第32話 車って素晴らしかったんだなぁ
よろしくお願いします
青い空!白い雲!サンサン太陽!
外だよ!アサヒだよ!
………今テンション可笑しかったな…疲れてんのかな……。
冒険者の方はもうウチの優秀なモンスターとレットさんに任せて、俺は1週間ぶりに外に出て来た。
「リーベ達に会いに行かなくて良いんですか?」
「寂しがっていましたよ?」
「あぁ、うん、そうだな……」
もちろんリリーとジンを連れて。
2人の言葉に村の方角に目を向ける。
「だってあいつらモノホンの冒険者に会っちゃったんだろ?つーことはボロが出る確率が高いってことだ。さすがにパチモンでしたーって言うのヤダよ。」
「ですから今回冒険者ギルドに登録しようと態々商業都市オーベルンまで?」
「そんな所だな。」
俺がエセ冒険者ってバレたら…今まで好意的に接してくれた人たちが後ろ指さして来るかもしれん。
だから俺たちは人目を避けるように森の中を進んでいるのだ。
見栄っ張りとか言うな。俺にだって誇りくらいあるんだよ!決して小っぽけなプライドなんかじゃない!
「そういや2人とも冒険者ランクいくつだっけ?」
「えーと…ウッドですわね。」
「え、マジで?」
冒険者カードとやらを胸の谷間から取り出し……エロいな、おい。ジンもウッドらしい。
ウッドって一番低ランクだよな?こいつら結構前に登録してたと思うけど。
「俺たちは情報収集に役立つから登録したのであってお金目当てではありませんから。」
「まともにクエストを受けてないんですわ。」
あぁ…身分証ってことか。リーベ達の依頼は正規じゃないからな。
「てことは俺たち仲良く新人か〜。」
「ふふ、実力を加味したら新人なんて言えませんけどね。」
お前ら2人はそうだろうな……俺はマジで弱いし……はぁ、ぐうたらしたい。
フィルティ大森林を抜けるとダンジョンから一番近いカイナの街に着いた。そこには……
「魔導飛空艇!!!」
ファンタジーロマンを詰めに詰め込んだ、魔力で動くという飛行機があった。
話には聞いてたけどカッケェ!!!船に大きな鳥の羽!全部木組み!墜落しそう!不安しかない!けど、の、乗りてぇ!!
フィルティ大森林から西に行ったカイナの街で魔導飛空艇に乗って3時間で商業都市オーベルンに着く。
如何にリーベ達の村がど田舎か分かるだろう。飛行機で3時間だぜ?冒険者共これに乗ってわざわざダンジョンにくるんだぜ?馬鹿だろ。
……まぁ、頑張って徒歩で来る奴がほとんどだけどさ。運賃10万レンスだから、貧乏人には乗れんのだ。
かくいう俺たちもそんな馬鹿高い運賃を支払えるわけもないので徒歩である。……徒歩、なのだろうか。
「なぁ、マジでやるのか?」
「もちろんです!」
マーケットで購入した人力車。そう、人力車、だ。
そこに改造を加え、車輪の部分をどんな山道でも対応できるようにしたり、シートベルトをつけたり……いや、俺も反対はしたんだ。でも、ジンがアサヒ様に快適な旅を!って聞かなくてさ……。
俺とリリーは人力車のふかっふかのソファーに座ってる。シートベルト装着。
「では、行きますよ!!!半日で着きます!」
「は!?飛行機で3時間の距離を走りで半日は無理に決まってぇええええ◯#☆●°#♪♢◆ふぐっ!?!る?」
「いつもより速くて楽ですわ〜。」
途中で意識が飛んだ。
「げぇ…人がたくさん……」
宣言通り半日で着いた商業都市オーベルン。
商人の聖地と言われるほど物流が発達し人の集まる大都市。東京とか大阪みたいだな。
こういう大都市にしか冒険者ギルドの本部は置いていなくて、小さな町とか村には支部があるだけ。登録は本部に足を運ばないといけないから面倒なんだよ。
久々の人混みに気後れしまくりである。
「では、行きましょうか、ご主人様。」
「しっかりとお守りいたしますから御安心下さい。」
キリリとした顔で宣言する2人。とてもじゃないが人酔いしそうとは言えなかった。
「よし!行こう!」
「入場料1万レンスだ。」
早速出鼻を挫かれた気分だ。
たっけぇな!俺が身分証無いからか!1万レンスって1万円だろ!?夢の国より高いってどういう事だ!
とは思ったが、身分証のない怪しい男を見定めるための方法として金を払えるかどうかって事なんだろうな。俺の場合は付き添いの2人が居たから金を払うだけで済んだが、それすらもなかったら金を払えても入れてくれなかったろう。戦争間近だしなぁ、当然と言えば当然なのかもしれない。
都市に足を踏み入れてからもなんとなくピリピリしている空気だ。やたら893みたいなヤバイおっさんが多いし。武器商人っぽいな。稼ぎ時だからか皆んなニヤニヤしてる。
あ!び、ビキニアーマーを来た色黒の姉御風冒険者がいる!ヤベェ、カッコいい!
おお、あっちは魔道具店か!?木で出来た先っちょがひん曲がってる杖って本当にあるんだな……。
「ちょっと、ご主人様!こっちですわよ!」
「ごめんごめん。」
日本じゃありえない光景の数々にふらふら〜と足が向かって行ってしまった。
来る時は憂鬱だったが異世界っていうのは素晴らしいな!巻き込まれたら叶わんが見る分には楽しい!定番サイコー!
「ここはお前のようなヒョロっちい奴が来る所じゃねぇんだよ!」
……こういう定番は要らないけどな。
冒険者ギルドに着いて、カウンターのおばちゃん(残念ながらお姉さんじゃなかった)と手続きを行なっていたら突然肩を掴まれた。なんなの一体。俺はスキンヘッドのガチムチはお呼びじゃないんだって。
「…えーと、それはスミマセンネ。登録したら出て行きます。」
「はん!すぐに謝るたあとんだ根性なしだなぁ!!あっさり出て行くなんてよぉ!!!」
出て行って欲しいのか、ここに居てもいいのか、どっちなんだよ。なんだ、新人いびりか。理不尽な。
「こんな屁っ放り腰の何処がいいんだ!?リリー!!」
え!?リリーの知り合い!?
驚いていたらジンが耳打ちをして来た。
「この男、前にリリーを口説こうとして撃沈したんです。その時に私には貴方なんかより素敵な人がいるとかなんとか言ってて……。その時俺も疑われたりしてですね……。」
「あぁ……次は俺がリリーの彼氏だと思って因縁つけて来たのか。」
「はい……。」
リリーは自分より頭2つ分大きいスキンヘッドに臆する事無く絶対零度の視線を向けていた。……俺美人にあんな目で見られたら泣いちゃうよ…。あいつら(スケルトン親衛隊)にとってはご褒美なんだろうな。
「あら、貴方のような脳味噌も全て筋肉ダルマのような男が私の敬愛する主人を侮辱するとはねぇ……ヘドが出るわ。」
「んなっ…!」
「今すぐ地面に這いつくばって謝ってくれるなら頭踏みつけるぐらいで許して差し上げます。」
わーお、リリーさんカッケェ。俺こんな人に敬愛する主人とか言われていいんかな?隣でジンがさすが姉御とか言ってる。
スキンヘッドは侮辱に顔を真っ赤にして、リリーを殴る!と思ったら俺の方を向いて来た。そこで俺に来んのかい。いつまでもリリーにやらせるわけにはいかないから、どっかしらで介入するつもりだったけどさ。
「お前!俺と勝負しろ!!!どっちが相応しいか勝負だ!!!」
「いや、リリーの恋人俺じゃないですよ?」
「はぁ?!」
勝手にそっちが勘違いしたんじゃん。俺悪くない。
リリーの恋人は今頃トリスにしばかれ、冒険者をボッコに…と忙しくしてるところだろうよ。
「リリーの恋人、俺なんかじゃ勤まんないですよ。誠実で和服が似合って食レポが上手で侍!って感じじゃないと。」
「うふふふ、ご主人様もかっこいいですわよ?少なくともそこの筋肉しか取り柄のない男よりも。」
そいつと比較されて褒められても嬉しくないんですけど。
元々赤い顔が更に赤くなるスキンヘッド。今更だけどこいつの名前ってなんて言うんだろう。
「舐めやがってぇええええ!!!!!」
「わっ!」
唾を飛ばしながら殴りかかってくる。きったねぇな!
咄嗟に顔を庇う、がそんなもの必要なかった。
ドォオオオオン!!!!
次の瞬間にはギルドの壁に叩きつけられピクピクと失神していたからだ。
無駄な動きもなく刀をしまうジン。
「アサヒ様に手を出そうとは言語道断。……安心しろ、峰打ちだ。」
一生に一度でいいから言ってみたいカッコいいセリフを違和感なく言い切るとか……
「ジン、お前、カッコ良すぎんだろ……」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。」
太刀筋も全然見えなかったし…飛行機3時間の距離を走りで半日だし…こいつどんだけ強いのよ……。
あとさぁ、ここは俺の華麗なバトルシーンじゃないんかい!返り討ちにされる未来しか見えないけど!!!
……帰ったらオーガットに稽古つけて貰うかな………。
俺たちは逃げるようにギルドから出て行った。カウンターのおばちゃんがお偉いさん呼びに行ったからな。壊した壁の修繕費請求されたら叶わん。登録はもう終わったし用はないし。
帰りはもちろん人力車である。……快適な旅とはなんなのだろうか……日本の車が恋しい…俺運転できないけど。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
「な、なんだよ……これ………」
薙ぎ倒された木、血に濡れた地面、所々抉れたような跡。
「転移罠が破壊されてます!!」
「……この血…ゴブ達のものと、思われます。」
帰って来たフィルティ大森林はいつもの穏やかさは無く、異様なほど静かだった。
「な、にが、起こって………」
俺たちのダンジョンに今までで最大級の危機が訪れていた。
珍しくシリアスめ。
……多分途中でふざけます。




