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第26話 エマージェンシー先輩

遅れてすいません…。直していたら0時過ぎていたんです……。


「勇者捕獲って改めて考えると難易度高いよな。」

『いつものマスターなら断ってたでしょうね。』


DPに狂ってたんだよ。凄いよなぁ、金の力って。この場合はDPだけど。


『それで?どうするんですか?』

「どうするもこうするも、やるしかないよ。」


だって失敗したらダンジョン破壊されるんだよ?deadだよ?やるしかないじゃん。


「そもそも勇者がどんな人物か分からないからな。まずはそこからだ。」


勇者の人となりを知って、好きな物があればそれで釣り上げるとかな。まずはうちのダンジョンに来てもらわないと。



˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚



勇者の身辺を調べようと決めて1週間。

ジンとリリーに潜り込んでもらった。スマホやカメラで撮影した写真を元に報告会だ。


俺は写真を持ってフリーズしていた。

そんな馬鹿なと笑ってしまいたい現実を突きつけられたから。


……

………だって、そんなはずは……そんな馬鹿な……よりにもよって……


「おかしいだろうがよぉ!!!何で工藤先輩がこっちにいんの!?馬鹿じゃねぇの!!!」


つまりは、そういうことだった。


写真にはこげ茶の髪の毛と黒色の目を持った整った顔立ちの青年が写っていた。見知ったどころか知り過ぎた容姿に俺は絶叫した。


「おっかしいだろ!なんでだ、こういう異世界転移ものの定番はクラスで人気な女の子とか幼馴染のツンデレかわいこちゃんが来るもんだろ!なんで、なんで、エマージェンシー先輩が来てんだよォオオオ!!!」


『いつに無く荒ぶってますね。どんだけ嫌なんですか。』


嫌だよ、何もかもが嫌だよ、チョイスに悪意を感じるくらいには。やる気が一気に削がれるほどには。俺はこの人が苦手、というか2度と関わり合いたくないのだ。言ってしまえば、駄女神様御一行よりも嫌かもしれない。


『そこまでですか。重症ですね。』

「あぁ…重症だよ…あの人の頭が。」

『はぁ?それで?一体この人はなんなんですか?』

「え?聞いちゃう?聞いちゃう?多分ウチのダンジョンに入れたく無くなるよ?」

『聞かないと先に進まないのでさっさと言ってください。』


分かったよ。聞いても後悔するなよ?俺は責任とらんからな?


俺の通っていた高校には一つ上に人気者の先輩が居たんだけど。


そう、御察しの通りそれが、工藤先輩だ。本名は工藤一輝クドウカズキ


本当に人気者だったんだよ。品行方正で顔も良かったし、サッカー部のエースで、確かテストも学年1位だったかな?アホみたいにモテまくってたし。完璧を絵に描いたような人なんだ、工藤先輩は。

それだけ人気だったから、あんまり興味のない俺でも知ってたし。


そんな人気者だったから俺には縁のない人間だろうなーって思ってたんだ。俺パソコン部だったし、幽霊部員だったし。


ん?なんで俺がそんなに工藤先輩のこと嫌がってるか、だって?見た目よくても落とし穴は何処でもある、ってこの間レットさん言ってたじゃん。…まぁ、つまりはそういうことなんだけどさ……


あれは高1の7月だったかな。夏休みの少し前だった。



˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚



俺ってついてない。本当についてない。特に今日は人生最悪の日と言っても過言ではない。

朝電車に乗ったら制服を扉に挟んで動けなくなるし、挟んだ側とは反対の扉ばっかり開いてそのまま学校の最寄り駅を過ぎた。かろうじて一つ過ぎただけでギリ学校には間に合った。

その後もホースの水で遊んでいた野球部に水ぶっかけられるし、帰り道には目の前に瓦が落ちてくるし……これは命の危機を感じた。


そして現在進行形でついてない。


「お前、○○高校の生徒だろ?」

「違います。」

「イヤイヤ、制服がそうだろ。」

「断じて○○高校の生徒ではありません。」

「いいから、金出せよ。私立校なんか通ってんだから金持ってんだろ。ほれ、ジャンプ、ジャンプ!」


絶賛絡まれております。助けて下さい。おい、そこのおっさん、関係ないとばかりにダッシュすんな、せめて警察呼びやがれ。

ガラの悪い3人組に因縁つけられてる俺はきっと死んだ魚の目をしていることだろう。

俺が何したっていうんだ。何もしてねぇよ。

歩いてたら知らない男に壁ドンされた俺の気持ちが分かるか?

私立校に通ってるやつが全員金持ちとかんな訳ねぇだろ。俺が苦学生だったらどうすんだよ。普通に裕福な家系だけども。

後、ジャンプとか古い、古いよ。俺そんな風にカツアゲする奴初めて見たよ。お前実は何十回も留年してんだろ。そこの顎髭。


と、まぁ、現実逃避をしていたが現状は何も良くならない。いつもの俺なら財布ごと(300円ぐらいしか入って無い。)渡して去っていくが、生憎とその方法が使えない。びしょ濡れになって運動部の友人が替えの制服を貸してくれてそれに着替えた時財布を忘れてしまったのだ。つまり無一文。こいつらは金を持ってない相手をひたすら脅しているのだ。一周回って滑稽だろう。何も笑えないが。


「いつまで黙ってんだよ!何か言ったらどうなんだ!」


現実逃避をしていたら、顎髭がブチ切れて拳を振り上げた。

もちろん俺は運動部でもなんでもないバリバリの文化系だったので大人しく受けるつもりだった。

俺の顔すれすれに拳が来た時、割って入る声が響いた。


「おい!お前ら、」


そこにいたのは、


「俺の生き別れの弟に何しやがるっ!!!」


ダー○ベイダーのマスクを被った、俺の生き別れの兄だった。


………いやいやいや、俺は一人っ子だよ。



「俺の生き別れの弟兼、相棒に手を出すなんて俺が許さねぇ!謎の仮面、美少女戦士、ミラクルエースがお仕置きしちゃうぞ☆」


「「「「………………」」」」


4人の沈黙が重なった。

ツッコミどころ満載すぎて何も言えねぇ。


一番最初に沈黙を破ったのは顎髭だった。


「おい、あいつお前の知り合いか?」

「FA?!いや、知らないですよ。というか、なんで俺に聞くんですか?」


「つれないこというなよ。お前は俺と戦おうと誓い合ったじゃないか。なぁ、孤独なヒーロー、ブラック!」


「…って言ってるけど、あれマジで知り合いなんじゃね?」

「俺あんなキチガイ知らないです。」

「ま、まさか、記憶を改竄されてしまったのか!?これを見るんだ、ブラック、これがお前の仮面だっ!見れば思い出すはずだ!」

「…って言ってるけど……」

「知らないですし、あんたの差し出してる仮面キ○ィちゃんじゃないですか。そっちは悪の総帥様だし、全く関連性のないお面持ってましたね。せめてあったものにして下さい。生き別れの兄なのに美少女戦士だし、後俺は一人っ子ですし。」


おおおお…と長文ツッコミを言い切った俺に加害者の3人が感嘆の声を上げた。テメェら覚えてろよ、こんなキチガイ連れてきやがって。どうしてくれるんだ。マジで怖いんですけど、得体が知れなさすぎて。今気づいたけどこいつの制服、ウチのじゃん。同校じゃん。俺の友人にヤバイやついなかったよな?な?むしろ無関係の奴が堂々と関わってきてることの方がヤバくないか?


「とにかく、俺は正義の味方だ。助けに来たぜ?ブラック!」


「え、どうするよ?」

「いや、俺あいつに関わりたくない…なんかヤバくね?」

「もう良くねぇか?頭おかしいやつカツアゲしても仕方ねぇよ。」


おい、待て、不良ども。俺と総帥を一緒にすんな。俺は普通だ。普通だ。一般ピープル、OK?


「俺たちはこれで…んじゃあな、悪かったよ、変な言いがかり付けて。」

「あんなヤバイやつとダチだったなんて知らなかったんだよ…」

「マジで止めろ下さい、風評被害がヒドイ。俺と総帥関係ない。」


そそくさと危ないやつから逃げ出す不良。


残された俺とダー○ベイダー。


俺は今世紀最大ついてないだろう。


………逃げるが勝ちだな。


「何処に行くんだ?弟よ。何か言いたいことは?」

「助けてくれてありがとうございます。兄さん。どデカイ勘違い作ってくれやがっていっぺん氏ね。」

「お前いい性格してんな。」


俺はバックを奪われて動くに動けなくなってしまった。ちくしょう、最悪バック見捨てるか……?


「えーと、1年2組5番小原朝陽くんね。覚えたぜ。」

「おいこら何人の個人情報覗き見してくれちゃってるんですか?!」

「そういう訳だ、よろしくな!ブラックよ!」

「勘弁してください、ミラクルエース。いや、本当に勘弁して下さい!!!」


そう言ってダー○ベイダーの仮面をそりゃもうカッコ良く脱いだキチガイは、ウチの完璧王子様こと、工藤一輝先輩だった。


˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚


「それからは最悪だった。完璧過ぎて中々友達が出来なかった工藤先輩の友達100人出来るかな?作戦に駆り出されたり、般若面を装着して全力で追いかけてきたり、エース参上☆って書かれた貼り紙されたり、俺の水筒の中にタバスコ入れたり、厨二病についての考察を延々聞かされたり、とにかく、最悪だった。」


『それは、まぁ、なんというか、凄い人ですね。』

「うん、凄い。何が凄いってそんだけ悪ふざけしても王子様地位が揺るがなかったことだよ…。」


今でもあの日のことは夢に見る。どアップで総帥が出てきて俺を追いかけ続けるのだ。怖い。ものすごく怖い。


「そういうことがあった訳で、分かったでしょ?俺が如何にあの先輩に会いたくないのか。」

『はい。よく分かりました。マスターの先輩がその方でとっても納得できました。』

「待ってそれどういう意味?」

『先日神様に言っていた〈類は友を呼ぶ〉という諺は的を得ているという意味です。』

「類?俺が?」


それは絶対に無い。今のはあの人の1割も言い表せて無いのだ。


「…まぁ、会えばわかるよ。」

『会えば、って会うんですか?』

「会うよ。ダンジョン潰されたらたまんないし。」

『どうやって?』

「手紙出してみる。」

『リリーに渡させるんですね?』

「うん。内容どうすっかなぁ。」



……はぁ…会いたくねぇなぁ。

日に日に俺の理想の日常が遠ざかっている気がする。

次回、エマージェンシー先輩とご対面。

主人公のSAN値がガリガリ削れます。乞うご期待。

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