第29話 最強の女と書いて
ダンジョンに帝国騎士がやって参りました。
久しぶりに戦闘シーンを書いてみました。技名とかモンスターの名前とか考えるのって大変ですよね。楽しいんですけど。
『この人…優秀なんですね…。』
「おう、ハーレム漫画の主人公みたいな奴だからな。ハイスペックイケメンなんだよ。」
本来軍機密の情報を横流しして、しかも変更された場合のルートのデータをまとめる。勇者といえど上層部の話には本来まじれないのに何故知ってるのか…。
皇帝の横に立って作り笑いを浮かべる先輩には感服する。…せっかくだし外部の情報収集係に任命しようかなぁ。そうすればダンジョンにいる時間も短くなるし。ヤベェ、名案だわ。
それは置いておいて、森にいる別働隊が引っかかった確認しないと。
【転移罠】
円形のトラップで、二つセットになっている。飛ばす先を設定すれば、踏むだけで起動する。サイズはDPをつぎ込むことで大きくしたり小さくしたりできる。
これを先輩が持ってきたデータを基に、森に設置。ダンジョンの各階層に振り分けた。
大体これで一気に半分ぐらいをダンジョン内へ送り込めた。
さすがに精鋭と言うべきか全員は無理だったが、残った半分は物理でダンジョン内に引きずり込む。モグ達の巣の中に落とすのだ。ちなみに恐怖を掻き立てるため、マネキンを強力マジックハンドに改造して地面から手が伸びてくる演出付きである。
他にも【闇夜ノ御霊】というリット爺のペット(ゴースト)を放って、どす黒い靄を出させた。まだ真昼間なのにかなり暗い。闇っていうのは嫌な考えを掻き立てるからな。初めは綺麗な列で歩いていた軍隊が崩れていた。フラッと離れて落とし穴に落ちてお陀仏したり、ゴブ達にヤられたり、【転移罠】を踏みつけてダンジョン内に飛ばされたり。
「うん。阿鼻叫喚っていうのは正にこのことを言うんだろうな。」
レットさんに映し出されている別働隊の様子を言い表すならそんな感じだ。
どこからともなく聞こえてくる悲鳴に恐怖しまた1人また1人と姿を消す。
規律正しい軍の姿などどこにも無い。
「えーと、フィルティ大森林にいた別働隊はほとんどダンジョンに飛ばされたか死んだ?」
『そうですね。346人がDPに変換されました。』
「おおー。」
俺は346人もやっちゃったのか……罪悪感が一ミリも湧かないな。むしろスッキリしてるぞ。こびりついた汚れがやっと剥がれ落ちたあの感じ。
俺はとっくのとうに人間を辞めたってことか。今更だな。
それにまだ俺のテリトリーにたくさんお邪魔虫がいるしな。俺が呼び込んだとか知らなーい。
「ゴブ達はすぐに第一階層に戻って各個撃破。」
「ギィ!(ハイっす!)」
「第二階層、第三階層、今回がデビュー線だがいつも通りに行け。お前らならヤレる。」
「御意!」
「任せるやんな!」
「第四階層は漏れた敵を確実にヤれ。最後の砦だとか気負うなよ。」
「ガウッ!(まっかせろ!)」
「よし、お前ら、気楽にいこう。」
『気が抜けますね。その号令。』
下手に気負っても仕方ないからな。気楽にいこうぜ☆
「な、ここはダンジョンか…!?何故っ!」
俺が呼んだからっすね。
「今叫んだ奴らの後ろって…1号!」
「ガァア(分かりました。)」
名前呼んだだけで伝わるとかうちのモンスターまじ優秀。
ガヤガヤしている10人の後ろの壁にあるトラップを起動する。
壁がパカっと開いて、灰色の毛並みを持つ、ネズミがうぞうぞと出てきた。
「名付けて、リアルドラ◯もん事件。」
『気持ち悪いですよ。本当に。』
多くの人が知っているであろう、ドラ◯もんが真っ青な色になるあの事件。あれ子供向けじゃないと思うんだ。リアルだったらむごいよ。
このネズミは本物ではない。マーケットに売っている猫用のオモチャにリット爺が魂をふざけて入れたら凶暴化した【暴食ネズミ】だ。こいつらはその名の通りとにかく食べる、一心不乱に食べる。なぜか生きた人間だけ。しかもこいつらは魂自体にダメージを受けない限り、体がいくら壊されたところで無限に再生する。無限ループだ。数さえ揃えればこいつら最強なんじゃないかと思う。聖魔法?的なグローリア様んところの信者さんが使う魔法だけが対抗出来るんだとか。
「いっやー、まさか、死体じゃなくてもいけるなんて思わんかったやんね〜。」
「おかげでリ◯ちゃん人形がアウトな見た目に…。」
実験で◯カちゃん人形に女性の霊を入れてみたら延々ケタケタ笑い続けるホラー人形になってしまった。夢に出てきて寝付けなかったわ。目玉がボロンって落ちた時には失神した。まじ怖い。あんなん女の子泣くわ。
『【暴食ネズミ】スゴイですね。』
「うっ。レットさん画面チェンジ、チェンジ。グロい。」
無限ループにヤられた騎士達が食われてるのを見るメンタル俺には無い。ゾンビモノとかダメなんだよ。一体一体は弱いから壊せるには壊せるんだけど、再生するから騎士達の心を抉るよね。ドンマイ。お前達の死は決して無駄じゃ無いぜ。
「あ、トリスのところに大量に送ったけど大丈夫か?」
『大丈夫、というか、楽しんでますね。』
「グゴァアアア!!!(立ち向かわんかぁ!!!)」
「なんでこいつ、ギリギリ動ける程度の攻撃すんだよ!」
お前らが倒れたらお楽しみが無くなるからだろうな。
「ガァアアアアア!!!(フハハ!!お前筋がいいぞ!!!)」
「なんで集中攻撃!?」
お前が一番強いからだよ、その中で。
「…まぁ、大丈夫そうだな。トリスは。」
『生殺しですよね。』
いっそ一思いに!とか言ってるしな。貧乏くじ引いたな。
「ここは大丈夫そうだし、次、第二階層行こう。」
『はい。』
「どうなってるかな〜。」
海に死体が浮いてる。そして虚ろな目をして死体の間を縫って進む亡者の行軍。進む先は、美しき人魚。そしてそれを守るは番人の槍。
このキャッチコピー中々カッコよくね?
『亡者の部分は間違ってますけどね。まだ生きてます。』
「それもそうか。お、引き摺り込まれた。」
海の中を自由自在に泳ぐギン達に脚を掴まれ沈んでいく。もしくはスライム軍団に。そのまま窒息死。スライム軍団は溶かしちゃってるな。こいつらも大概雑食だよね。そして浮かぶ死体が増える。
やっぱし、メイ達の演奏がデカイな。彼女達の演奏は、人間の三大欲求の排泄欲を掻き立てる。まぁ、性欲だな。自分たちに対しての、だけどな。よだれ垂らして気持ち悪い笑みで人魚めがけて歩き続けるこいつらは煩悩の塊というわけだ。一心不乱に同じ場所に進んでくれるからヤるの楽なんだよね。大した被害もなく終わりそう。
ん…あれ?なんか浜辺に動いてない集団がいるな…。隊服が他の騎士と違う?【乙女ノ強剣】とは別に薔薇のマークが入ってるな。平の騎士とは違うのかね。
俺が見ていると先頭に立っていたケツ顎のオッさんがレイピアを抜きはなち夜空に向かって突き出した。
「フッフッフッ!アタクシはそんなアバズレに騙されないわよ!」
「「「そうですわ!クリスティーナお姉様!」」」
「帝国薔薇騎士隊、行くわよ!」
何アレキモい。
「俺の見間違いかな?あの人達オッさんだよね?」
『あの口紅の色、リリーが先日着けていた最新モデルですね。』
ああ、その後俺が化粧品見せたら大興奮してたな。メイ達と一緒にキャピキャピしてたっけ……違う違う、今俺が考えるべきは最強の女と書いてオネェと呼ぶ奴らの対策だよ。
「…そうか、オネェだからメイ達への性欲が掻き立てられなかったのか。」
『純粋に男性が好きなのでしょう。』
「まさかの展開。」
なんでだよ、お前ら帝国軍の中でも精鋭なんだろ?オネェが十数人も混じってんなよ。
「というか、クリスティーナって、クリスティーナって…」
『帝国薔薇騎士隊の隊長らしき人の名前ですね。』
「ふざけんなよ、マジで。クリスティーナなんて名前は美人系ヒロインにしか許されない名前なんだぞ。ケツ顎ごときが名乗っていい名前じゃないんだぞ。ふざけんな。そのムカつくケツ顎かち割れろ。」
『クリスティーナにどんだけ思い入れがあるんですか。』
俺の嫁だよ。もちろん2次元の。〈血迷った美少女との日々〉に出てくるアメリカからの転校生ツンデレ美女。題名から地雷臭がしたが読んでみたらこれがまた泣いて笑える物語だった。ああ、クリスたんに癒されたい。
「読み返そうかな。」
『くだらない妄想に走ってる暇があったらギン達に助け舟を出してくださいよ。かわいそうなことになってますよ。』
「あら、貴方、かっこいいわねぇ。お姉さんとい・い・こ・としない?+ウインク」
「お、オェエエ……」
な、なんて威力なんだ。画面越しなのに気分が悪い。相対してる皆んなが可哀想なんだけど。
オカマってなんであんなにウインクが上手いんだろ。
進化したギン達は限りなく人間に近いからな。全員美形だし。どストライクだったか。
「こいつらの何が怖いって精神攻撃だよな。こっちを巻き込まないでほしい。」
『強いですね。』
「神経の図太さだけは先輩とタメ張るはも。」
どうすっかな…正攻法で倒すぐらいしか思いつかんのだけど。
お?ギンが槍を振り上げてる。なんだ?
「今こそ、我らの真の姿を見せる時。行くぞ、お前達!」
「「「おーーー!!!」」」
え?新技!?何それカッコいい!いっけー!
パァアアと水色の光がギン達の姿を包む。
そして現れたのは、青色の強固な鱗を身に纏い、ギラリと煌めく漆黒の1本角が生えたモンスター本来と言うべき姿。サハギンの頃の姿に近いがその引き締まった体とオーラは比べ物にならない。
「【海槍竜】。この槍は、この姿は、我らが覚悟の証。」
「ふ、ふふふ…これは、さすがのアタクシも危ないわね。でも、アタクシ達だって帝国薔薇騎士という誇りの為に戦ってるのよ!」
「そうか、貴様らも1人の戦士か。その心意気を評して我らの最高の技で華々しく終わらせてやろう。」
再び黒々とした槍を振り上げるギン達。
ゴゴゴゴゴ…と重い音が響く。
「すっげぇ……」
それまで静かだった海が太い柱を創り出す。全部で10本の海の柱を繋いで魔法陣が組まれた。
そして、一斉に振り下ろされた槍に呼応するように、空から、竜が出現した。海水で出来た透き通った青色のドラゴン。
「全てを飲み込め、【海竜王】。」
暴力的なまでの海の力が、紅薔薇を散らした。
………これ本当に相手がオカマじゃなきゃカッコよく終わったのになぁ……。敵キャラもイケメンであるべきだよ。




