第13話 大台に乗りました
ブクマ、評価ありがとうございます。今回も微妙に戦闘描写があります。難しいですね。文才が欲しい。
アサヒ達が神様を追い出すためにダンジョンの外を出ていた頃。アサヒの配下達はフィルティ大森林で恐怖の象徴となっていた。
薄暗い森の中、何処からともなく現れた死神に誰も彼もが為す術なく屠られて行った。
フィルティ大森林のモンスターのヒエラルキートップに位置するオーガ。大きいものは3メートルにも及び、筋骨隆々な体躯は森の覇者に相応しかった。だが、それは脆くも儚く崩れ去る。
(なにが起こった、たかだか人間風情に俺たちは何故!?)
集落の族長であるオーガは、圧倒的な力の前に立ち尽くすしかなかった。自分よりは劣るとはいえ、そこらの冒険者では相手にならないような巨漢のオーガが倒れていく。太い首が軽々と断ち切られていく。
騒ぎの中心には2人の変わった服装をした人間。洗練された動きで大太刀を振り回し1人、また1人と首をはねていく。たった2人だけで既に数十人のオーガが死に絶えた。
(…いや、あんなのは人間ではない。人の皮を被った化け物だ。)
冷や汗が流れる。純粋な恐怖を今まで感じたことのなかったオーガはそれを認めたくはなかった。族長ならば背を向けて逃げ、種の存続を図るべきであったが彼のプライドが邪魔をした。
「ウガァァアアア!!!」
勝算も何もない、恐怖を打ち消すために声を上げ大斧を振り上げて走り出す。そこに誇り高き森の覇者はいなかった。
あれだけ大量に屠ったのに体につく赤黒い血はオーガの返り血だけで、彼らは無傷だった。
まるで片手間のように、族長の決死の一撃を薙ぎ払う。右手首ごと斧を飛ばして。
地面に突き刺さった自身の獲物には一切目もくれず、族長は、人間を見下ろした。
苛烈な赤の瞳。その引き込まれるような血の色を族長は遥か昔に見た事があった。
走馬灯のように憧れの眼差しを向けた遠い昔が蘇る。
オーガから進化し、人間に化けた昔の仲間を。
一部のオーガだけが望める高み。
(そうか、こいつらはーーー!!!)
彼の生首は驚愕と恐怖をない交ぜにした苦悶の表情をしていた。
森の殺戮者【憎悪ノ熊】の一団が夜道をのっそのっそと歩いていた。闇夜と同じ漆黒の毛並みは美しく靡き、その姿は強者のものだった。
そんな強者の首を狙う、弱者。
顔を覆う黒い布の合間から覗く金色の目は、爛々と輝き自分より遥かに大きな体を持つモンスター相手に怯えの色は見えなかった。
気配を消し闇に溶け込むその姿は、アサヒの理想形と言っても良いかもしれない。
集団が休憩に入り、その内の1匹が近くの川辺に向かって行った。
絶好のタイミングを、一瞬を、逃すな。
お前らは弱いんだから、隠れて隠れて、一撃で殺せ。
「グルァ?」
首をもたげた熊が二の句を継ぐことは無かった。
背後から素早く、静かに近づいた小さな影に一撃で心臓部を貫かれたのだ。ドクドクと溢れ出る赤を見つめながら崩れ落ちる熊。彼が最後に見たのはプチリと潰せてしまいそうな小柄な背だった。その小さな背中には誇りと闘志があった。
帰ってこない熊を探してまた1人、2人と一団を離れていく。だが、彼らが帰ってくることは2度と無い。戦うことも立ち向かうことも出来ず、死体だけが積み上がる。夜の静けさだけが後に残った。
この日、鬼の暗殺者の産声があがった。
【アサヒside】
おはようございます。
2時間しか寝てません、アサヒです。
ダンジョンに帰ってきた後、やたらとゴブリンやらコボルトやらの下位種がやってきてなかなか寝れなかった。30分ごとになるレットさん特製アラーム『覚醒の嘆き(爆音)』に叩き起こされ、やってくるモンスターに八つ当たりをしてしまった。落とし穴に落ちて、むちゃくちゃ臭い薬草を嗅がされて、大玉に轢き殺された奴ら悪かったな、ちょっとイライラしてたんだ。
さっきまで眠気であくびばっかりしていたのだが、DPが凄いことになってまして眠気が吹き飛びんだ。
「レットさん、俺はまだ寝てるのかもしれない。」
『鳴らしましょうか?』
「お願い。」
ジリリリゴンガンゴィーンギィィイイイチュイーンドン………
ユメジャナカッタ。
破壊力ヤバイわ。覚醒の嘆き。名前がカッコイイのが微妙にイラつく。
「だって、総額が100万超えって……」
そう、100万超えてたのだ。昨日の時点で確か30万ぐらいだ。どっから来たんだ、70万。
『Sランククエストクリアしてますね。3つほど。』
「それで30万ね。後はグローリア様の懸賞金で1万、ビースティッド様のが5万。合わせて36万。」
何故こんなに金額の差が出るのかと言うと、難易度の違いだそうだ。ビースティッド様は獣のごとく逃げ回る上に法則性が無い。グローリア様は寝る場所が決まっているし、ダンジョン以外ではただの人間と変わらないから割と楽なんだって。
そんなどうでもイイ豆知識は置いておいて。
「後の34万は?ダンジョンに来てたのは下位種ばっかりで1万にもならなかったんだろ?」
『…フィルティ大森林ほぼ全域のモンスターを殺せばこの額にはなるかと。』
「ん?」
今なんと?全域のモンスター?それってフィルティ大森林に住んでるモンスター全部を殺すってこと?
「イヤイヤイヤイヤ、そんなまさか、だってたった一晩で、無理に決まってる。」
『私も不可能だと言い切りたいのですが…。』
狩りにで出てたのはゴブリンアサシン集団から小隊2つと鬼人が5人。しかも鬼人は途中俺の護衛で抜けてたし…いや、無理だろ。
は、まさか!
「トリスがっ!?」
『いえ、トリスは一晩中ボス部屋で大人しくしていましたよ。』
一応確認をと覗いた第一階層のボス部屋は地面が抉れ土の塊が散らばっていてだいぶひどい事になっていた。これのどこが大人しくなの…。
え、トリスじゃないってことは、まさか本当に…
「ただいま帰りました!」
「ギィ!(帰ったっす!)」
狩りに出ていたメンバーが、血塗れになって帰ってきた。先ほどまで戦闘していたのかまだ血が新しい。
「お、おおおお前ら、怪我は!?大丈夫か!?ヒィちゃん(治術粘着体のリーダー)呼んでこようか!?」
情けなく声が裏返った。治るのか?死んじゃったりしないよな?オーガットだけ不幸に見舞われろなんて思っててゴメン!
「大丈夫ですよ、マスター。全部返り血ですから。」
「ギィ…ギィ。(でも申し訳ないっす。マスターから貰った服、汚しちゃったっす。)」
「いや、それはいいけど…洗えばいいし。って、え?全部返り血?無傷?」
「はい。」「ギィ!(はいっす!)」
リピートアフターミー?
無傷だとっ…?いや、いい事なんだけど、良かったんだけど、全くの無傷って…
「え?そっちもゴブリンとかにしか会わなかったの?」
「いえ、オーガや狼族にも会いました。もちろん、全て討伐しましたよ。」
「ギィ、ギィ!(憎悪ノ熊とか、首刈り蟻とかもいたっすね。巣を潰しておいたっすよ!)」
『どれも中位種です。特に【首刈り蟻】は群れで会えば上位種にも認定されるほどの危険度です。』
「おぅふ。」
待って、待って、待って、ゴブリンだよね?元オーガだよね?何そんなサクサク殺って来ちゃってんの?上位種ってトリスレベルでしょ?
『それと…進化してますよ、ゴブ達。【妖鬼ノ暗殺者】、新種認定です。』
「お、おお。もう新種にも驚かなくなってきたぞ。」
ウチは新種ホイホイだからな。ゴブリンなのにスッゴイかっこいい件ね。ゴブリンなのに。顔を見たら耳は長いけど顔は限りなく人間の子供に近い。耳を隠しちゃえばバレないかも。
『ちなみにオーガット達鬼人はオーガの中でも1割にも満たない者しか進化しない上位種です。経験を積んだ玄人の鬼人は災害指定種にもなります。』
災害指定種って、国1つ潰せるモンスターの階級の事だよね。こいつらはまだそこまで行ってないかもだけど、災害の卵な訳だ。それがウチには10人。…あれ?オーガ全員が鬼人に進化したけどレアなのか、そうか…有り難みが薄れるな。
「つまり、この森のモンスター全部を殺しちゃったかもしれないと。」
『かもではなく、事実に限りなく近いと思います。』
そっか、わースッゲェな、おい。俺が外でビビりまくってた間に殺戮劇が行われていたなんて…。
ま、まぁ、お陰で100万DPをたった一晩で達成したわけだ。ここはパーっとお祝いをすべきだ。オーガット達の活躍で外に敵は居ないのだし。
……これ、異変に気付いた人間が調査に来るフラグか?
過剰戦力な事に気付いているようで、あんまり理解してない主人公。




