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第30話 もう俺のライフはゼロよ!

最近新しい作品を書きたくなってきました。

だというのに時間がない今日この頃。


「さてと、海の方は大丈夫だな。問題は……」

『ペントですね。』


あのヤル気のない我が第二階層がボスモンスター、ペント。

今回の転送云々に最も難色を示したのがこいつだ。

働きたくないの一点張り。俺としては平等に扱うことを決めているので、ちゃんと戦うように言いくるめたけどね。


「どうなってるかな〜〜…あれ?」

『これは…』


ペントって、大蛇みたいな感じだったよね?

俺の目にはデカイイカが大暴れしているように見えるんだけど。

淡い水色の光沢のある体を持つイカは、まるで雨を降らすかのように黒いイカスミを降らせる。


「おい、あれって……」

『【痺レ烏賊(スタンスクイド)】のスクイでは無いでしょうか?』


懐かしきガチャプレイ初の景品だ。

あの時は出会いと同時にイカスミをかけられ酷い目に遭ったものだ。

同じ海に住む者同士の方が生活し易いと思ってペントに預けておいたけど……


「え、と、成長しすぎじゃね?それともアレが普通なの?」


そう、とんでもなくでかくなっていた。通常のイカサイズを半分にしたくらいだったのに、トリスばりのサイズになっていた。神話で出てくるようなクラーケン的な感じだ。

目が飛び出るほど驚くとはこの事か。


『そんな筈は……通常の【痺レ烏賊】は成長しても体長1メートルほどにしかなりません。』

「いや、あれは体長1メートルなんて可愛げのある大きさじゃないぞ。」


では、一体なんなのか。

犯人は十中八九ペントだろう。さっきから姿が見えない。ペントだってトリスと大して変わらない大きさなのだ。隠れる場所は海の中ぐらいしか無い。


「まぁ、あいつがスクイだとして、強いな。」

『彼だけでボスモンスター賄えてますね。』


あのイカスミがヤバい。イカスミの効力は大した事ない筈なのに、体が大きくなった事で痺れも強くなったのか騎士連中がビクンビクン痙攣してひっくり返ってる。酷い奴は水辺にうちあげられた魚のように跳ねている。

抵抗も何も出来なくなったやつを太い触手で叩き潰す。鮮血や肉塊が飛び散った気がするが俺知らない。


「いや、うん……強いね。」

『なんなんでしょうか…。強化魔法でも掛けられているのですかね?』


とりあえず、周りが静かになってペントが姿を現わすまで待つか。



「で?あれってどういう事?」

「………………」

「せめて喋ろうな?」


ボス部屋の島に人の気配は無い。全てスクイ(巨大バージョン)が潰した。蚊を潰すみたいに人間プチるのは衝撃的な絵面だったことは明記しておこう。


そして全てが終わった後に、スクイがどんどん小さくなって行き、今までどこに居たのかペントが現れた。ペントの方はスクイが小さくなるのと反対に大きくなって元のサイズに戻った。


何が起こったのか意味不明である。


「別に怒ってる訳じゃないから。説明が欲しいだけでさ。」

「……ジャー……(説明メンドイ)」

「俺の気遣い返せ。」


お前はそういう奴だったよ。父ちゃん知ってた。


俺が待ち続けていると、本当に面倒くさそうに、渋々話し始めた。


「ジャー……(戦うの、メンドイ)」

「あーうん、知ってるよ。」

「……ジャ、ジャー……(代わりにこいつに戦わせた。大っきくして)」

「そこだよ。どうやって巨大化させたんだ?」

「…ジャー、ジャー…(卵、食わせた)」

「卵?え?生卵?」

「ジャー(俺の)」


俺の、卵?

えーーーと。こいつの、ペントの卵?


「ごめん。俺のって、お前が産んだ卵?」

「……(コクリ)…ジャー…ジャジャージャ(俺の卵食べると強くなる。その代わり一個産むと俺小さくなる。)」


卵って雌が産むよな?


『なるほど。【大海蛇シーサーペント】の卵は昔から良薬と言いますからね。』

「……ジャー、ジャー(俺子供いらないし)」

『番いが居なくとも勝手に産めるのですね。』

「……ジャ、ジャー…(俺の力を割り振るから)」


サクサクと会話する2人。片方は文字だけど。


ペントの卵がすごい効果を持っていることは分かった。それを食べてスクイがドーピングしたのも。力を割り振るから、ペントの体は一時的に小さくなってその後元のサイズに戻ったんだな。


……うん、分かったんだけどさあ。


「待って。あのさ、蛇の卵は雌が産むよね?」

『はい。蛇に限らず生物は雌が卵を産みます。例外も居ますが。』

「【大海蛇】も雌が産むんだよね?」

『そうですけど……何が言いたいんですか?』

「……ペントって、雌だったの?」

『今更ですか?』


初耳ですよ。

何その心底呆れた的な反応は。

分かんないって。一人称俺だし、ものぐさだし。しかも蛇のオスメスの違いなんて見分け付かんわ。


「てっきり、雄だと思ってたよ。」

『はぁ…女性を男に間違えるなど……最低ですね。』

「俺そこまで非難されることした?してないよね?いや、悪いとは思ってるけどさ。」


マジかぁ……ペントって雌だったのかぁ……。

今日一番衝撃を受けた話題だよ。


「えーと、ごめんな。雄だと思ってて。」

「……ジャージャ(気にしてない。マスターは気遣い出来ないから。)」

「そんなことないからな?俺だって……」

『これだから童貞は……』

「やめてレットさん。俺泣くよ?」


もう俺のライフはゼロよ?……ぐすん。


「…ジャジャー(もういい?スクイ、ご飯。)」

「おー。大丈夫だ。スクイもお疲れ。」

「ビューー」


返事がイカスミですかい。……ご飯?あれ?必要ないんじゃないの?


覗き込むと俺が先日やる気を出させる為に大量に用意した秋刀魚を食べていた。秋刀魚美味しいよね。俺大根おろしとポン酢の合わせ技が好きなんだよな。

そういえばいつも魚より卵がいいって言うから不思議に思ってたんだけど、まさかスクイの餌とは。


『なんと言うか、甲斐甲斐しいですね。』

「そだね。」


ちまちまと切り分けて食べさせている姿は母親そのものだった。


……ちゃんと女だったんすね……。



「新事実が明らかになったところで、第3階層見に行きますか。」

『新事実でもなんでもないんですが……まぁいいでしょう。モニター映します。』


パッと映像が切り変わる。

綺麗な海からおどろおどろしい墓場へと変わる。


「死体が転がってるからいつもより酷い……。」

『いつになったら耐性つくんですか。』


無理無理。ホラーなんぞ得意にもなりたくないわ。先輩はそんな俺を揶揄うのが楽しくて仕方なかったみたいで大変癪だったが。思い出したら腹立ってきた。復讐なんてしないけど。返り討ちに遭うから。


「ちくしょー!!!目ぇ覚ましやがれ!!!」


ん?騎士vs騎士だな。片方が目を覚ませだとか、いい加減にしろだとか涙ながらに喚いてる。他にもそんな感じのカップルが出来上がってる。付き合ってはないだろうけども。


「うふふふ……無駄ですわ。この方は私の虜ですもの……。」


妖艶に微笑む美姫。サキュバスか。

今日のリリーは冒険者用の動きやすさ重視の服装ではなく紫色のチャイナ服である。スリットから覗く生足がエロい。どうしても目が行く。あー…オーガットめ……。


「ぐっ!何故俺たちには誘惑しない!」

「あら、全員私の虜じゃ面白くないでしょ?貴方がお仲間と苦しんで戦うのが見たいんですもの。」


ドSだ。ドSがいる。何あの笑み。美し過ぎて敵である騎士も一瞬ぼけっとしてしまった。ご馳走様です。

冗談はさておき、ただ単に誘惑できる人数に限りがあるのだ。ああ言って誤魔化しておけばいい、と、俺がアドバイスしておいたのだ。



「ウフフ、貴方は私に踏みつけられる為にいるのよねぇ?砂利。」

「はいいい!!!」


だからハイヒールでグリグリとくたばっているオッさんの顔面を踏んでいるのも、


「あら、何故椅子が喋るのかしら?」

「スミマセ、ああああああ!!!」


四つん這いになった男の背に足を組んで座って、何処から入手したのか不明な鞭でケツを打ち付けるのも、


「ああ、貴方は……」

「はい!」

「邪魔だからどこかに這いつくばってなさい。」

「喜んで!」


放置プレイに興じてるのも、全て演技なのだ。

……演技だよね?ノリノリ過ぎて怖い。もしかして俺、開けさせちゃいけない扉を開ける手助けしちゃった?


「私は?」

「「「女王様で御座います!!!」」」

「貴方たちは?」

「「「忠実な僕に御座います!!!!!」」」

「違うわね。貴方たちはゴミよ。取るに足らないゴミ。汚いから近寄らないでちょうだい。」

「「「ありがとうございます!!!!!!!」」」



「楽しんでるみたいだし、水を差すのは野暮だよね。」

『関わりたくないだけでしょう?』


新手の宗教だろ、これ。怖いよ。今の何処にありがとうのポイントがあるんだよ。……いや、リリーなら……(想像中)……ダメだ、無理だった。いけたら俺もアイツらの仲間入りするから良かったんだけど。


『ボス部屋映しますね。』

「いつになく画面変更が早いね?」

『気のせいですよ。リリーを見て恐ろしさを感じたなんてこれっぽっちも。』


レットさんにも怖いものはあるんだね。安心したよ。


リット爺は〜と、


「ひっ!」


映し出されたボス部屋には一杯のゾンビ。肌は緑色に変色し、所々虫が湧いている。口からは泡を吹いて生者に向かって行進する。


「う、うああああああああ!!!イヤだぁぁぁ、あ、ゔ、」


ゾンビどもを斬りつけて難を凌いでいたものの、聖魔法でもない限り死ぬ事はないゾンビは復活を繰り返す。徐々にその距離を詰め獲物の体に絡みつく。首筋に歯を食い込ませ肉を引き千切った。噛まれた方は断末魔を上げた後痙攣し緑色に変色した。今はヴヴアとかなんとか気味の悪い呻き声を上げている。


「ゾンビってあんな風に出来るんだ……う、おえぇ……」

『ここで吐かないで下さいよ?』

「うん、」


気分悪い。何千体というゾンビの群れは俺のライフをガリガリ削ってきた。動物ゾンビでリハビリしてたけど効果なかった。グロいもんはグロいし、怖いもんは怖い。この世の摂理である。


「やっぱり、【死霊魔導師リッチ】って言ったらこうでないとやんね!」


嬉々として骨の手をふるい魂を集めるリット爺。ゾンビを量産して満足したのか今度はスケルトンを作り始めた。その工程がこれまたグロかった。生きてる奴の骨以外の部分を【暴食ネズミ】に食べさせるのだ。綺麗に食い切れる訳ではないので血やら肉やらが付着している。

なんでリット爺そんなに平然としてるのさ。どころか楽しんでるよね?どんな神経してんの?脳味噌ないから頭ぶっ飛んでんの?


「楽しいですか、リット爺。」

「おお!小童か!楽しいやんね!若返った気分やよ!」

「…良かったですね。」

「はあああ〜〜夢にまで見た人型ゾンビ……さあ、殺しつくすやんよ!」


夢にまで見たんですね。俺は別の意味で夢に出てきそうですよ。楽しそうで何よりです。


「第3階層って趣味と実益を兼ねてるよね。」

『内容はともかくとして、ですが。』


そうこうしてるうちに全ての騎士がゾンビになった。

ちなみにリリー下僕隊はスケルトンにしていた。なんでも魂の記憶が残っているらしくリリーに付き従っている。お前らスケルトンになってまで覚えてるって……どんだけよかったんだよ……。さすがにドン引きした。



ライフを削りつつも着々と敵を殺し尽くした。

ダンジョンに進入した別働隊一万の軍勢は全て俺のお財布に飲み込まれて行った。



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