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第18話 まだだ、まだ間に合う!手遅れとか言うんじゃない!

ブクマ、評価ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


魔法を断念した。


だが、俺は切り替えの早い男なんだ。いつまでもズルズル引きずりはしない。…まぁ、傷はデカイけども。


「ファンタジーなのに…ファンタジーなのに…魔法がぁ…魔法が使えないなんて……」

『普通に引きずってんじゃ無いですか。仕方ないじゃ無いですか、異世界人のほとんどが使用できないんですから。ジメジメ鬱陶しい。』

「そこで慰めるどころか毒吐いてくるところがレットさんだよね…。」


いや、分かってるよ。キララちゃんが責任感じてオロオロしてるしね。お前は悪くない。不条理な現実が悪いんだっ…!


『あ、リット爺が帰ってきたみたいですよ。』

「え?随分と里帰り長かったなー。3階層にいるのか?」

『はい。第3階層へ転送しますか?』

「頼むわ。」


相変わらずおどろおどろしい空間な第3階層。先日大森林で殺したモンスターの体を回収してゾンビ化したから種々多様なゾンビがいる。しかも生きてる人間の匂いに寄ってくるから、俺を襲わなくとも近づいてくる。怖えよ。まだスケルトンの方がマシだ。


「で、肝心のリット爺はどこに居るんだ?ゾンビとスケルトンしかいないけど。」

『屋敷の中のようですね。』

「ああ、ボス部屋か。」


真ん中の石畳の通路を進む。罠が大量に仕掛けてあるので普通の冒険者は直通の道は歩けないが、ダンジョンマスターに当然それは関係ない。


古惚けた洋館の扉の前に立つとギィイと不気味な音を立てて勝手に扉が開いた。入るとそれがまた勝手に閉じる。実はリット爺の眷属の【姿ナキ骸骨】という透明なスケルトンの仕業だ。俺が言ってみたらそのまま取り入れてくれた。自分が言ったとはいえ怖いわ。


「おーい、リット爺ー。おかえりー。草餅とお抹茶持ってきたから一緒に食べましょー。」


俺の声が反響するだけで静寂しか返ってこない。…本当にいるんだよな?


「え、帰ってきてんだよね、レットさん。俺寒気がしてきたんだけど。」

『一番奥のリット爺の自室にいますよ。…なんだか変な動きをしていますが。』

「変な動き…?」


見ちゃいけないような気がするがここまで来て回れ右するのも嫌なので赤い絨毯に沿って階段を上がっていく。二階にある部屋が一番広いのでそこがリット爺の自室になる。どれもこれも埃を被っていてカビ臭い。掃除してー。雰囲気が壊れるのでやらないが。リット爺の部屋の扉をノックするが返事がない。寝てんのか?いや、【死霊魔導師】に睡眠はいらないか。本当なら食事も必要ないのだが、娯楽としては食べるらしい。爺さんらしく抹茶と草餅が好物だ。どこに味を感じる器官があるのやら。


「リット爺ー?入りますよー。」


俺は扉を開けたことを後悔した。


「ああああ、邪神様ぁ、素晴らしい、素晴らしいやんなぁ〜。わっしは一生貴方様について行きますやよ。この身を賭して邪神様に信仰と愛を捧げますやんよ〜。」


バタン


……

…………アアアアーーーー


マズイだろ、アレは。拗らせすぎだろ。あのアイドルを応援するときに持ってるペンライトとかうちわを持ってフリフリしながら踊ってるし、馬鹿でかい肖像画の前で頭にロウソクを巻きつけて拝み倒してるし、天井と壁には邪神様(多分)とイアンのブロマイドが隙間がないほどに貼られてるし。誰だ、爺さんがこんなになるまで放っておいたのは。


『マスターですね。』

「誰があんな風になるなんて想像出来るかよ……。」


斜め上どころか直角に折れ曲がりやがった。ストーカーの部屋だろ、あんなん。入ってきた冒険者、別の意味でビビるよ。戦うどころか回れ右して帰るよ。俺だって全くの他人だったら帰りたいよ。


「このまま放置したらもっとヤバいことになるよな…。」

『もう既に手遅れなところまで来ていると思うのは私だけでしょうか。』

「それを言わないでよ、一歩踏み出したのに戻したくなるから。」


再チャレンジ。扉を開けて散らばってる邪神様グッズを避けながら、今だ俺に気づいてないヤバい骸骨に近寄る。


「リット爺、リット爺!」

「うおわっ!?何や、小童じゃないかいな。驚かすなやんね。」

「さっきから何度も声かけてましたよ。で、これは一体全体どういうことですか?」

「どういうことって邪神様を祈ってるところやよ、小童も共に祈ろうじゃないかい。」

「ふぅ……」


キョトンとした顔(骸骨なのでよく分からないが)で見上げてくるリット爺。少なくとも前回訪れた時こんなことにはなっていなかった筈だ。可笑しくなったのは俺じゃなくてリット爺だ。


「片付けましょう。」

「な、何をぅ!?嫌やわ、わっしは邪神様と共に生きてくんやのーー!!!」

「別に捨てろとは言いませんから。ここは仮にもボス部屋何ですよ。ここで闘ったりしたら全部壊れますよ、いいんですか。」

「大丈夫やよ。こんなとこにまで来れる猛者はおらんわ。」


何でそんな自信満々なんだよ…。ここ第3階層なんだからな?この部屋の奥についてる襖を開けたら、即俺の部屋なんだからな?


「そうも行かないんですよ。戦争が起こるかもしれないので大人数を相手取る可能性があるんです。」


どころか全部DPに変えてしまいたいぐらいだ。死体が増えればここの戦力が充実してDPが増える。ウハウハだ。


「そういう訳なんで、片づけて大事にしまっておきましょう。」

「嫌やわー、わっしは邪神様と孫に囲まれてたいんやー。」


うへぇ、気持ち悪い。どんだけ邪神に傾倒してんだよ。勘弁してくれ。というか俺からしたらこんな崇められ方嫌だわ。


「よく考えてください。もし俺がこんな風にリット爺を崇めてたら、リット爺はどう思います?」

「そりゃあ、気持ち悪いやんなぁ…。」

「それですよ、リット爺!気持ち悪いんです!つまり、邪神もイアンもこれを知ったら気持ち悪いと思います、嫌われます、引かれます!ですから今すぐ片付けるべきです!」

「ば、バレなければ…」


はぁ?何を甘い事を。この手のはな、すぐにバレんだよ。警察は節穴じゃないんだよ。俺の部屋に隠してあったエロ本は全て母親にバレたからな?あんなに悩んで悩んで隠したのにあっさりバレたからな。


「イアンにバレないとかバレるとか以前に、俺がバラします。」

「ギャーーーー!!!」


いや、流石にバラさないけど。言えねーよ、こんな秘密。ダンジョン内の空気が気まずくなるわ。俺の安寧の地なのに空気を悪くしてたまるか。まぁ、ハッタリなんだけど、効果抜群だったようだ。抜群すぎて部屋にゾンビを召喚して俺を口封じに殺そうとしている。ただそうすると自分どころかイアンが死んでしまうので必死にブレーキを掛けている。


「それにここにはリリーだって来るんですからいつまでも隠し通すのは無理ですよ。あの2人が仲良いの知ってるでしょう?」


イアンはダンジョンにいるモンスター皆んなと仲良いけどな。あのトリスでさえ喧嘩を売らず普通に話せるんだぞ。恐るべし癒しパワー。


「くぅうう…」

「それにこんなもの飾らなくたって邪神に祈れるじゃないですか。こんな風に祈るより日常のなかでふとした時に感謝を示した方がいいと思いますよ。」

「それもそうかいな……。」

「捨てるんじゃないんです、仕舞うんです。それぐらいは譲歩して下さい。」


本当に頼むから片してくれ。こんなのがウチのボス部屋だなんて恥ずかしくて言えない。まだドルオタストーカー予備軍で済んでるんだ。ガチモンに成られたら困る。手遅れなんかじゃない、決して手遅れなんかじゃないんだ。ギリギリ間に合う、筈だ。


「分かったやんよ…。わっしもヤケになってた部分もあるしな。」

「そうですよ、リット爺。何かに縋るのも良いけど自分で歩いていかないと。」

「そうやんな、もうわっしは昔には惑わされん!今のわっしは第3階層のボスモンスターで邪神教の信者やんな!」

「そうだ!女神教なんて関係ない!」


あ、撃沈した。たかだか名前出しただけなのに…骸骨のくせしてデリケートだな、おい。面倒くさい爺さんだな。あの駄女神が残していった傷がデカすぎだわ。


「ハーー。お茶でも飲んで落ち着きましょう。草餅持ってきたんで。」

「ああ、悪いやんね。…そういえば、戦争が起こるってどういうことやんな。」


説明してなかったな。一応話の分かるモンスター(オーガット、ゴブ、ギンなどなど)には話しておいたんだが。村で聞いたギッツァ帝国とトゥメドス王国の話をする。このあたりの因縁に関してはリット爺の方が詳しいだろうが。帝国に突如現れた勇者について話が行くとリット爺が首をかしげた。


「ふむ…帝国に勇者が…。正直あの女神様ならあり得るかもと今のわっしは思ってしまうんやんな…。」

「同感です。」

「やけど、魔界に行ってきた時少々変な空気を感じての。」

「変な空気?」


なんでも普段は徒党など組まず好き勝手やっている魔界の堕天した神様たちが何やら一箇所に集まっていたらしい。話の内容までは分からないが不穏な空気であったことは確かだと言う。


「集まっていたのは階級の一番低い下っ端どもやから、異世界から召喚なんて高尚なこと出来るとは思えんのやけどなぁ…。」

「邪神がやった可能性はないんですか?魔界のトップなら出来ますよね?」

「出来るには出来るんやろうけど、あの方は忙しいからなぁ。一々そんなことやる暇がないと思うやんな。」

「そっか…。」


別に誰が召喚したとか、誰の思惑が絡んでるとか、どうでも良いんだけどね。こっちに火の粉が降りかからなければ。俺としては上手くいけば兵士を美味しくいただきたいだけだからな。


「てか、リット爺はそのお忙しい邪神に会ってきたんですよね?邪魔にならなかったんですか?」

「ん?わっしはお手伝いに行ってきたんよ。邪神様の仕事の。万年人手不足らしくての、いつでも応募を掛けておるんやよ。」


働きに行ってたのかよ。本人は無償とのことだったので所謂タダ働きなのだが、魔界にそんなアルバイトがあった事に驚きだ。リット爺のようなボランティアではなく普通にお金をもらうなら時給は900レンスとそれなりに良い。仕事の内容を知らないので割りが良いのかは分からないが。

ちなみにこの世界の貨幣だが、単位はレンスで、1レンス=1円だ。天界と魔界にはお金なるものが無いので、その人が欲しい単位のお金を用意するんだとか。なんでかやたらと天界、魔界ルールに精通するようになってしまった。


「息抜きになったのなら良いんですけど。今後はせめて俺に話してから出かけてください。」

「小童に心配されるほど落ちぶれちゃいないやんな。」


一ミクロンも心配してないけどな。絶対どこかで元気にしてるだろうとは思ってたよ。元気は元気だったけど拗らせてたから頭抱えたんだよ。後でイアンにアフターケアを頼んでおくとするか。


抹茶を啜りながらこの後片さないといけない邪神グッズを見回す。コアルームに繋がる襖の上には大きな肖像画。黒髪黒目の日本人としては馴染み深いそのカラーリングは何故か底知れぬ闇を感じさせた。



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