おはよう
幼いころ
四つ上の兄が高熱を出した
氷をつめた袋を
兄の額にこすりつける父の手
下がれ下がれ
下がれ下がれ
父の手から聞こえてくる
治れ治れ
治れ治れ
額を強くこすりつけられても
兄は痛みを口にせず
あかくうるんだ目を開けていた
父の手から溶け出した氷は
どこまでも深い闇があることを
ニンマリとこちらに教えてくる
こわいこわい時間
私は膝を抱えて父と兄を
交互に見ていた
「今、何時?」
兄のか細い声
「もう十二時を過ぎた」
父の穏やかな声
「ああ、次の日になった
おはよう」
兄が朝の言葉をつぶやくと
はりつめた空間に穴があいて
ぽつぽつ光が射した
部屋はいつまでも明るかった