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第33話 非常事態起こりすぎだと思うんだ

ブクマ、感想、ありがとうございます。

励みになります。

今後ともよろしくお願いします。



「レットさん!!!今すぐ転送してくれ!!!」


スマホを取り出し電話をかける。

早く早く早く!!!


体に浮遊感を感じ景色が変わる。いつもの見慣れたマスタールームに着く。ジンとリリーはそれぞれの階層に転送されたみたい。

とりあえずここは無事だな。よかった…ここまで何かあったら本当にヤバい。


『マスター…無事でしたか……』

「レットさん!今、どういう状況!?」


心なしか文面に元気がない。あの、あのレットさんが俺の心配をするなんて尚のことおかしい!非常事態だ!!!


『失礼なこと考えてません?』

「よかった…いつものレットさんだ……」

『…言っておきますが状況は芳しくありません。』


そうだ、一体何が起こったんだ?ジンが言うにはゴブ達の血痕が飛び散っていたという話だし。


『この女性がフィルティ大森林に突然現れたのです』

「赤髪……」


緋色の長髪。右手には洋剣を持ち、俺たちのダンジョンに真っ直ぐ向かってくる。その道のりにある木々をバッタバッタと斬り倒している。……斬る分の労力を木を避けて進むことに回せないのだろうか。


「これっ…【乙女ノ強剣(バルキリー・ソード)】じゃん!」

『えぇ…帝国軍のものでしょう。』


黒いコートの背に大きく描かれた帝国軍の紋章。

今度はとんでもない精鋭を連れてきたってことか。いや、今はそんなことどうでもいい。


「被害状況は?」

『アサシン集団全滅。転移罠テレポートトラップの過半数が破壊。非戦闘員のキラリちゃんは家の方に帰しました。』

「そうか……」


ウチのモンスターが死んだのは初めてだな…結構堪えるな…。3日したら復活するものの…。

くっそ!俺の留守中にこんなバケモノみたいな女が来るなんて!


「レットさんキラリちゃん避難させてくれてありがとう。」

『いえ、それよりもどうしますか?』

「森で追い返すのは諦めよう。迷路内に入ったら下手に近づかないように。」


前に先輩がダンジョンに来た時毒は効かなかった。この人もそのレベルに強いとしたら状態異常が全く効果がない可能性がある。てことは闇討ちが出来ない。ゴブ達やヴァイは近寄らないほうが良いだろう。


『ダンジョンに入ります!』


ん?なんで洋剣を構えてるんだ?そこには何もな


『巨大な魔力反応を感知!映像ダウン!シールド展開!衝撃にそなビーーーー……ブッツン!』


ドゴオオオオオオン!!!!!!



「……は?」


え?レットさん…?レットさん!?消えて、

突然画面が真っ黒になった。テレビも、タブレットも、これじゃあ外の様子が分からないし、そもそもレットさん無事なのか!?洋剣を構えた後、衝撃音と地響き、パラパラと石が落ちて来てる。本当に何事!?


「レットさん!無事!?」


ガッタン!


「ひっ!」


襖が外れて…まさかもうここまで!?


「小童!!無事やんかい!!?」

「うわああ!!?……てリット爺か……びっくりさせないでよ………」


ザーーーーーーー


「ぎゃーー!!!!す、砂嵐がーー!!!レットさんがーーーー!!!」

『ビッ!ガガガ!!!!ザーーーービビっ!……揺れ、揺れて』

「レットさん!レットさん、死んだら嫌だーーー!!!」

「小童落ち着かんかい!」

「は!ごめん!大丈夫!?」

『…そう、見えますか……?』

「ごめん、見た目じゃわからない。」

『これだから童貞は……はぁ(・д・)』

「悪かったって……」


もう心臓がドッキドキだ……こんなに慌ただしいの久しぶりだよ……。ハプニングには弱いってことだな。神様とか神様とか神様とか時々勇者とか。


『映像回復します。』

「なっ!」

「これは……ここダンジョンやよね?」


回復した映像には赤髪の女が立っていた位置からボス部屋まで真っ直ぐ壁に大穴が開いていた。


「お、おかしいだろ、ダンジョンの壁に穴開けるとか……」


トリスの大暴れにも耐える特殊加工付きなんだぞ?そもそも迷路のセオリーガン無視しすぎだろ。なんでピンポイントにボス部屋の位置が分かるんだ?

女は壁に開いた大穴を通ってトリスのいるボス部屋に向かって行く。


『咄嗟にシールドを張ったのですが間に合いませんでしたね……。射線上に1号がいました……』

「い、1号……」


木っ端微塵に砕けた輝きを放つダイアの残骸。

なんなんだよ、この女……。


「…レットさん……全員に通信を!」

『繋ぎます。』


「オーガット!ジン!Hの7で迎え撃つぞ!穴の正面で待ち伏せろ!」

「はっ!」

「イアン!そのポイントを囲うように食人魔植物を植えろ!」

「はい!」

「鬼人5人はグリーンカーテンの後ろに隠れろ!俺が合図したら斬りかかれ!」

「「「はっ!!!」」」


後は……あそこに………



「…やっと骨、のある奴が、来た……」



「ふんっ!」



オーガットの刀と血塗れの洋剣がかち合う。


画面越しにも伝わる迫力。


「この女…笑って……」


瞳孔をかっぴらき口角が上がりひどく愉快そうな表情だ。


こっちは1ミリも楽しくないっつーの!


吹き飛ばされたオーガットと入れ替わりでジンが斬りかかる。


「くっ、」


シュルシュルとイアンの植えた食人魔植物が女の足や腰に巻きつく。


動きが止まった!


「今!」


隠れていた鬼人が一斉に斬りかかる。

行け!


「つああ、ああ、あ、ああ!」



そんな願い虚しく5人の刀は斬撃は弾かれた。

純白の翼に。


……いやいやいや、なんでそんなもん生えてんだよ!

可笑しいよな?絶対可笑しいよな?


しかも最悪なことに翼に触れていた刀が砕けた。


もう俺たちは何と戦っているのか分からない。


ぼけっとしている内に状況はどんどん進む。

羽が抜け落ち1枚1枚に意思があるかのように浮かび上がった。

こういう時って大体……


「イアン!!!回収!!!」

「はい!」


咄嗟に指示を出し鬼人をグリーンカーテンの中に取り込む。訓練しといてよかった。


思った通り羽が女を中心に円状に広がり射出された。

植物を斬り裂き、花や葉が落ちる。


「イアンの植物を傷つけるとは言語道断!」

「リット爺ちょっと黙っててください。」


本当に訳がわからない。

こいつは人の皮を被ったモンスターなのか?リリーみたいにほとんど人間と変わりないのもいるんだし。


「ねぇ、」


え、こいつ、こっち見て……ぐ、偶然だよな!?


「次は、何?リーダー、さん?」


あ、これ、分かっててやってるやつや。


なんなんだよ、もう!

帝国軍がこんな過剰戦力を有してるなんて……ケンカ売るんじゃなかった……。

後悔しても仕方ないよな…、よし。


「次は何?だって?こうするんだよ!」


天井がパカリと開いて女目掛けて蛍光色のドロリとした液体が降り注ぐ。


「何?スライム……?」


スライム、と言ってもモンスターじゃなくて、理科の実験でやるような作れるタイプのスライムだ。

スライムを降らせて窒息もいいなーと思って、ホウ砂を使ったスライムを作ってみたのだ。

途中からゴブ達も交えてねっちょねっちょしながら作ったら量が凄いことになってなー。

ピンクやら緑やら中々目に悪い配色のスライムが落ちていく。

女は剣で振り払うものの飛沫が体に着いたりしている。翼で振り払わないのは体に着くのが嫌なようだ。


「次だ!」


上に注意が行っているうちに下の落とし穴を開ける。

女はすぐに翼を広げて回避行動をとろうとしたが、スライムが纏わりつく上に蔦が足を絡めとったためそのまま落下。

地面には針山。

そのまま突き刺さってくれれば楽なのだがそうもいかない。

落下しながら右足を振り下ろすと全ての針が砕け散った。

可笑しい、絶対可笑しい。

得体の知れないモンスターを従魔テイム出来る技術があるとかすごすぎんだろーが。

こんな奴がいるなら戦争に連れてけよ。


針山に刺さってお陀仏展開は期待していなかったので、大人しく落とし穴を閉じる。

まぁ、こいつの場合困ったらさっきやったみたいに穴をぶち開けて脱出するのだろうが。


ぼうっと壁に明かりが灯る。

明かりに照らされその巨体が露わになる。

第1階層ボスモンスター、トリス。


「ゴガアアアアアアア!!!!!」


「へぇ……」


落とし穴の先は……ボス部屋なのだ。

正確に言うと第1階層には幾つもボス部屋がある。

ただその中で女が一直線に開けた穴の先にあるボス部屋だけが次の階層へと行き着ける。

落とし穴や横道や隠し扉の奥のボス部屋はボスモンスターだけ居て次に繋がる階段は無い。

ボス部屋とボス部屋は転移魔法陣なるもので繋がっていて、トリスが冒険者が入る部屋に移動して迎え撃つシステムだ。

何故、こんな無駄とも言えるシステムになっているのかと言うとトリスがもっと戦いたいからだ。

だからボス部屋を増やしトリスとの遭遇率を上げるようにしたのだ。

単純にトリスを倒したのに次に進めないという絶望に浸る冒険者を見てみたいというのもあるが。


正直今回はここを突破されたら本当にアウトだ。

ウチのダンジョンで一番強いモンスターはトリス。

火竜の卵が孵ればまた変わるかもしれないが、現状トリスが一番だ。

よほどのイレギュラーが起こらない限りトリスの負け=俺の死、な訳。

もし負けたとしても出来るだけの時間稼ぎをするつもりではいるが正直方法が思いつかない。

さっきからイアンの状態異常系の植物も効かないみたいだし。

絡め手が通用する相手とは思えない。


「頼むぞ、トリス!」


結局俺には祈ることしか出来ないのだ。




次回、トリス大活躍(の予定)です。

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