禁断少女3
門に入ったはいいが、私は悪戦苦闘していた。
なにしろ処刑時間が迫っているというのにこの兵士の数なのだ。
最初はクローを操作して殺さないようにしていたのだが、後ろから襲われてはたまらないし、埒が明かない。というわけで、申し訳なく、本っ当に申し訳なく、殺させてもらうことにした。
次々と過ぎ行く景色と兵士たち。
確実に首を切り裂きながら、体を風に委ね走る。
まだこの時間なら処刑台には載せられていないはずだ。
急げ、急げ急げ急げ!
そんな言葉を頭に並べながら、私はふと思う。
私はなぜこんなことをする?
彼は敵国の者じゃないか。征服したとはいえそうじゃないか。
救出したいなら陛下に頼めばいいじゃないか。
いや、違う。
そんなことをしていたら間に合わない。
少しの猶予も持つことなくここまで走ってきた私の焦りに、自分でも笑いが溢れた。
そして、私は自分の領地に入るかのように堂々と牢屋の連なる廊下の扉を開けたのだった。
扉の前の二つの死体を残して。
目的の人物、ログレスはあっさり見つかった。
まぁいつものクールさと違って怒声をあげてはいたが。
「帰れって言ってんだろ!」
「やだよ!にいちゃんがいなくなるなんてヤダもん!」
「俺がやったことだ、俺が始末つけなきゃなんねえんだ!」
「僕たち子供だもん!そんなの知らないもん!」
幾人かの子供が牢の前に集まり、鎖に繋がれたログレスと言い合いを続けている。
ログレスのいる環境とその言い合いが全く違って、子供達の言葉とログレスの言葉と、あまりにも素直な言葉に、長く先の方で広がった袖で口元を押さえ顔を隠すようにしていた私だけど、結局笑ってしまった。
「ぶふっ」
くぐもった音が袖から聞こえる。
肩がふるふる震える。
「って、お前か。何しに来た?んで、なんでここにいる?」
「し、質問は、ひと、一つに、し、ぶっはぁ!」
笑いしか出てこず、まともに喋ることすらできない。
「とりあえず落ち着けって。」
ログレスに言われ、とりあえず落ち着く。
「んで?なんでここに来た?」
「あんた助けにに決まってるしでしょ。」
「でもさ、ねぇちゃん、これあかないんだ・・・」
そう言って鉄格子を指差す。
「鍵は兵士が保管してんだ、破ることもできねぇ。それに俺はここから出る気もねぇよ。」
「あなた、ひとを殺したって聞いたけど。」
「ああ。相手がどんなやつだろうと殺人に代わりはねぇ。」
「あら、私は昔傭兵だったから殺人鬼よ?」
「おいおい・・・何歳からやってんだ?15・・・くらいか?」
「私まだ12よ?18くらいに見える?」
「マジか。んで、結局この牢屋に繋がれてる俺をどうするって?」
「え?」
ミッシイ・・・
と音を立て牢屋が壊れた。
鎖もピッキングで開けると、
「ほい。」
「お前本当に12かよ・・・」
「そだよー。さ、行きましょう。」
その時。
ダンッ!
背中に強く衝撃を感じる。
自分が撃たれたことを即座に理解するが、立て直すことが出来ず、ログレスの腕の中に倒れこんだ。
「っ、おい!しっかりしろ!」
彼女の・・・ローザの時の力がある、すぐに治るはずだ。
「お前ら、こいつ見てろ!」
そう言い、近くにあった自分の刀を持って兵士に突っ込んで行ったログレスを何もできないまま私は見ていた。
「ここなら大丈夫だろ。」
レグニードの国の境に私を連れて行ったログレスはそこで私を下ろす。隣にはローザもいる。
事情も説明し、私の怪我がすぐに治ることを教えたのだが、それでもお姫様だっこをしたままここまで運んできたのだ。
は、恥ずかしい・・・。
ローザはこれでもかというほどログレスを睨みつけていた。
結局国に戻れなくなったログレスは私の屋敷に腰を落ち着けることになった。
私はまだ気づかない。
きっと鋭いログレスは気づいていたのかもしれない。
この想いに。
禁断少女のこの想いに。




