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第25話 ご依頼は前払いで

ブクマ、評価、ありがとうございます。

申し訳ありませんが、明日明後日の更新をお休みさせていただきます。話は決まってるのに書く時間が無いんですよね……。


前回……の記憶があやふやだ。何か大事な事を忘れているような気がする。


「あははは、気にしたら負けですよ?」

「そうですね…」


だがしかし、イヴ様に何かを植え付けられたのだけはハッキリしている。条件反射のように体が跳ねて距離を取ろうとするからだ。


…一体何があったし。


『マスター、覚えてない方が幸せなことも有るのですよ?』

「さいですか……。」


レットさんが言うならこのまま覚えてない方が良いのかもしれない。これ以上ほじくり出すのは止めておこう。


それより大事なことがあるのだから。


「はぁ……20万DPが……」

「ふん!余計なことするからよ!」

「大枚叩いたのに……」


ひでぇよ、おっかさん……。

俺が記憶喪失に陥っている最中に、破った結界をグローリア様が再び張り直してしまったのだ。俺は無意味に20万DPも消費したという訳だ。


何故だ、何故こんなに上手くいかないんだ……。


それともアレか、【神様魔法破壊装置ゴッズ・アンチ・マジック・キューブ】のさらに上、【究極魔法破壊装置アンフィニ・アンチ・マジック・キューブ】を買えば良かったのか?この世に存在する全ての魔法を破壊出来る装置だ。性能も段違いの代物。俺が買わなかった理由はただ一つ。


「100万DPとか馬鹿だろっ…!」

『さすがに手が出ませんでしたね。』


そう、お値段が高過ぎるのだ。100万、100万だぞ?全財産持ってかれるわ。いきなり極貧生活だよ。ああああ、もっと貪欲に稼げば良かった。


「もう諦めなさいよ。」

「……貴方がいなくなってくれれば、俺はこの世で最も幸せな人間になれると思います。」

「あんたの幸せ安いわね。」


だって、さぁ。疲れてんだよ、俺は。

ここは俺のダンジョンであって、あんたらの安息地じゃないんだ。

俺はレットさんやモンスターたちとダラダラ話しながら、侵入者を撃退したりして過ごしたいんだよ。俺の理想の日常はあんたらがいると訪れない。

だから、帰れ、帰ってくれ、頼むから。


そんな風に言い争いをする俺たちを見て何を思ったのか、


「御二方は付き合っているんですか?」


と、イヴ様が言ってきた。


……今何と?



「な、なななな、あ、あんた、何くだらないこと言ってんのよ!!こ、この私とこんな冴えない男が付き合ってる訳ないじゃない!!!」

「あははは、顔真っ赤ですよ?かっわいいですね〜。」

「んなっ!」


イヴ様の言葉にグローリア様の顔を見ると真っ赤だった。おい、誤解が深まるじゃねぇか。ちゃんと否定しろよ。


「何を恐ろしい想像してんですか。万に一つもありませんね。天地がひっくり返っても、グローリア様が仕事に精力的に取り組み駄女神を卒業できても……そうなったらあるかもしれませんね。」

「はいっ!?」


仕事に真面目に取り組み、毎日活動的で面倒くさがらず、時々差し入れ(ダンジョンポイント)してくれたら……イケるかも。だって見た目だけは異世界ヒロインだよ?金髪のゆるいウェーブのかかったロングヘアーにボンッキュッボンッの出るとこ出てるプロポーション。うん、美人だし、可愛い。キャンキャン喚くのも照れ隠しだと思えば、許容範囲だ。


「ふむ。改めて見ると美人ですよね。」

「ちょ、なんなのよ!一体!」

「分かります。グローリア様って美人ですよね〜。羨ましいです。」

「イヴも揶揄わないでよ!」

「別に揶揄ってないですよ。心の底から美人だと思ってます。」

「うっ…!」


スッゲー照れてんな。顔さっきよりも真っ赤だし目が忙しなく動いてもじもじしてるし。

あー、この人褒められ慣れてないな。普段ダラダラしてるから、怒られるばっかりなんだろ。本当、中身がなぁ。


「うん。中身がなんとかなれば文句無しです。」

「なんであんたなんかに文句つけられないといけないのよ!」

「2人ともお似合いなんですけどね〜。付き合えばいいのに。」

「無理っすね。」

「なっ…!」

「グローリア様も嫌でしょ?」


俺みたいな平々凡々なやつと付き合うなんて。プライドが許さないことだろう。

案の定、怒りで真っ赤になった顔で怒鳴りつけてきた。感情の起伏が激しいなー。


「そ、そうよ、嫌よ!あ、あり得ないわ!」

「ね?」

「ふーん。」


なんか納得のいってない顔してるけど俺にはどうでもいいな。

それよりも聞きたいことがあったんだよ。どうせ入り浸るなら全て吐いてもらおう。


「それよりも。」

「それよりってあんた、今の話より大事なことがある訳!?」

「え?今の話題ほど生産性のないものありました?」

「ぐぬっ!」

『マスター…』


何さ。レットさんもなんなの、そのダメなやつ見るみたいな文面は。俺別に変なこと言ってないぞ?


「まぁ、頑張って下さい。グローリア様!」

「私はそんなんじゃないから!そんなんじゃないからね!」


またなんか喚いてる。あの人ずっと大声出してるけど声枯れないんかな。


「話進めますよ。グローリア様って最近勇者召喚しました?」

「勇者?最近って、5年前ぐらい?」


おお、さすがは神様。最近のスパンが長え。5年は最近なのか、神様からしたら。


「いえ、ここ1年ぐらいの話です。ギッツァ帝国に勇者が召喚されたらしいんですよ。」

「え?私そんな事してないわよ?最後に召喚したのは5年くらい前だもの。新しい魔王が出てきたから。」


じゃあ、帝国に現れた勇者はグローリア様が召喚したんじゃないのか。つーことはぱちもんの可能性が高いな。


「しかも帝国ですって?あの国は戦の神の管轄だから手出しはできないわ。」

「神様に管轄あるんすか……。」


神様って意外とちゃんと管理されてるのね。自分の統治する国まで決まっちゃってんのか。先輩後輩もあるし…縦社会かよ。

戦の神って…【乙女ノ強剣(バルキリー・ソード)】の元になった女騎士のことかな。あの神話って事実なんだ。ワクワクするよな〜。そういう伝説とかって。


「帝国に勇者ねぇ……少なくとも正規のルートじゃないことは確かね。天界では私にしか権利が認められてないもの。」

「てか、気付かなかったんですか?勇者が出てきたって騒がれてんの。」

「私は位の高い神なのよ。たった一つの世界だけを管理してる訳じゃないんだから、ずっと監視してられないわ。」

「尚のことここにいちゃダメなのでは……」

「それとこれとは別よ。」


そっすか。もう説得するのも諦めましたよ。

地球のことを知ってるんだし、この世界だけ管理してる、ずっと見てることは出来ないか。忘れそうになるけど忙しい神様なんだもんな。全然そんな気しないけど。


「ですが、それが本当なら召喚した神は堕天することになりますね。」

「それもあるけど…そんな事したら流石にバレるわよ。天界は厳しく管理されてるのよ?バレてないなら天界じゃなくて魔界の堕天した神よ。」

「そもそも帝国の妄言の可能性もありますがね。」

「それが一番確率高いかもしれませんね。人間はよく分からないことをしますから。」


リット爺の言っていた怪しい魔界の神様の可能性もある訳か。どっちでも良いけどさ。


「そうねぇ……決めたわ!」

「却下。」

「まだ何も言ってないわよ!」

「決めたって言ったじゃないですか。グローリア様が決めたことは大概良くないことなので。」

「そんなことないわよ!」

「まぁまぁ、話ぐらい聞いてあげましょ?」

『マスター、聞いてあげましょう。』


ううむ。イヴ様とレットさんが言うんじゃなぁ。断れないじゃないか。


「フゥ…分かりましたよ。聞くだけ聞いてあげます。」

「なんで上から目線なのよ!全くもう。あんたには崇める気持ちが……」

「ほらほら、今がチャンスですよ。話して下さい。」

「はぁ、分かったわよ。アサヒ!」

「はい。」

「その帝国の勇者とやらを捕まえなさい!」

「え?捕まえる?」

「そうよ!」


ビシィ!と俺を人差し指でさすグローリア様を見上げる。高圧的である。

勇者を捕まえる?仮にも勇者だよ?賞金もかかってないのに…えー割にあわねぇよ。


「一応聞きますけど理由は?」

「正体さえ分かればわざわざ捕まえなくてもいいんだけどね。捕まえて、勇者と勇者を召喚した者に制裁を加えないといけないのよ。」

「魔界の者だった場合は消し去らないとですからねぇ。」


2度目はないってヤツか。

天界の神様なら大問題だよな。管理してる神様の責任問題とか面倒くさいことになりそう。日本みたいな感じかは知らないけどさ。政治家の謝罪会見的なのやりそうじゃん?


「それで、俺に捕まえさせて吐かせろと。」

「そうなるわ。天界の管理委員会が出るほどの案件じゃないし。」


所詮人間の戯言だ、と片付けられるわけね。

管理委員会とかあるんだ……。


「私としては早めに芽を潰しておきたいのよね。魔界の連中がやらかしたのだとしたら面倒だもの。力を蓄えられたりしたら。」

「完全にグローリア様の事情じゃないですか……。」


モチベーションが上がらないでーす。テキトーにやって、精一杯やったんですけど…って言って終わろうかな。


「物凄い不服そうな顔してるわね。」

「凄いですねー。全然分かりませんよ。あれ不服そうな顔なんですか。よく見てますねー。」

「な、見てないわよ!」


俺ってそんな無表情かな?結構顔に出るって言われるんだけど。家族とか友人に。


『初対面には分からないと思いますよ。長く付き合えば、分かりやすいです。』

「ふーん。」


イヴ様には分かりにくいのか。分かる人に分かればそれでいいけど。

またキャンキャン喚いていたグローリア様が突然こちらを向いて宣言した。


「だから、100万DPでどう!?勇者の生け捕り!」


な、なんですとぉ!!?


ひゃ、100万DPもあれば、【究極魔法破壊装置アンフィニ・アンチ・マジック・キューブ】が買えるじゃないか!!!

だ、だけど…相手は勇者だぞ?俺なんかが出来るのか?…違うだろ、出来るのかじゃなくて、やるんだよ!今はDPが欲しい!


『マスター、目がDPになってます。』


レットさんが何か言ってる気がするが気にならない。今の俺は金の亡者ならぬ、DPの亡者だからな!


「どうかしら?」

「前払いで。」

「は?」

「前払いでしか受け付けておりません。」

「しっかりしてますね〜。」

「くっ、仕方ないわね!ほら!」


『100万DPを獲得しました。』

「よし、【究極魔法破壊装置】購入!」

『100万DPを消費します。』


手元に赤い色の立方体が現れる。

俺が勢いよくボタンを押そうとすると二つの声がストップをかけた。


「ちょ、あんた何してんの!?止めなさい!」

『あ、マスター!使用するのをグローリア様の制作した結界のみに指定してください!』

「オッケー!ダンジョンを覆ってる結界を破壊しろ!」


何故レットさんがそんなことを言うのかわからないが従っておく。レットさんが言うことは正しいからな。

声だけでなく飛びついてきたグローリア様を避けボタンを押し、起動。

赤い光を放つ。おお、これは行ったか!?


『破壊されました!メールを送信します!』

「勝った!」

「あ、ああああ〜〜!!」

「あははは、残念でしたね。グローリア様。」


フッ、詰めが甘いんだよ!今回も俺の勝ちだ。何が勝ち負けか知らないけどさ。


「それじゃ、帰りますねぇ。また来ます。今度はお酒を飲みながら愚痴でも聞いてください。」

「はぁ、愚痴を聞くぐらいならいいですけど…」


俺は断っておけば良かったと後々後悔することになる。この時の俺は知らないが。


「ああ、ちゃんとご依頼は受けますから。ご安心を〜〜。」

「絶対よ!?もし出来なかったらダンジョン潰すからね!?」

「は、ハイ。」


すっげえ形相。美人がもったないっすよ。これは何が何でも勇者捕獲しないとな。


2人の神様の後ろ姿を見ながら、俺は勇者捕獲計画を練るのであった。


……勇者って大概リア充だよね?その場合は新たな人生を迎えさせようかなぁ。



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