第17話 ファンタジーは夢のまた夢
ブクマ、評価ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
村に来て次の日。
俺とジンは子供達と雑魚寝していたが、リリーは朝帰りだった。…オーガットには黙っておこう。
「ふわぁ、眠い。」
「夜更かしですか?珍しいですわね。」
「実はさー、子供達から冒険譚話してくれってせがまれて…」
昨日は子供達が寝付くまで延々話をしていた。もちろん全て作り話。日本にいた頃に読んでいた漫画やラノベを参考にしてなんとか誤魔化した。大分誇張したが、ジンならやれる気がする。
「あー疲れた。」
「とか言いつつアサヒ様ノリノリでしたよね。」
仕方ないだろ。あいつらノリがいいんだもん。話してる方も気合が入るわ。
「で、リリーは何してたんだ?疑うわけじゃないが…」
「ご主人様はお優しいわね。もちろんオーガットを裏切るような行為は働いておりませんわ。気の良い奥様に一晩泊めていただいたんですの。」
だって、うちのダンジョンで破局されたら気まずいじゃん。変な空気になること間違いなし。
「気の良い奥様って、話聞いてたら意気投合したのか?」
「そんなところですわね。色々面白い話を聞けましたよ。」
そう言って語られた内容は、日本という平和な国で育った俺にとって縁のない戦争についてだった。
フィルティ大森林を挟んで長年2つの国が睨み合っていた。東のギッツァ帝国、西のトゥメドス王国。100年前の東西大戦はフィルティ大森林を焼き尽くし何万、何十万という屍が積み上がった。その後も小競り合いという名の睨み合いが続いていた。そんな膠着状態に動きが見られた。
「勇者?」
「ええ。確かー5年前に女神教国に現れた以来ですかね。ギッツァ帝国に召喚されたそうですわよ。」
勇者。
異世界から人を召喚するレアな存在であるはずの勇者は割とホイホイ現れていたらしい。グローリア様を祭る女神教国限定で。何故か、グローリア様だけが異世界から人を連れてくる権限を持っているから。ビースティッド様なんかは権限を持ってない。出来るには出来るらしいのだが、権限を持たないのでやってはいけないんだと。なんだかんだと言ってあの駄女神はすごい神なのだと改めて思った。
「どういう事だ?女神教国にしか現れないんだろ?」
「そこなんですのよ。女神教国は否定していますので、もしかしたら邪神あたりが召喚した悪魔なのでは、と噂されていますわ。」
邪神が召喚出来んのかよ。堕天した神様って事だから力はあるにはあるのか。禁止されてるからグローリア様以外やらないわけで、ルール無用な魔界の邪神様ならやっても問題ないよな。介入した理由が分からないけどな。それにグローリア様が気まぐれで帝国に召喚したのかもしれないし。…なんかそっちの方が確率高い気がしてきたぞ……。
「戦争ねぇ…なんでうちのダンジョン挟んでんのかなー。」
「もしかしたらまた100年前のような戦争が起こるかもしれません。」
森が焼き払われたりしたら、ダンジョンは丸見えだな。そしたら今の戦力だけじゃ不安だな。まだ第三階層しか無いし。今度増やすか。
「当分の課題は戦力増強だな。不測の事態が起きても対応できるように、」
「あーさーひー、何してんだよー朝飯はー。」
「お前、起きて一言目がそれかよ。」
こいつの図々しさは駄女神レベルだぞ。将来が心配だ。まぁ、朝ごはんも作るけどさ。
朝は手っ取り早く簡単に、これが鉄則だ。というわけで、
「卵かけ御飯だ。」
「え?卵?」
「もちろんただの卵かけ御飯じゃ無い、洋風卵かけ御飯だ。」
「いや、俺たちに説明されても分かんないって。」
ミックスベジタブルとハム、とろけるチーズ、顆粒状のコンソメ、あったかいご飯を炒めながら混ぜる。レンジでもオーケーだ。チーズがトロトロになったら卵を投入。俺のオススメはこれに粗挽き胡椒をかける事だ。
「ふはーうめぇー!」
「んーアサヒさんのご飯は初めて食べるものばかりです。」
「おー食え食え。子供はたくさん食べてたくさん寝ろよー。」
「「「はーい!アサヒ兄ちゃん!」」」
「アサヒ兄ちゃん…?どういう事よ、ジン。」
「昨日一晩付き合ったのとご飯の美味しさにやられたみたいで。子供達にやたら人気です。」
「仕方ないような気がするわね。また今度宴会したいわ。」
「正直俺たちだけ食べてるの申し訳ないですもんね。」
ふふふ、俺は一人っ子だったから夢が叶ったぜ。アサヒ兄ちゃん、兄ちゃんな、響きがいいな。
「なー、ずっとここで飯作ってくれよー!」
「俺に働くなってか?金がなくなったらこうやって飯も食えねーわ。」
「むむむ。」
「偶には来るからそれで我慢しろ。」
「次来るの、いつ?」
んー、いつだろ。薬草を採って、レットさんとダンジョンの階層増やして、後、リット爺がどこに行っちゃったのかも気になるし…あ、魔法も教わんないとな、キラリちゃんに。まぁ、3日ぐらいで来れるかな?
「3日後かな。」
「えーー遠いーー!!!もっと早く帰ってこいよー!」
「我儘言うなよ、リーベ!本当にすいません、アサヒさん。」
「気にすんな。」
いやー懐かれたもんだな、俺。嬉しいんだけど。手のかかる弟が出来た気分。ビシッとデコピンをしておいた。
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「という訳なんだよ、レットさん。」
『楽しそうですね。出る前は顔真っ青でビビりまくってたのに。』
「それは言わないでよ…。」
ダンジョンに帰ってきた。
一晩離れただけで懐かしく感じる。やっぱ落ち着くわー、マイホーム。
「だから当分の間は村とダンジョンの行ったり来たりかな。何かあったら連絡よろしく。」
『分かりました。ですが、マスターが引きこもりを止められて良かったです。』
「俺ってそんなダメ人間じゃ無いよね?ね?」
あ、そうだ。イアンに薬草を頼んでおかないと。
「んじゃ、イアン、これに書いてある薬草を育てておいてくれ。」
「分かりました!」
今日はジョーちゃんを頭の上に乗せていた。仲良いなー。ちびっ子は可愛い。
「では、キラリちゃん。よろしくお願いします。」
「え、えと、こちらこそ?」
正座して頭を下げる。これだけで修行した感じになるのは何故だろうか。いや、何もしてないんだけど。何事も形からって大事だよね。
「言われた通り、ゴブさんやオーガットさんに教えておきました。才能ある人もいましたよ〜。」
お、出かける前に言っておいたことちゃんとやってくれたのか。しかも才能アリがいるとは。これは良いことだ。その内魔法職専門の進化をするやつも出てくるかもな。最近、モンスターの成長を見るのが楽しくて仕方ない。これが子供の成長を見守る親の気持ちなのか…(しみじみ)。
「まずは、大気や体内に流れる魔力を感じる練習から始めます。精神統一のしやすい…つまり自分が一番落ち着く姿勢でお願いします。」
「おう。」
『そこですぐに寝っ転がるあたりマスターですよね。
』
人間寝てる時が一番落ち着いてるんだ。俺はベッドより布団派だ。あの落ちても大丈夫な感じ落ち着く。
話が逸れた。
さすがに寝ているとやりにくいらしいので座禅を組んでみる。俺は右足を左のももに、左足を右のももの上に置く結跏趺坐が出来る。地味な特技だ。
また話が逸れた。
次に目を閉じて流れる魔力を感じる練習。キラリちゃんが魔力を俺の体内に流して、それを俺が感じる、という訳だ。自分の中に元々ある魔力よりも外から入ってきた魔力の方が感知しやすいんだとか。
「では、流しますね〜。」
「ん。」
はああああと息を吐いて両手を構えるキラリちゃん。なんだろう、この子の圧力っていうか迫力。年季入ってるなー。
「ハッッ!!!」
分かりやすく、クワッと目をかっ開いて声を出す。と同時に体に激痛が走った。全身から嫌な汗が噴き出す。バチバチと電流が駆け巡ったように身体中を駆け巡り血管を広げられる。ま、魔力ってすごっ!後こんな痛いなら予め言って欲しい。…そうするとビビってやらないかもしれない。
「いっつぅぅう!!!」
「え!?だ、だだだだ大丈夫ですか!?」
「お、おう…なんとか…すっごい痛いのな、人の魔力って。」
「お、おかしいですね…魔力を少量流しただけで痛みが走るはずが…」
「へ?」
え?本当は痛くもなんとも無い、安全な訓練なの?それで痛くなる俺って……どんだけ弱っちいんだ。
しばらく首をかしげてうんうん唸っていたキラリちゃんだが、数分後パッと顔を上げた。
「分かりました!アサヒさんには魔力を溜め込む器官が無いんですよ!」
「んん?」
『この世界のモンスターも人間も魔力を溜め込む器官が身体にあり、普段はその器に魔力を溜めているんです。』
「それが俺には無いと。」
「はい。稀にそういう人がいて、生まれながらに魔力に耐性が無いんです。だからさっきみたいに体が痛くなったりしてしまうんですよ。」
『特に異世界から来た人にはその傾向が強いと言われています。何せ魔力と縁の無い世界に生まれているので、必要がないですからね。』
そりゃ、こんな非科学的なもの縁が無いわ。だってバリッバリの日本人だよ。まさか身体の作りから違うなんてさ。ある訳無いよな、そんなファンタジー器官。必要の無い進化は研げないものどんな種族でも。
……お、俺の異世界魔法チートライフがァァアアア!!!