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第28話 人選ミスだろ

今日の更新以降、不定期とさせていただきます。

1週間以上は開けないように頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


ダンジョンマスターであることが工藤先輩にばれた。


俺の取るべき行動


1、逃げる、とにかく逃げる、死ぬ気で逃げる


2、レットさんに頼んで森に仕掛けておいた罠を起動させる、もしくはうちのモンスター全員引っ張ってきて先輩をフルボッコにする


3、カッコよく俺は孤独のヒーロー ブラック兼ダンジョンマスターでっす☆と開き直る


どれが一番ダメージが少ないだろうか。

というか、俺の三択極端だな。


1はダメだ、一瞬で確保される未来しか見えない。いくらこの森の地理に精通していようとも確保されてさっきのホモ云々より酷い目に遭うことになりそうだ。


2は…返り討ちになりそう。この人の底知れぬファンキーさは、如何なる状況でも相手に精神的ダメージを与えつつ自分は楽しむというエグいことをやってのける。ウチのモンスター達を被害に遭わせる訳にはいかない。


3、開き直る=ダンジョンに入れるってことだな。この人は俺がダンジョンマスターなどという面白いものをやってると知ったら俺も混ぜろ、と言ってくるだろう。なんて傍迷惑な。


「うっわ、手詰まり。」

「大人しく白状した方がマシだと思うぜ?まぁ、凡そ想像はつくけどな。」

「へぇ?どんな。」

「電車に轢かれて御陀仏したお前は、定番美人神様にダンジョンを造るように命令され、順風満帆とは行かないが楽しくダラダラとダンジョンを造り、邪神の手下に召喚された俺に接触するように言われ渋々手紙を書いた。」

「……あんたの頭ん中何が詰まってるんですか…?」


今の今まで俺を観察してきたような口振りじゃないか…気持ち悪い。

そこまで言い当てられるともはや人外……元々そんなんだったわ、何って、ぶっ飛び具合が。


「…はぁ、分かりましたよ、ダンジョンにご案内します。その代わり、邪神の手下云々のところ詳しく聞かせてくださいね。」

「おうよ!」


結局こうなるんだよ……そして、この人はレギュラーポストに収まるんだ…いつの間にか。



˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚



『一部始終見ていましたが、酷いですね。』

「でしょ。この人は酷い人なんだよ。頭が。」


俺はダンジョンの入り口へと案内した。

面倒くさくなって、やけくそになっていた俺は先輩を客人設定にするのを忘れていたので、もろに罠が起動した。

…これで矢の一本でも当たってくれれば俺の気分は晴れたのだろうが、持ち前の反射神経で全て避けやがった。途中の毒花群生地は耐性があるのか失神することもなかった。イライラしてモス達の鱗粉を食らわせたが、実際幻覚を見せられたのに、後輩の愛が重いぜっ!とかのたまいながらキメ顔をして、俺のイライラが加速するだけに終わった。一体どんな幻覚を見たのだろうか……聞きたくねぇ。


これ以上この人と2人っきりで歩いていたくなかったので、レットさんに転送をしてもらい自室に来た。

単純にレットさんを巻き込みたかったわけだ。


「いっやー、ダンジョンマスターってのもなかなか良いな!」

「さっきからテンション高いですね……。」


俺は途中で会ったジンとリリーに生暖かい視線向けられて、心が抉られたよ。

恨みがましく元凶を睨みつける。

すると、先輩は目が潤んで俯いた。


「そりゃ、そうだろ…。俺、お前の葬式出たんだぜ?放課後お前のクラスに行ったら事故に遭ってそのまま死んだなんて聞いてよぉ…。」

「先輩……。」


そうか、俺は向こうの世界では死んでるんだもんなぁ。自分の葬式が行われたことに違和感しかない。しおらしく落ち込む先輩になんとも言えないむずがゆさを覚える。


「俺は悲しみのあまり…すぐにお前のお供え物のじゃ○りこを回収してポテトサラダに作り替えたり、文化祭の女装写真を額縁に入れて飾っておいたり、俺の決め台詞を録音しまくったCDを一晩中流しておいたりしたんだよ…。」

「そんなこったろうと思いましたよ…。まともに墓参り出来ないんですか…。」


呆れて物も言えないとはこのことか。そんなしっかりとオチをつけないで欲しい。せっかく感動話っぽかったのに。さすがは上げて落とす先輩クオリティ。

…じゃが○このポテトサラダって意外に美味しいんだよな…。


「もういいです…いい加減本題に入りましょう。」

「おう、俺が邪神に魅入られて堕天したことだろ?」

「合ってるようで全然違う。」



先輩は、俺が死んだ一ヶ月後、居眠り運転のトラックに跳ねられたらしい。道路を横断していた小学生を助けて、そのまま。


「はー。人助けして死ぬなんてかっこいいですね。」

「だろ☆

あ、因みにお前を線路に落とした奴、ウチの学校の女子生徒だったわ。お前のstkだったらしいぜ。」

「へー…え?」


さりげなく爆弾を投下してきたがまぁいい。先に進めよう。


次に目覚めた時、俺と同じ白い空間に1人ポツンと居て、暇だったから厨二ポーズの研究をしていたところに、例の邪神の手下が来たのだと言う。


「んーと、3人ぐらいでニヤニヤしながら俺のとこに来てさー。俺ちょうど考える人のポーズとって「…何故俺は孤独なのか…この美しさが罪なのか……それとも存在自体が罪なのか……」ってやってたからさ〜、全員停止してたよな。」

「存在自体が罪なのは全力で同意します。後、その3人には大変同情しますね。」


健気にも復活した3人は下卑た笑みを浮かべ、異世界に転生しないか?と持ちかけた。それに先輩はもちろん即答。ちったあ、迷えよ。この人の頭にはリスクとかないのか。…ないな。


「んで、その時に転生したら必ずやらないといけないこと、みたいな感じで条件付けられたんだよ。」

「どんな条件ですか?」

「人を殺しまくる。」

「なかなかヘビーっすね。」

「次にダンジョンマスターを殺す。」

「ちょ、ま、俺今大ピンチ?」

「フッフッフッ、敵を懐に招くなど、貴様も腕が落ちたな、幻想の闇よ!」

「馬鹿め、罠にはまったのはお主の方だ!我がわざとここに入れたのにも気づかず高笑いなどお間抜けな男だな、金色の光!」


『やっぱり、似た者同士ですよね。』


レットさんの鋭いツッコミが入ったがガンスルーだ。


先輩はその図太い神経を持って転生してから一度も人を殺していないそうだ。そのことに関して制裁があることもなく、今日まで異世界ライフを満喫していたらしい。

普通の人だったら律儀に言うこと聞いて大量の人間を殺しまくってたんだろうな。完全に人選ミスだと思う。この人は自分のしたいこと以外はやらないからな。


「それで?その馬鹿な邪神の手下の名前とか分かります?特徴でもいいんで。」

「そうだなー。確か…3人の中でもリーダー格っぽい奴がラフ、って呼ばれてたような気がしないでもない。」

「結局どっちなんですか。」

「ラフって名前だった!」


忘れがちだがこの人はウチの学校で王子様と評されるほどの万能チートなので、一度見聞きしたことは忘れない。この話も信用していいだろう。


「…因みに先輩はこの後どうするつもりですか?」

「もちろん、居座るけど?」

「働かざるもの食うべからず、です。」

「分かってるって!で?どうすりゃいい?」


せっかくだ。コキ使わせて貰おう。何度も言うがこの人はハイスペック。大概のことは何でもできるのだ。


「では、帝国の軍隊の動向の情報集めをして下さい。」

「それならこの先の草原に陣取るつもりらしいぜ。ま、それは囮で別働隊が居るんだけどな。」

「よし、それ全部飲み込んでしまいましょう。」


DPを稼ごう。金は幾らあっても足りないのだ。



˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚



勇者を擁する帝国軍はそれはもう気合が入っていた。長年の食糧不足に苦しむ帝国は王国の土地が、資源が、全て欲しかった。だから万全を期して準備をして来た。今回は勇者もいる。こちらが負ける道理などなかった。


(ふふふ…後少しであの大地がわしの手に…。)


立派な顎髭を弄りながらほくそ笑むアルトロ皇帝。でっぷりと出た腹が笑うたびに波打って揺れる。見栄っ張りで高慢、それがこの男の代名詞だった。勝ちが確定した訳でもないのに、この男は勝ちを確信して戦場に足を運ぶと言って聞かなかった。


たが、その鼻高々な自信もすぐに打ち破られることとなる。


囮として陣取っていた2万の軍勢とは別に静かになった森の中を闊歩する別働隊。その数1万。それは帝国軍の中でも精鋭とされており、その足並みは迷いがない。小隊に別れ予定どおりに進んでいく。予め森にモンスターが一体もいないことは調査済みでこのまま何事もなく王国の懐に潜り込む、はずだった。


森に潜む闇に誰も気づくことはなく、また一つまた一つと、姿を消して行った。跡形もなく、吸い込まれたかのように。



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