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第20話 喧嘩とは情け容赦無用である

先日ブクマが100超えました。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。


「今日のご依頼はー、肉と牧、木材、古くなった家の建て直し、リリーを指名で酒場の手伝い、いつもの薬草…ウチは便利屋か?」

「それに近い仕事ではありますわね。」

「家の建て直しって俺たち本職じゃないんですけどね。」


村で冒険者を始めて一ヶ月。正確にはリーベの住んでいる村と近くにある他の3つとを合わせて合計4つの村で働いている。この4つの村は集落のようになっていて、村民同士が協力しあって生活しているので、俺たちの話がそちらにも行き依頼されるようになった。おかげでリーベ達が住んでいる家が俺たちの事務所扱いになりそこに依頼が行くシステムになった。

うちのダンジョンには相変わらず人は来ず、俺の仕事は主に村民から頼まれる力仕事や森での採取になっていた。一ヶ月もやっていれば村民からの信頼も高くなる為、今じゃ仕事はたくさん来る。4つの村だし、余計に。結構困り事は多いんだよな。


「俺はダンジョンと森で木の伐採と薬草、肉。リリーは酒場で、ジンは家の建て直し。出来るか?」

「ど素人なのでなんとも言えませんが、単純に男手が必要なだけかもしれません。行ってみるだけ行ってみます。」

「私の方はいつもやっているので大丈夫ですわ。ご主人様もお気をつけ下さい。」

「そうですね、いくらダンジョン内とはいえ何が起こるか分かりませんから。」

「おう。」


俺は森に残ってまずは木の伐採だ。チェンソーで。ギュリリリリィンと派手な音を立てて刃が動く。これもアーミィの変身だ。進化の時に食べさせておいたら変身できるようになっていた。鎧でチェンソー。このアンバランスな装備な。日本だったら捕まる自信がある。


「んじゃ、アーミィ宜しくな。」

「ピュイ!(あいあいさー!)」


倒す方向を決めて、それに合わせて大体30度ぐらいの切れ目を入れる。次に反対側から最初に入れた切れ目の3分の2の大きさの切り口を真横に入れる。そうすると倒す方向に入れた切れ目が潰れて倒れる、という訳だ。テレビで一気に切ってはダメなのを知ってはいたが最初のうちはチェンソーの扱いすら慣れなくて苦労したものだ。

切り倒した木は枝を落としてちょうど良い長さに切り揃える。皮を剥いで電動ヤスリを掛けてツルツルに加工。これはさすがに買った。武器ではないからアーミィは変身出来なかった。ライム達は変身できるが性能が下がるのだ。


「うし、こんなとこかな。」

「マスター!薬草持ってきましたー!」


手っ取り早くスマホを使ってレットさんに連絡しておいた。取りに行くつもりだったんだがイアンがわざわざ持ってきてくれたようだ。


「おお、悪りぃな。」

「ううん!役に立ちたいだけだから、これからもどんどん頼ってください!」

「おう、たくさん頼るわー。頼むな。」

「えへへ〜。」


わしゃわしゃと撫でてやると満面の笑みを浮かべるイアン。あぁ、可愛い、うちのちびっ子皆んな可愛い。リット爺が溺愛するのも分かる。あそこまで行ったりはしないけど。そうそう、リット爺のドルオタストーカー化は何とか防ぐことができた。イアンのアフターケアが効いたらしい。俺はとりあえず、お爺ちゃん大好きと言っておくようにしか頼んでないので、何がどう効いたのかは分からない。


「主!」

「次はギンか。」


第2階層を守護するサハギンだったギン達は進化して、【大海ノ槍マーキュリー・ランサー】という半魚人のような姿ではなく、腕と足に青色の鱗があるだけでそれを隠して仕舞えば、ほとんど人とは変わらない。当たり前のように新種である。

俺のダンジョンのモンスターがやたらと人型に進化するのは俺の願望が反映されているんだと、レットさんが説明してくれた。俺は心の中では人との繋がりに飢えているのだろうか。モンスターでも別に良いんだけどなぁ。

ちなみに炎竜の卵はトオリに預けた後特に変化なし。早く生まれてくんねーかなー。ボスモンスター無しなのはちょっと。


「ギンはどうしたんだ?」

「肉をレット殿から預かって参りました。」

「そっか。悪りぃな。使いっ走りにして。」

「いえ、我々は主のためにいるのですから。存分にお使い下さい。」


うちのモンスターの忠誠の高さよ。有難いわー。こんなのダンジョンのモンスターの仕事じゃないのに、嫌な顔せずやってくれるし。


ダンジョンに戻る2人を見送って作業を再開。牧を切るのだ。切り株の上に乗せて斧で叩っ斬る。こう言った力作業も皆んながやってくれようとするのだが、俺が依頼を受けたので自分でやるようにしている。おかげで筋肉がついて来た。最初はアーミィの鎧補正がなかったらまともに持てなかった斧も、軽々振り上げられるようになった。


材木と牧を縛ってまとめ、木で出来たリヤカーに乗せる。もちろん手作りだ。買おうと思ったのだが材質がこの世界では違和感がありすぎるので却下した。試行錯誤の末それっぽい物が出来上がった。村民からも買い手がつくほどの人気商品だったりする。リヤカーに乗せても何本もの木は重いので俺が運べるはずもないのだが、そこはアーミィ達の補正。苦もなく歩ける。素晴らしい。


草原を真っ直ぐと歩いて行くとリーベ達の住んでいる村が見えてくる。今日はリーベ達の住んでいる村とそこから南に進んだ村に木材を卸すんだったな。…そういえば村に名前ってあるのだろうか。後で聞いてみよう。呼びづらい。


あれ?なんか村の入り口が慌ただしいな。いつもは皆んな柵の中にいるから門のあたりに人が集まってるなんて珍しい。…ん?誰かが倒れてるな?医者の爺さんが居るし。なんだ?モンスターでも出てきたのか?だとしたら、他の森からやって来たってことか?って、今はそれどころじゃ無い!


「どうしたんですか!?」

「アサヒさん!」

「え?」


大きな声が聞こえたので視線を向けると、シルバが息を切らして駆けてきた。一体何が起こったんだよ。どうしたんだ?


「リーベがっ…!」




【sideリーベ】



「それじゃあ、アサヒさん達によろしく伝えといてね。」

「おう!」


隣村から依頼に来たおばさんを見送る。依頼内容は肉卸しか。あのおばさんの家、酒場だもんな。えーと、肉の依頼は…


「お兄ちゃん、お肉の依頼はこの引き出しだよ。」

「あ、そっか。悪い。」


妹のエリナが手に持っていた依頼票を取り、肉の依頼票が纏められた引き出しに入れた。


俺たちは村の孤児で大人達の世話になっていた。タダで世話になるわけにもいかないから、農作業や家事の手伝いをしたりしていた。そんな毎日を送っていたらある日、草原を抜けた先にあるフィルティ大森林でモンスターが突然いなくなった。本当はいたんだけど…俺は静かになった森を見てチャンスだと思ったんだ。だって、フィルティ大森林にはシロヌイ草が生えていてそれを俺が採ってこれれば、金を稼げて俺たちは俺たちで生活出来ると思ったから。村の大人達は皆んなギリギリで生活してて自分の家族だっているのに、頑張って俺たちの面倒を見てくれてる。本当は働き手が1人でも必要で俺たちの面倒を見る暇なんか無い。だから、少しでも俺が頑張ろうと思って。


「探してやる。」


そう言い切った黒い鎧に黒い目に黒い髪、全身真っ黒な奴。それが俺がアサヒに対して初めに思ったことだ。

3人パーティーのリーダーでこんな何にも無い村を拠点にすると言った変わり者。来ると必ず美味い飯を作ってくれて、俺たちにタダで食べさせてくれる。俺たちが勝手に他の村からの依頼を受け付けて纏め始めただけなのに、給料だと言って金を払ってくれた。


あの日、アサヒと出会ってから良いことばっかりだ。アサヒはお人好しだ、良いやつだ、凄いやつだ。俺もいつかアサヒやジン兄ちゃんやリリー姉ちゃんみたいなカッコよくて優しい冒険者になるんだ。


「お兄ちゃん、ニヤニヤしてないで仕事してよ。お金貰ってるんだからちゃんとやらなくちゃ。」

「分かってるよ!」

「そんなんじゃ、アサヒお兄ちゃんみたいになれないよ!」


うぬぬ。俺の方が年上でお兄ちゃんなのに…妹のくせして偉そうに命令しやがって…。シルバにもしょっちゅう叱られるし…あいつよりも俺の方が一個上なんだぞ。見えないとか言うな!


「我々は帝国の騎士であるぞ!だと言うのに逆らうとは何事か!」


依頼の取りまとめをしていたら怒鳴り声が聞こえてきた。聞いたことの無い声だから余所者だな。騎士?って言ってたけどどうしたんだろう。興味本位で見に行ってみると、偉そうにふんぞり返った銀色の鎧を来たハゲ散らかした男と、その男ににへこへこする村長。


「いえ、逆らうとかそういう訳ではなく…渡せる食料などとてもとても……。」

「全くないという訳では無いだろう。今あるものを全て差出せ!!」

「む、無茶言わんでください。こんな小さな村では皆んな食っていくのにも精一杯なんです。そんなことをしたら皆飢えて死んでしまいます!」

「いいから、しのごの言わず差出せ!」

「ヒッ…!」


騎士の男が剣を抜き放った。そのままそれを村長に振り下ろそうとする。体が怒りでカッと熱くなって転がっていた石を男目掛けて投げつけた。


ガツン!


石は男の鎧に当たり大きな音を立てた。勢いそのままに叫ぶ。後ろでエリナが何か言っている気がするがそんなの気にならない。


「お前何聞いてんだよ!ねぇもんはねぇって言ってんだろーが!さっさと帰れ!」

「リーベ!止めなさい!」

「止めねぇよ!村長今斬られそうだったんだぞ!」


こいつらが悪いんだ。村長は丁寧に相手してたし、俺たちは王宮で働いてる奴らみたいに充分に食料があるわけじゃない。俺たちがこいつらにあげられるものなんて何もない。


「貴様、我々が騎士と知っての狼藉か!子供だからと言って許される訳では無いぞ!」

「ウルセェ!騎士だか何だか知らねぇけど、偉いんなら食いもんいっぱいあんだろーが!俺たちから奪いとんじゃねーよ!ハゲ頭!」

「なっ!この糞ガキがぁ!ふざけるなよ!!馬鹿にしやがって!!!」


ハゲ頭に怒ったのかさっきまでの偉そうな言い方を止めて怒鳴りつけてくる。本当は凄い怖いけどこいつらに謝りたくなんか無かった。人当たりのいいシルバとか、慎重なアサヒとかはヘコヘコして追い出すんだろうけど、俺にはそんなこと出来ないから。俺に怒ってる間は他に目が行かない。村長が斬られることはないんだ。俺が危ないけどそれは仕方ない。こういうのははぐれ者のする事なんだ。


「帰れって言ってんだろ!お前らにくれてやるもんなんか無いね!戦争にでも何でも行っちまえ!」

「こんのガキがぁ、調子乗ってんじゃねぇぞ!!!」


手に持っていた剣を振り上げた。顔を真っ赤にして俺を斬り付けようとする。何処かで悲鳴が上がった。ぎゅっと目を瞑って痛みに備えた。



「っ、ウギャアアア!?お、ア、アアアアアアアアア、アアアア、アア■*○▼◇%★♪っ!!!?!?」


「へ?」


言葉にならない叫び声が耳に飛び込んできて、肩が跳ねる。見ると股間を抑えてのたうち回るハゲ、とそれを見下ろす黒い目。


「あースンマセン。俺って足癖悪いんですよねー。あ、股間を守るファウルカップとかどうです?今なら100万レンスとお買い得ですよ。」



この話を書いている時、高校生の弟と妹が喧嘩をしていたのですが、途中からヒートアップして言い争いから取っ組み合いになり、妹の蹴りが見事弟の股間にクリーンヒットしました。その時、妹とは喧嘩しないようにしようと心に決めました。完全に私事ですが、どうしても誰かに聞いて欲しくて後書きに書かせて頂きました。


アサヒ「痛いよなー、アレ。ちょー分かる。」

リーベ「よくあんな惨いこと出来たな。泡吹いてるんだけど、ハゲ。」


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