけなんだろ。……本当にあの殺人植物をどうやって食べたんだ?
後は進化してない普通のスライム達だな。こいつらも進化したいんだろうし。しかもそれがただ強くなりたいってだけならまだしも、俺のために強くなりたいって言うんだもんなぁ。無視できないことだ。
「えーと、お前らの進化先に関しては考えておくから当分はゴブ達と訓練しててくれ。第二階層で引きずり込む練習な。」
「ピュイ(分かった〜でも、早めにね〜)」
「ああ、気付いてやれなくてごめんな。他のみんなもなんか不満があったら遠慮なく言ってくれなー。」
『お疲れ様です、マスター。』
「おー。」
大所帯になってきたし種族が違うんだから価値観も意見も違う。ちゃんと見てやらないとダメだな。反省反省。
イアンとジョーちゃんは仲良くなったのか2人で迷路の方に歩いて行った。
ライム達は第二階層へ。
この場に残ったのはリット爺と俺とレットさん。
今更ながらリット爺とレットさんって名前似てるよな。どうでも良いけど。
「リット爺。この後なんだけど……」
「…………」
「?おーい、リット爺?」
「いいのお…」
「は?」
イアン達が立ち去った方を見つめ、呟くリット爺。
若干頬が染まってる気がする。骸骨に頬を染めるって概念があるかどうか微妙なとこだけどさ。
「あのドライアドよ…」
「イアンがどうしたんですか?言っときますけど手を出したら墓地に埋めてお墓立てますからね。」
「酷いんだか、優しいんだか、分からんな。手を出すなんてある訳ないやんけ。信用ないのぅ。」
「じゃあ、なんだって言うんですか。」
「孫に欲しい。」
「……………」
何言ってんだ、このジジイ。
思わず二度見してしまった。
「え、死霊魔法でも掛けて同じ骸骨にするんですか?やめてくださいよ。今のが一番可愛いのに。」
「なんつー恐ろしい想像しとんやのお前は。イアンやったか?あのまんまで孫に欲しいんやよ。」
「リット爺、孫いないんすか。」
「ああ、うちのバカ息子、結婚もせずにふらふら遊び歩きおって…おかげで孫の顔も見ずに死んでしもうたよ。」
それで、イアンが気に入ったので孫にしたいと。
……いや、欲しいからなれるもんではない気がするけど…。
「ああ、あの優しい心、植物をいたわる気持ち。」
「ドライアドですからね。習性というか本能というか。」
「友を愛し、主への純粋な忠誠心……どれもこれも理想やんよ!」
どうしよう、気持ち悪い。
骸骨がくねくねしながら悶えている姿を想像してみて欲しい。
気持ち悪い。見た目が骸骨じゃなくても気持ち悪いような気はするけど。
でも、モチベアップのツボは見つけた。
後でイアンに「お爺ちゃん、頑張れ!」って言ってもらおう。
「じゃあ、イアンに認めてもらえるよう頑張りましょう。ね?」
「ああ!任せんしゃい!」
「では、早速…【屍】、【骸骨人】を作りましょう。」
「?死体はないやんけ。まだ冒険者も野生の動物も来とらんのやろ?」
「ええ、ですから買おうと思って。」
「はぁ?死体が売っとんのかいな?」
「まぁ、完全体ではないですけど。」
「?」
レットさんにマーケットを出してもらう。
うーこーゆーのあんまり好きじゃないんだけどな…でも、死体って言ったらこれぐらいしか思いつかん。
「これ、皮だけなんですけど、使えます?」
「なんやの、これは…」
「剥製と言って動物の死体の皮を剥いで腐らせないようにしたものです。」
「グロいこと考えるんやの…こりゃあ怨念こもってそうやわ。流石に皮だけだとどうなるか分からんけどやって見るやんよ。」
「お願いします。あ、後魚だったら普通に手に入るんで捌いて持ってきます。」
「分かったよい。」
色々な剥製を購入しリット爺に渡す。割とでかいサイズのものもあったので第三階層に転移させた。
ううーこいつらリアルだからヤダわ。
俺この後冒険者とか殺さないといけないんだけど大丈夫なのか…。
他にマグロなどを購入し頑張って解体しようとしたんだけど無理だった。技術云々の前に力が足りなかった。
モンスターの中に得意なやつ居ないかなーと声をかけたら、サハギン達のうちの1人が主食は魚なので出来ます!とやってくれた。その前に1人でいいよーと言ったため誰がやるかで一悶着あった。他の4人はトリスの元へ項垂れて戻って行った。哀愁漂ってたな〜。
マグロの骨を取り出しリット爺に【骸骨人】にしてもらった。空を泳いでるのにはビックリした。
「せっかくマグロ買ったんだからみんなで食べるか。贅沢だな〜。」
大量に買ったマグロを消費するのだから味付けを変えないとな…。
定番の寿司、刺身、ほほ肉の煮込みシチュー。これはデミグラスソースとトマト缶が合うんだよなぁ。魚の臭みを消すためにコショウ多めにして〜うう匂いでやられる。
カマトロは炙って丼に。ガスバーナーで表面を炙って麺つゆかけてネギを乗っけて完成。香ばしくて脂乗ってるわー。
テールはステーキに、と。バターとニンニク、醤油で味付け〜。単純な味付けでも美味そうだわ。
希少部位の脳天はユッケにしよう。青ネギを混ぜて、卵黄乗っけて焼肉のタレを回しかける。白飯と合うんだよなぁ。
「という訳で本日はマグロパーティー兼リット爺、第二階層メンバーの歓迎会だ!呑んで食べて騒ぐぞー!」
「グルオアアアア!!!」
例にしてトリスの雄叫びて始まった。
…多分こいつの飯の量は足んねーんだよなぁ。もう、俺作る気しねーよ。
さてと俺も食べよう。
大トロなんて滅多に食べれるもんじゃないからな。くああ〜〜うまぁ。マーケットの商品が安くて助かったわ。
「じゅわ〜と口の中で蕩けて、それでいて歯応えもしっかりある。噛むたびにくどくない脂が溢れてくる…。シンプルな旨味がガツンと来ますっ…!」
「オーガット、お前食レポに目覚めたのか。」
隣で解説しているのは鬼人のオーガット。人型の姿はまごう事なきイケメンである。爆ぜろ。
つか、食レポ上手だな。より腹減るぞ。
「ん〜美味しいですね〜。お魚初めて食べたんですけど。」
「ピュイ(美味いです。マスター。)」
「おーイアンとジョーちゃんか。」
イアンの膝の上にジョーちゃんを乗っけて丼をかっこんでいる。そして、それを見つめる変態もとい骸骨もといリット爺がいた。…話しかけたくても話しかけられない感じだな。じーさんが照れんなよ。仕方ない、ひと肌脱いでやるか。
「イアン、ジョーちゃん、リット爺の歓迎会でもあるからさ。話しかけてこいよ。あ、お爺ちゃん、って呼んでな。」
「はい!お爺ちゃん、ですね。」
「ピュイ!(はい!)」
スタタタと去っていく小さな背中を見送る。ジョーちゃん抱えてるけど、重くないんかなスライムって。
リット爺に何やらイアンが満面の笑みで話しかけている。全く、感謝しろよー。
ガシャン!
「は?」
物音がしてイアン達の方を見ると、リット爺がただの骨になっていた。正確には骨が散らばっているというか。
…え?
「お、おいどうした?」
「わ、分かりません…ただ、これから一緒に頑張りましょう、お爺ちゃんって声掛けただけなんですけど…。」
「あ、あー」
ご老体には刺激がキツかったのか…。
「我が生涯に一片の悔いなしっ…!」
「名ゼリフこんなとこに使わんでください。殺されますよ。いいから起きて下さい。イアンが泣きそうなんで。」
「はっ!すまんの〜ちょっと嬉しかっただけなんよ〜。」
…いちばん最初に感じた風格皆無だな、おい。
ただの孫好きの爺さんじゃねーか…。ウチのボスモンスターは一癖も二癖もあるな。
何故か途中から真面目にマグロ料理について書いてしまってましたw
本当に美味しいんですよね。近所の小学校の夏祭りでマグロの解体ショーをやってるので、今年の夏も食べに行きました。タダって素晴らしい。




