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短い始まり

木々を飛び移りながら陛下と仲間の近くに降り立ったのはしばらくしてからのことだった。

クラウ様、と話しかけて来たのは先にtrickを連れ出ていたtrick副隊長ローザ・ウルディヌス。

いつも私のそばにいるメイドだ。そばにはルシフェルもいる。私よりもローザの方がナイフの扱いに長けているから、彼女のもとにつかせているのだ。

「trick配置終了しました。」

「はい、お疲れ様。みんなの把握も頼むことになるかもしれないわ、よろしくね。帰ったらお茶にしましょ。」

「はい。ご準備をしておきます。」

ひらりと手を振り、陛下のそばに歩み寄り、そこで五神の仲間と共に待機する。

「さっき話をしていたんだけどね。」

「?」

プレステアに話しかけられ、首をかしげる。

「あなたは先に行って待機してなさい。」

「まぁ予想はしてたけどね。」

苦笑気味に言い、去る。

私の持ち場は皇女の隣・・・。

皇女を殺すのが私の役目。

木々の中をゆっくりと進みながらやけに生々しく映る景色を見つめる。

きっと生々しく見えるのは、これからすることに対して喜びしか感じない自分のおかしさなのだろう。


ーーーーーーーー。

微かに聞こえた雄叫び。

段々と大きくなるそれに、自分の軍が進撃を始めたことがわかる。

こちらの陣も兵を出す。

士気はレグニードの方が上だ。

それはそうだ。

誰一人かけることなく、そんなことはできない。

だからそのできない理想を目指す。

目的は高みにあってこそだ。

陛下が何人と前線で戦ったところで圧勝するのは目に見えている。

あのメルステルの王がフェイクだと私たちは知っていた。

私が報告したからだ。

もとより王が来ることを信じるつもりもなかったようだが。

ここにいるのは精鋭が多いとはいえ10人ほど。

こちらの精鋭50人が劣るほどだといえど、私とローザには勝つことなどできない。

王は陛下が来るまで捕らえなければならない。

特に『あいつ』は恐怖を味あわせてやらねば・・・。


『準備はいいですか?』

ホークルからの通信に答える。

「あなたがそう聞くときに準備できてないときはあった?」

『ありませんでしたね。まぁさすが、と言うのは成功してからにしておきますよ。』

「そうしてちょうだい。それじゃ、始めるわよ?」

『どうぞ。』

そう言って切れた通信。

別の通信機を取り出す。

trickのメンバー用の通信機だ。

私が指示したらいつでもいけるようにしてある。

「行け」

短い命令。

それを同時に行う。

突然の襲撃に戸惑うも、一瞬で体制を立て直す相手。

さすが、と言うには値するはずだ。

メンバーが王を捕らえんと奮闘する傍ら、私とローザ、二人は立っていた。

青年と皇女。

私とローザ。

ローザが飛び出すと、ナイフを両手に3本持ち、

それを投げる。

6本のナイフを易々と避けた青年だが、段々余裕がなくなってくる。

全部投げるかと思いきや3本3本で投げてその後6本投げたり6本のナイフの間隔をすべてずらしたりと何パターンもある攻撃に対応するのに手一杯で皇女まで守ることはできないだろう。

それに気を取られている皇女の背中に回るとローザから預かったナイフの一本を両手に持ち、胸の前で構える。

そして、『二人の私で包み込み、一人の私が前に出る』。

技名は『for craziness』。

私と同じ性格を持つ、3人の私。

二人が左右に立ち、逃げられないようにしてから皇女の目の前に立つ私が手を前に出す。

今更私の正体に気づいたか、目を見開く皇女。

周りにいる者たちの全てが息を止め、行動を起こす。

皇女殺害を阻止しようとする者を阻む者たちはもう少し、と踏み出す。

王を捕らえた者たちは「「「「「「「いけーーー!!」」」」」」」と声を出す。

そして、私を含めた四人が周りに聞こえるような声で言う。

「さようなら、皇女様。」

「いいえ、私たちはあなたの名前を知ってる。」

「さようなら、マリーローズ。」

「そして」

目の前にいた私がメルステル第一皇女マリーローズ・クレスト・メルスティアを突き飛ばす。

私の持つナイフに体が刺さる。

「「「「さようなら、『お姉様』。」」」」

四人のクラウリア・・・本名、クラウリア・クレスト・メルスティアは姉の鮮血を浴びながら笑った。


その後皇女は回復士たちにより一命をとりとめ、陣地を崩壊させられて士気をなくしたメルステル兵と共に王が降伏し、陛下はメルステルの民の安全を約束した。

これで長期戦にもなることを覚悟していたメルステルとの戦いは一夜、犠牲を出すことなく(本当に出さなかったのだ)終結した。

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