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第34話 勝利の女神が微笑む先は

お久しぶりです。

新作の投稿とともに続きを作成しました。

今回は第三者目線で物語が進んでいきます。読みづらいとは思いますがよろしくお願いします。



落とし穴の先の巨大空間の四隅には石でできた灯篭が立っており、ひとりでにその灯りをともした。壁に埋められた球体のランプにも明かりがつき佇む女の姿を照らす。

赤い長髪はトリスの咆哮を受けてなびき、口元は弧を描くようにゆがんだ。


「お前が、いちばん、つよい?」


あいさつ代わりにとでも言うように迷宮の大半を破壊した突きを放った。

空気が裂かれ、魔力の渦がトリスへと向かう。


トリスはそれをかわすでもなく受け止めるでもなく


「ウグガアアアアアアアアアッッツツ」


女の放った突きと同じ要領で咆哮に魔力を乗せ


かき消した。


再び静寂が落ちる。

そんな中、唐突に女が狂ったように笑い出した。


「はは、あはっ、あははははははっ!」


女の声はまだまだ続く。


「愉しい、愉しい、そう、コレだ、コレェぇエエエええエエアアああああああ」


ほほを染めて、それこそ恋人に会った時のようにうっとりと目を潤ませてトリスに向かって駆け出した。

手に持ったレイピアと、トリスの黒い翼が火花を散らしてかち合う。

特殊な魔力に覆われているはずの灯篭に亀裂が走り、地面がえぐれる。


どれだけ打ち合っていただろう。


女の鎧には無数の傷があり、美しかった純白の翼は抜け落ち、トリスの黒い羽と混ざり合い地面に落ちている。そんなことはどうでもいいとでも言うようにレイピア、翼までもを縦横無尽に繰り出す。その間にも興奮したように何事かをつぶやきながら。


「もっと、もっと、もっト、モッ」


しかし、つぶやきは途中で止まる。

トリスのみに集中していた女は後ろから忍び寄る気配に気づくことはなかった。


「え、あ、」


ぶっと、口から血を吹き出す。

原因を見ようとゆっくりとその眼が動く。


脇腹にかみつく二匹の青い龍。

トリスのしっぽの龍は彼女の隙を地中から狙っていたのだ。


その存在を認めた瞬間、女の体は文字通り石になった。


トリスの石化だ。一定の時間見つめ続けたものを石化する驚異の能力である。


バキンッ!


そして、トリスは油断なく石像となった女の体を砕いた。何度も何度も。

戦闘狂のきらいがあるトリスでさえ、あの打ち合いの中で死を感じた。恐怖を感じた。

粉々に、ほとんど砂粒の状態になってトリスは砕くのをやめて、背を向けた。


「残念、デシタ。」


ドシュッ、グチャッ


赤黒いものが壁や床に飛び散る。


トリスの右半身は引きちぎられたように大穴が開いていた。


ぽっかりと。




「グゴアアアアアアアアアアアア」




ダンジョンを揺るがす断末魔。


ぐらりとその巨体が傾き自身の血の海にその身を投げ出す。


「愉しい、愉しかった、でも足りない、お前じゃ、届かない、あの人に、トドカナイ」


虫の息の体にとどめを刺そうとレイピアを振り上げた。


その時、

トリスの体がまばゆいばかりの光を放った。


「ぐ、何…!?」


光とともに強力な魔力まで放つ。そのパワーに押され後ずさる。


サアアアアアアアァァァァアアア


光が晴れ、姿を現す。


雄鶏の面影はなくなり、紫色のうろこを持った大蛇。鋭い金色の目の間には縦に開く翡翠の瞳の第三の目。2本の黒々とした角と、大きな口から覗く細く長い真っ赤な舌。背中には立派な二対の翼が生えていた。


バジリスク。


太古から蛇の化け物として恐れられてきたが、トリスの新たな姿は翼竜と言われてもおかしくないほどだった。


「やられて進化する、なんて」


「ガアアアアアアアアアアアア!!!!」


トリスの口から放たれた咆哮をほとんど野生の勘だけでよける。

女が先ほどまでいた場所は黒く染まり、ざらざらと砂になっていた。


「あれ、は、もろに受けたら、やばそう」


ちらりと朽ちていく床を一瞥し、舌なめずりをした。


「まだ、愉しく、なれる」


大蛇と女騎士の戦いが始まる。


斬る、はじく、かわす、突く、刺す、殴る、蹴る、またかわす。


永遠とも感じられる命のやり取りは、



唐突に終わりを告げた。



突然、ピクリと何かに反応し動きを止めたトリス。それを不満げに見やる女。


「何を、しているの。つまらなかったら、お前の、マスターを、消す、よ」

「…それは出来んぞ。貴様ごときにマスターは負けん。」


今まで雄たけびを上げるだけだったトリスは、進化によって習得した人語を初めて使った。

挑発ともとれるトリスの言葉に片眉を上げる。


「今回俺は負けた。だが、マスターの勝ちだ。」

「何を言って、!」


ふと、このダンジョンのマスターと思しき人間の姿を探す…がどこにも見つからない。

どういうことだと、さらに探知しようとしたところで、ダンジョンが揺れた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


すさまじい地響きをたてて揺れはじめ、ついには亀裂が走る。

そこで、女はある一つの可能性にたどり着く。


「まさか、まさか、」


ガラガラと天井が崩れていく。大きな岩石はトリスの巨体をすり抜けて(・・・・・)砕けた。トリスの体はすでにどこか別の場所へと行っているようだった。


「ダンジョンそのものを、捨てた……!?」


愕然とした表情で転送中であろう透けたトリスを見る。


「また!必ず貴様と戦うぞ!次こそは完膚なきまでに勝ってやるぞおおおお!!!!!」


その言葉を最後にトリスの姿は掻き消えた。

その場に取り残された女はしばし呆然とした後、笑い出した。


「ダンジョンを捨てるなんて、そんな、こと、あはははは、ははは!!!!」



たった地下四階のダンジョン。

まだ名も付いていないそれは、この日なくなった。



˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙



一方そのころ、とある大陸のとある地下では

一人の男が大の字になって寝っ転がっていた。


「逃げるが勝ち、なんて昔の偉い人はよく言ったものだよ、ほんと」


泣きながらそんなことをのたまっていたという。



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