第15話 少年よ、恥をかいて強くなれ
初の人間の侵入者です。
明日の更新はお休みさせていただきます。ちょっとこの先の話を手直ししたいので。土曜には更新できると思います。
ダンジョンに人間がやってきた。子供だけど。
いや、子供だと考えるのは早計か。ここは異世界なんだ、見た目子供でも中身は強いモンスターや人間がいるかもしれない。
「まずは様子見だな。ゴブ!」
「ギィ!(はいっす!)」
「小隊1つ連れて離れて監視しろ。指示があるまで絶対手ェ出すなよ。危なくなったらすぐに帰ってこい。」
「ギィ!(了解っす!)」
迷宮からゴブ達が出て行く。進化してより隠密性が高くなったから、こういう調査にはうってつけだ。
「ほぁ〜〜」
「ん?どしたん、キラリちゃん。」
「いえ、まだお若いのにちゃんとマスターしてるんだなぁって。」
「……キラリちゃん、幾つ」
「なんですか?」
「ナンデモアリマセン。」
女性に年齢の話はNGですね。皆さん、興味本位で年と体重を聞いちゃダメですよ。
「ギィ。ギィ。(見えたっす。まだ森の入り口っす。)」
「なんか変わったことはあるか?」
モニターじゃ分からないことがあるからな。見た目以外の情報は結構大事だし。映像で見てたら幻だったとかね。
「ギィ、ギィ。(本当に子供みたいっすよ。なんか足震えてるっす。)」
「んんん…油断させる演技?」
ビビる演技する意味が分からんな。人間相手になら油断を誘うためにビビってるふりするかもだけど、モンスター相手じゃ関係ないような。あいつらは野生なんだから見た目子供でも本気で襲いかかってくるだろ。美味しいご飯ーー!!って具合にな。
『なんか言ってますね。音声上げます。』
「あ、ホントだ。」
口元がちっちゃく動いてる。音あげないと聞こえてこないってことは相当声小さいな。ボソボソ喋ってんのか。独り言は癖つけると良くないぞー。
『マスターも大概ですよね。』
「……今のも漏れてた?」
「丸聞こえでしたよ〜。」
ぐほぁ、キラリちゃんにも言われてしまうなんて…俺そんな独り言癖付いてた訳じゃないんだけどな…。もしかして誰もひいて指摘してくれなかったのかも…ウワァ。
『マスターの独り言はどうでもイイので、侵入者の独り言を聞きましょう。』
「それもそうだけど、そこまでズバズバ言わなくても…。」
「あ、聞こえてきますよ!」
3人揃って耳を澄ます。なんて言ってんのかなー。
「……くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くな……endless」
おおふ。気合い入ってますねー。
自己暗示…?あ、少年の顔よく見たら死んだ魚の眼みたいに真っ黒だし、半泣きだわ。ゴブの言う通り足ガクブル。何、ガチビビリ?
『マスターよりも酷いビビリですね。』
「いちいち俺のこと引き合いに出さないでよ。泣くよ?」
『それよりどうするんですか?』
「うーん。」
見た目が子供だから殺意もそこまでじゃないんだよね。結局正体と目的が分からないことには安心出来ないな。
「ライム、ちょっと脅かしてこい。ゴブ、何かあったらすぐ出れるようにしろ。」
「ビビらせればイイの?」
「おう、出来るだけ怖くな。」
「わかったー。」
ビビって逃げれば村の子供で、度胸試しか何かで来た。攻撃してくれば、子どもの皮被ったモンスター、って所だな。その場合は全力で潰していこう。本物の子供を殺すのはちょっとなぁ、俺もそこまで無慈悲な人間じゃないし、子供じゃ大したDPにならんだろ。
ライムが幻擬粘着体の二体を連れて子供に近づいていく。向こうはまだ気づいてないな。
ライム達はうぞうぞ動いてくっつき体から黒い霧が噴出し始めた。あれは変身するときの魔力みたいもんらしい。体積を補うんだとか。三体で合体してでかい奴作るつもりだな。
変身したのは我がダンジョンが誇る最凶のボスモンスター、トリスだった。首から上と下肢は雄鶏、翼と胴体はドラゴン、尻尾は蛇、複数のモンスターが合体した姿がコカトリスだ。その巨体に睨まれたらビビること間違いなし。しかも突然現れたら……あれ?静かだな、反応なし?中身が強者でも警戒して後ずさったり……
ショロロロロロ………
静寂の中に大きく響く水の音。
パタリ
そのまま仰向けに倒れた。
いや、なんかゴメン。
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どうも、こんにちは、アサヒです。
現在俺は失禁しちゃった少年君のお世話をしております。ダンジョンから少し離れた川辺で。
本人はまだおネンネしてるけどね。
さすがにあのまま放置も可哀想だったので、トリスに変身したライム達に川辺に運んでもらい、俺が洗ってやった。オーガットにでもやって貰おうかとも思ったが、俺の尻拭いをやらせるのは違うと思ったので自ら足を運んだ。1週間ぶりの外出が少年の体を洗う為にってどうなのよ。いや、俺がやり過ぎちゃっただけなんだけど。
ちなみに護衛としてゴブリンアサシン集団が2小隊と鬼人君、そして俺の着ている鎧と装備している剣は武将粘着体のアーミィ達だ。漆黒の鎧は中々カッコイイ。軽いし。着られてる感半端ないけどね。でも、剣とかはオーガット達に教えてもらってるから少しくらいは扱える。護身術程度は学んでおこうと思ったのだ。実践という名の強化特訓にも参加するハメになったしな。俺頑張った。
「すーすー…」
「爆睡かよ……。」
度胸あるな、お前。一応ここって中位種以上のモンスターが出ることもあったんだろーが。親にそういう話聞かなかったのかよ。
改めて少年を観察すると鍛えているようには思えない、というかまともに飯食べてない感じだな。顔色はいいから病気ではないだろうし…うわ、こいつ手首細っ。着てる服もボロいなー。鎧も着てねーし、獲物は棒切れのみ、こんな軽装備でここに来るとか自殺行為だろ。それともモンスターが全く出なくなったのが周知の事実になったのか?にしてはビビリすぎだったよな。
「んぅ…んん……フギャッ!?」
あ、起きた。フギャッってリアルでいう奴初めて見た。
「よお。体は平気か?」
「だ、誰だ、お前!村の奴じゃねーだろ!」
「旅してるただの冒険者だよ。飯を探しに森に入って途中でお前を拾った。」
村の奴じゃないって言ったってことはやっぱこいつは村のガキなんだな。起きた瞬間後ずさって指差してくる。人を指差しちゃいけないって教わらなかったのか。
「で?お前はこんなとこで何してんだよ。ガキが来るとこじゃねーぞ。」
「うるせー!お前には関係ねーだろ!」
「モンスター見て漏らしたガキが何言ってんだ。」
「な、なんでお前がそんなこと知ってんだよ!」
なんでって一部始終見てたからです。原因俺だからです。言わないけど。
「股が濡れてりゃ想像つくだろ。洗ってやったんだからな。感謝しろよ。」
「誰が感謝するか!」
しなくていいよ、別に。罪悪感がほんのちょびっとあったから、やっただけだし。
「で?お前マジで何してたんだ?」
「お前には関係ないって」
ぐぅぅううう
言ってんだろ、と少年が続けようとしたところで盛大に腹の虫が鳴った。当然、少年の。恥ずかしさで顔真っ赤だな。1日に何回恥かいたら気がすむんだ、この子は。
「ほらよ。食え、腹減ってんだろ。」
「得体のしれねー奴の飯なんて食えるか!特になんだ、その三角の!」
俺が差し出したのは、おにぎりだ。起きるまで時間がかかりそうだったら何か食おうと思って握ってきた。具は唐揚げだ。相性バツグンだよな、米と唐揚げって。
「何って、おにぎりだけど。米と海苔で肉を包んであるんだよ。ウメェぞ。」
「こめ?」
「え!?お前米知らないのか!?」
「お、おう。」
「勿体無い、損してるぞ少年。米を食べたことないなんて……いいから、食え!この美味さが分かる!」
白米の美味さを知らないなんて人生損してる。米には無限の可能性が秘められてるんだからな。何にでも合うし。そういえば、うちのモンスターたちも最初のうちは恐る恐る食べてたな。今じゃ白米ブームだけど。少年におにぎりを無理矢理押し付ける。ビクビクしながらも口に運んだ。
「んぐ、んん、う、うま!」
「だろ?おにぎり美味いだろ?」
「おう!この白いのもちもちしてるし、中の肉はパリッとしてて油がすっげー乗ってる!こんなん初めて食った!」
「自信作だからな。」
ニコニコ顔で頬張る姿は微笑ましい。あっという間に食べ終わったので2つ目をあげたらまたペロリと平らげた。腹減ってたんだなー。
「そ、その…」
「ん?」
「あ、ありがとな!」
感謝されるのは悪くないな。ぽんぽんと頭を撫でたら弾かれた。お兄さん悲しいぜ。
「で?何しに来たんだ?」
「ここの森最近全然モンスターが出なくなったんだよ。だから、その、薬を…」
「薬?」
「俺の妹病気で、ここで採れる薬の材料を…」
「採りに来たと。」
コクンと頷く少年。…いや、なんか本当ゴメンな、決死の覚悟できたのにチビらせて。
薬ねぇ。偉いとは思うけどさ。
「自殺行為だろ。いくらモンスターの影見なくなったからっていなくなった確証はないだろーが。」
実際いなくなってるけどね。でも、今回みたいなことが何度もある訳じゃないし。こういうのは親がちゃんと注意しろよな…。
「お前が死んだら悲しむ奴いるんだろ?妹助けるためにお前が死んだら元も子もないだろ。」
「う、うん。」
「で?その材料とやらは何なんだ?」
「へ?」
「探してやる。その代わり後で村に案内しろ。」
「あ、ありがとうっ!!」
「おー。」
村の子どもを助けた冒険者の方が警戒されにくいだろ。いい機会だ。その内潜入してみたいと思ってたんだ。本当はもっとダラダラするつもりだったんだが…はぁ、引きこもってたい。
「俺の名前はアサヒ、お前は?」
「俺はリーベ!アサヒさん、お願いします!」
「お前に敬語使われると気持ち悪い、普通に喋れ。俺の仲間が他にいるからそいつらと合流するぞ。」
「分かった!」
1人はちょっとマズイっていうか、俺がビビるっていうか。冒険者のパーティーって事にしておこう。メンバーはリリーと鬼人君。オーガットじゃない奴。これ大事。カップルと俺1人はきついからな。リリーをチョイスしたのは情報収集が得意だから。主に男からの。彼氏持ちだから際どいことやらせないけど。それに短剣を使って戦う姿はエロかっこいい。ファンタジーの女冒険者って感じ。
「うふふ、可愛い子ねぇ。よろしくね、リリーよ。」
「俺は…えと、」
「こいつはジン、強いんだぜ。」
「よ、よろしくお願いします。」
そういや、名乗れる名前が無かったな、すまんな。この間の活躍(12話で獣を退治したこと)も含めて名前をつけてあげるってことで。
なんか感涙してる。ばか、リーベが首傾げちゃってんだろ。
「んじゃ、手分けして探すぞ。で?何を集めればいいんだ?」
「えと、シロヌイ草っていう魔草。」
「高級ポーションなんかにも使われる材料ですわね。」
「へぇ。」
手っ取り早く、イアンに何とかしてもらおう。ジンにはリーベと探してもらって俺とリリーはダンジョンの方へ向かう。
「んじゃ、イアンよろしく。」
「はい!シロシロちゃん、産まれて!」
シロシロちゃん…?植物に名前つけてんのか。いや、俺が言えたことじゃないけど。ジョ○ズって命名したの俺だし。
にょきにょきと伸びる草。葉がギザギザしているくらいしか他の雑草と大差はない。これをリリーと手分けして袋に入れて抱える。こんだけありゃ足りんだろ。
「こ、こんなに…!」
「運良く群生地を見つけてな。」
「え?シロヌイ草は一箇所に固まって生えないぞ?」
「あ、あーたまたま、たまたま密集してたんだよ、な?」
「ええ、そうですわね。」
大量に薬の材料が手に入ったことに興奮したのかそれ以上追求してこなかった。やべー早速ボロ出そう。
「ありがとう!約束通り村に案内するぜ!でも、あそこ何にもないぞ?」
「どっかで寝泊まりしてーだけだから、気にすんな。」
「宿屋とかないぞ?俺は道で寝泊まりしてるし。」
宿屋すらないのかよ。本当に何もないんだな。つーか、道で寝泊まりって…。ストリートチルドレンかよ。
「お前、親いねーのか。」
「おう、だから俺が頑張んねーと。」
そう言ってニカッと笑ったリーベはとてもカッコよかった。
…同情するなよ、俺。