0話 雨の降る夜
(ああ・・・)
黒い空を仰ぎ、息を吐く。
「私は・・・何だ・・・」
私は問う。冷たい雨が頬を濡らし滴る。なのに、目頭が熱い。一体なんだというのか。
答える者もいないと知っているはずなのに、何度も何度も問う。
『いいのよ』
「誰だ!?」
声が聞こえる。誰もいないはずなのに。ピシャリと赤い血溜まりを踏む。
『ずっとあなたの中にいたわ。』
「私の中?」
『そう。あなたの、中。』
沈黙が訪れる。中と言われて、自分の胸に手を当ててみる。
『そこにはいないわよ?』
「うわっ!?」
『どこにもいないけど何処かにいるの。それが私。』
「よくわからない。」
『私もわからないわ。ねぇ、もう苦しまなくていいの。私が代わってあげるわ。』
「代わる・・・?」
『そうよ。私たちは世に言う二重人格のようなもの。
そうだわ、こっちで会いましょう。』
パキン、と音がして、世界が破片になり崩れていった。
ゆるり、と目を開けると、そこは暗闇の中だった。
目の前には、自分と似た、対照的な色の髪を持つ少女が立っていた。
「こんにちは。」
手を挙げ挨拶する少女に、
「お前か?」
そう尋ねれば、少女はこく、と頷いて言った。
「そうよ。本題に入るけれど、あなたは私。私はあなた。交代は可能なのよ。その代わり私が呼ぶまであなたは出れず、干渉できないわ。それでもいいなら代わってあげるわ。」
「考える暇などいらない。私はお前に代わりになってほしい。」
「ありがとう、私も体が欲しかったの。約束は守るわ、少しくらいは話しましょうね?」
とても綺麗な笑みを浮かべた少女は続ける。
「私は偽りの主人格。あなたが主人格だから私はあなたのことを主って呼ぶわ。あなたは私のことを偽主と呼んでね。」
それを最後に、私たちは交代した。