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幾夜の物語5

「話によるとここだけど・・・」

「あれ?」

「まさに負の塊って感じね。」

私たちの視線の先には黒い塊が渦巻いていた。

中央にうっすら人の姿が見える。

『カツルさん、カツルさんなんですね?聞こえますか、ヨミです。約束、果たしに来ましたよ!』

パッと駆け寄ろうとするヨミを押さえ、じっと、『カツルだったもの』を見る。

「聞こえてないわ。このままはまずいでしょうね。」

『そんな・・・』

『ヨ・・ミ・・』

『カツルさん!』

一瞬渦が薄れ、中央の人物から声が発せられる。

だが、本当に一瞬だったそれは、すぐにまた濃くなる。

『お前が、なんでお前だけ!』

カツルの手がヨミの細い首にかかった瞬間だった。

青年の方をちらりと見やると、こくりと頷かれた。

頷き返し、それを棒立ち状態で躱した(そのまま尻餅)ヨミを見て、話そうとすると、

「ガウッ!!」

わーお、なんということでしょう。

この極地でなんと魔物が現れてしまいました〜。

じゃなくて!

あんまりにも絶望的すぎて理性が吹っ飛んだよ!

「あ、私やっとくよー。」

陽翠に言われ、

「はいよろしくー。」

「ほいへー。」

という気のない会話をすれば、いつの間に装着したかナックルを使い敵をかっ飛ばし出す陽翠。

こう見えても遠距離型なのだから恐ろしい。

ま、私もなんだけど。

だから駆けるのは長くは続かない。ほいへーと言うのはほいほいと、へーいが混ざった語である。(陽翠によるとである。)

と、そろそろ説明しなきゃまずいね。

「あのー。」

首を絞める方も絞められる方もこっちを向く。

「気づいてないようで申し訳ないんだけどね、ヨミ、あんた自然死じゃないよ?」

『『はっ・・・?』』

二人が同時に声を出す。さすが恋人同士。

「これ見て?」

撮った写真を二人に見せてやる。

その後を青年が継いだ。

他の奴らが黙ってくれているのが幸いだ。

「これ、お前だろ?」

そんなの言わなくてもわかる。

着ているものが同じだからだ。(白骨化してるけど。半化石みたいなもんだ)

当時は同じ村に同じ服の者がいることはなかったという。なんでも混乱の中で見分けにくいからだそうだ。

「んでこれ、よく見たら骨折れたりしてるんだよな。つーことは自然死ではねぇ。ならなんだ?自分自身のことだ、知ってるだろ?」

『そう、そうです、私はカツルさんのこと諦められなくて、村長やみんなに言って、それで・・・』

『うう・・・』

負のオーラが強くなる。

待て、もしかしてこれって・・・

「くそっ、守りたい気持ちと同じになってんの!?」

おっさんが叫ぶ。

「負のオーラが出ているのはもう彼女を守れないことへの悲しみと懺悔だった・・・ってことかしら。」

冷静に分析してる場合じゃねぇぇぇ!

まずい!これはやばい!

「ヨミ!あんたしかできない!やんなさい!」

私の叫びにおたおたしていたヨミが我に返り、はいっ!!と返事をし、カツルに飛びつき、抱きつく。

「きゃっ・・・」

顔を赤らめた皇女様に「あんたは黙ってなさい」と適当に言っといて、二人の行く末を見守る。

『私、一緒にいれて、よかったです。最後まであなたの事を思えて、本当に、本当によかったの・・・』

『・・・』

『だから、戻ってください。私をまた守ってください。また、ずっと、ずっと一緒ですから・・・』

『そうだ、俺は、ヨミを、守るために・・・』

うっすらと薄れ始め、ついには負のオーラは全くなくなった。

『お世話になりました。大変なご迷惑を・・・』

「さ、向こうに行きなさい。お幸せにね。」

みんなも口々にお幸せに、と言う。

二人は最後に『ありがとうございます』と口にし、

頭を下げ、手を繋いで消えていった。

「なんだか、寂しいです・・・」

「よし、それじゃ言うべきことを言わせてもらう。」

ピッと皇女に指を突きつける。

「さっさと国に帰れ!」

「あー、そういや忘れてた。」

「忘れちゃまずいでしょー。」

と、陽翠。

「向こうに行けばすぐよ。」

そういって指を指す方向を変える。

「それじゃあね。」

パッと身を翻し、歩き出す私を陽翠が追ってくる。

「ありがとうね。」

「じゃあな。」

「また、です。」

「今度はお茶でもできたらいいわね。」

「おっさんいつでも歓迎!」

「今度は研究でもしましょ。」

「今度は遊べたらいいね!」

口々に別れの言葉を言われ、なにか言わなくてはならなくなったけど、適当に手を上げて答えておいた。

「いいの?」

と陽翠。

「どーせ伝わってるわよ。向こうにはやたらと鋭いやつがいるんだから。」

こうして私たち二人は元の業務へと戻って行った。

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