第21話 やるときゃやるんだよ
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急所を蹴った。
分かるぞ、その痛み。俺も痛いほど分かる。失神もんだと思う。普通に蹴り入れるだけで何とも言えない鈍い痛みがせり上がってくるのだから。そのあとも痛みを引きずるしな。今回はアーミィの補正付きの強打だ。やった俺でさえ同情する。
ハゲの男は股間を抑えて、脂汗を滝のように流し転がっている。うへぇ、汚いなー。
「あ、アサヒ、なんで、」
「おー、リーベ無事だったか。シルバが血相変えて走ってきたから何事かと思ったぞ。まぁた無茶しやがって。」
「それは悪かったけど、て、そうじゃ無くて、こいつ帝国の騎士だぞ!?こんな事したら…」
あーそんな事言ってたな。つーかそれ言うならお前だって相当無茶な事してたぞ。こいつが本物の帝国の騎士なら、打ち首もんだぞ。
「人の事言える立場じゃねーだろーが。大丈夫だよ、このおっさん、偽物だからな。」
「え?に、偽物って、こいつ帝国の騎士じゃないのか!?」
多分。間違ってたら俺はダンジョンに篭る。外出しないぞ。帝国から命狙われるなんて嫌だからな。
「そーだよな。おっさん。」
「な、何を、根拠、に」
お、このおっさん根性あるな。まさか意識ぶっ飛んでないとは。声かけたけど返答があるとは思ってなかった。意識があるどころか剣を杖にして立ち上がった。内股だけど。異世界の男はナニも強くできてんだろうか。
「根拠って、帝国の騎士の鎧は背中と右肩、右胸に帝国のシンボル“乙女ノ強剣”が入ってんだろーが。」
“乙女ノ強剣”
真っ赤な剣と真っ白な翼が描かれたギッツァ帝国のシンボルだ。その昔、帝国は強大な悪魔に滅ぼされそうになった。その悪魔に1人の赤髪の女騎士が立ちはだかり見事国を救ったという。女騎士はその功績が称えられ純白の羽を与えられて神となった。そんな伝説を基にこのシンボルが出来た。このシンボルは必ず帝国の騎士の鎧に入っている。
何故俺がそんなことを知っているのかというと、リリーがいろいろ調べてきてくれたから。俺はこの集落とダンジョンの行き来しかしていないが、リリーは積極的に歩き回り帝国領土の大都市にも顔を出している。おかげで新鮮な情報や基本的な情報が大量に入ってくる。確かに帝国が戦争への準備をと、領主やらから金や食料の徴収を行っているが、こんな場所にまで騎士が歩かされているなんて事はない。
「そもそも、こんな帝国と王国の国境付近に帝国の騎士が堂々と入ってくるかよ。喧嘩売りに来たと思われて殺されるぞ。」
しかも単独で。ありえねーだろ。ここは殆どフィルティ大森林内なんだぞ。国境付近には王国の偵察隊が四六時中見張ってピリピリしてんだぞ。偵察で来るならまだしも、こんな狙ってくれと言わんばかりに来ねーだろ。
「大方、騎士のフリでもしてそれっぽい理由つけて奪ってくつもりだったんだろうな。帝都に近い村じゃ騙せなかったろうが、ここみたいなど田舎ならゴリ押し出来ると考えたってところか。よくて見習いの騎士、態度の悪い冒険者、悪くて盗賊、かな?」
頭が足りてねーけどな。途中から盗賊丸出しだったし。あんなキレやすい騎士いるかよ。ゴリ押しでいけるわけが…ん?いや、冷静に考えれば誰かがおかしいことに気づいたかもだけど、見張りが斬られてテンパってたから無理。案外ゴリ押しでいけたか。
「くぅ…なんなんだよ、テメェは!」
「何って、正義の味方?」
「ふざけんじゃねぇ!」
「冗談、冗談。俺の名前は孤独なヒーロー、ブラックだ!」
「アサヒ…何してんの…?」
そんな冷ややかな目を向けんなよ、リーベ。助けてやったというのに。せっかくカッコよく決めポーズまでしたのに恥ずかしいじゃないか。
「仕方ねぇ、最初っから力づくで奪えばよかったんだ…リーダーがわざわざ回りくどいこと提案するから…」
リーダー?ってことは、単独犯じゃなくて他の村も襲ってる可能性が高いな。他2つはリリーたちがいるからなんとかなるとして……ラスト1つは誰もいねぇからなぁ。ここの集落、若いやつ出稼ぎに出てて残ってるの数人しかいねーんだよな。ダンジョン外じゃ通信も使えないし、あいつらにスマホ持しておきゃよかった。
「まずはテメェからだぁ!死ねぇ!!!」
「お、わ、」
飛びかかって来た剣を交わして、後ろに回り込む。ガラ空きになった背中に強烈な回し蹴りを決める。
金属と金属のぶつかり合う音が辺りに響いた。そのまま前のめりに倒れるおっさん。
剣を握る右手の甲目掛けて、突きを放つ。
貫かれた手から血が噴出する。右手を貫かれたことにより、剣が手を離れた。
すかさず、リーベが剣を回収した。いい仕事するじゃないか。
いやー対人訓練しといてよかった。主に鬼人たち相手に。
倒れたおっさんの顔すれすれに剣を突き立てる。動けないように体重を掛けて背中を足で踏む。ヒッ、と掠れた音が漏れた。
「んで?この後どうするの?大人しく帰ってくれれば、命までは取らないけど。」
さすがにダンジョン外の人間の命取るわけにもいかないしね。線引きをしておかないと俺がやってけない。ダンジョンマスターになって殺人に抵抗なくなったとはいえ、進んで殺しをしたくないんだ。当たり前だな。
「う、るせ、この後仲間が、来て、お前なんかー…」
「主、何やら怪しい人物がいたので捕まえてまいりました。帝国の騎士と名乗っておりますが、虚偽だと思われます。」
「私たちのいなかった村へも行って来ましたわ。案の定仲間と思しき男が喚いてらしたわ。あら、ご主人様1人で?さすがですわね。」
「お、あんたの言う通りお仲間が来たみたいだぞ。よかったな。」
騎士のフリをした賊は合計4人。それぞれが別々の村へ行っていたようだ。リリーの機転によりすぐさま他3つの村に来ていた賊は確保され、特に被害もなく事件は収束した。俺たちがダンジョンにこもってた時に来てたら大変だったな。
「どうします?これ。」
「んーー…」
この世界には警察なるものは存在しない。警察に代わって軍隊、騎士がいるのだ。でも彼らが守るのは基本的に帝都などの主要な都市だけ。僻地の領主は自分で衛兵などを雇う。こういった賊を撃つのは冒険者の仕事だからだ。で、仕留めた賊に応じて懸賞金が懸けられていれば金が貰える。つまり冒険者ギルドに持っていくのが正しいのだ。でも俺たち本職じゃないし。むしろ勝手に冒険者名乗ってたのがバレて処罰されるんじゃあ…。それに目立ちたくないし。
「森にでもほっぽって置くか。どこぞへでも逃げんだろ。」
「いいのですか?またこの村に来るかもしれませんが……」
「あぁ、だからちょっと痛い目を見て貰おう。」
「?」
俺たちは賊4人を抱えて森へと向かった。村人たちはもちろんついて来ていない。ドサリと乱暴に地面に落とすと賊のうちのリーダーらしき男が喚いた。
「な、何をする気だ!」
「後悔してもらおうと思って。」
「はぁ?後悔?」
「あぁ、俺たちを、あの村を襲ったことへの後悔。」
パチンッと指を鳴らすと俺たちの前に大きな影が差した。
俺の背後にはドラゴン。赤く大きな翼を広げ悠々と佇んでいた。
「ふ、フギャァアアアッ!!!!」
「あがっ、ああああああ、」
突然モンスターの中でも災害指定種になっている竜種が現れたことに絶叫を上げる男達。
「分かったか?お前らは逆鱗に触れたんだよ、次は無いぞ?」
「は、ははは、そんな脅しでこの俺様が言うこと聞くとでも、どうせ幻覚か何かだろ?」
お、リーダー格の男はビビってはいるが平静を保ってるな。このレベルの幻覚魔法を俺が使えたらお前らもっと危険だろ。
「そうか?じゃあ…やれ。」
「グルオアアアアアアっ!!!!」
ドラゴンが荒れ狂う炎を口から噴き出した。ブレスは空へと炎の柱を作った。おーカッケー。あー羨ましい。
「ヒッうわ、熱っ!な、なんで、幻覚なんじゃあっ!」
「残念だったな。このまま喰われるか大人しく逃げるか、どうする?」
俺としては死んでくれてもいいんだけどな。ここダンジョン内だし。どうぞ、DPになって下さい。
「わかっ、分かった、逃げる、逃げる!もう2度とあの村にもあんたらにも手をださねぇ!」
むしろこれで食べられますっ!って言ったら変態だけどな。
俺は約束通り男達を逃した。そこまで飢えとらんしな。あそこまで脅せばもう2度と関わってこないだろう。あのリーダーはそこまで馬鹿じゃ無いようだし。
「お疲れ、ライム。」
「全くもう、僕たちは脅し要員じゃないんだよ?」
「わりーわりー。」
お分かりだろうが、あのドラゴンはライム達の合体変身だ。どうしてもドラゴンが見たくて俺の理想図(先日の妄想)を教えて変身してもらっていた。
「あのブレスは凄かったな。俺は咆哮してビビらせるだけだと思ったのに。」
「ふふん。キラリに魔法教えて貰ったからね。練習したのさ。」
やっぱりか。あー羨ましい。魔法使いてーよ、俺も…
「いちいち落ち込まないでよ。マスターだって強いじゃん。」
「そうですよ。マスターは自力で1人を制圧できたではありませんか。他の分野で鍛えれば良いのです。」
「毎日頑張ってるのですから、自分に自信を持つことも大切ですわ。」
「お前ら……」
3人の褒めっぷりが何とも言えない。気を遣わせてすまんな。俺ももっと頑張るよ。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
「俺頑張ったろ?レットさん。」
『そうですね。驚きました。あのビビリのマスターが、まさか臆する事なく立ち向えるなんて。』
レットさん、俺別に全部が全部にビビってるわけじゃないからね?俺が怖いのはお化けとか得体の知れないものであって、ゴロツキにはビビらんよ?何せ、アーミィの鎧着てるんだよ?こんなど田舎にたかりに来るような奴相手に負けないって。
「それに、普段トリス相手にやってればね…」
『トリスに比べたらそこらへんのゴロツキなど塵芥に過ぎませんね。』
本当そのレベルだよ。
あんなのトリスに比べたら可愛いもんだよ。本当、鍛えておいてよかった…。なんか俺の戦闘シーンは特にかっこよくない気がする。もうちょっと長くしてもよかったんじゃない?
『マスターが手こずるほどの相手ではなかったという事でしょう。』
「それもそうだね。」
ふー、にしても疲れたなー。もう当分外出たくない。けど、またああいう事があるかもしれないし。戦争っていうのは混乱をもたらすからな。色んな出来事が入り混じって真実が分からなくなる。
これはリリー以外にも情報収集係を作るべきだな。誰にしよう。キラリちゃんは…あの子は嘘がつけないからなー。ギンは第2階層のモンスターのリーダーみたいになってるし。ふむ、鬼人の中から1人出すかな?10人はいるんだし。というかいっその事ジンでいいんじゃね?今の所あいつは俺の護衛ばっかしてるんだからな。だったら冒険者に登録させるのもいいかも……。あーでも、人かどうかを判別する不思議道具があるとしたら、マズイなぁ。
『ビービービービー!!!』
「いっ!?」
考え事をしていたら唐突にレットさん式警戒音が鳴り響いた。これは迷宮内に侵入者が来た場合になる。今まではフィルティ大森林内に侵入者が来た時点で鳴っていたが、鳥やネズミにも反応するため余程の事がない限り鳴らさないように設定し直したのだ。じゃないと睡眠が妨害される。
「迷宮に入ったってこと?今どこ?」
『入り口ですね。映像出します。』
映し出されたのは、つい先ほどまで話題になっていた4人組。…そう、あの騎士もどきだ。
2度と関わってこないって約束破ったからDPにしても問題ないよね?いやータイミングばっちりだよ。リット爺がいい加減死体が欲しいって言ってたからさ。
4名様ご案内〜〜♪




