しあわせの梯子(はしご)
『アコちゃん、病気を早く良くしてお姉ちゃんのいるおばあちゃんちに来てあそぼうね。けんかはなしよん。サチより』
アコは幼い頃、姉からもらったという母が見せてくれた葉書きを扇風機の風にあたりながら読んでいた。
小さかった姉サチが、彼女の手作りの葉書きで幼いなりに漢字を交え一生懸命書かれた文面にアコは胸がキュンとした。
そして、何よりも、アコの胸に迫ったのは、"病気"という文字である。病気と書かれているが、これは、母曰く"風邪などの普通の病気ではない彼女特有の発達障害"だったという。
アコは自分が他の子供よりも歩行などの発達が遅かったため、訓練に通っていたことを思い出し切なくなった。
さらに、そういう自分の周囲の人間が、特に葉書きをよこしている姉が不憫に思えてより切なくなった。
サチは、アコが母につきそわれて訓練に行く間、祖母の家に預けられていたのだ。
そんな彼女がアコにとって不憫に思えてならなかった。
宛て名書きの切手は、サチが自分なりに可愛らしく描いた花の切手の絵だった。
それを目にすると、アコは幼き日の姉がいじらしくも思え、心がジンジンした。
そんな姉サチが来年のはじめに母親になる。
「あっ、あれが手やな!」
思わず熱のこもった声がアコの喉から出た。
今、里帰りしたサチのおなかの中を超音波で一家揃って見ているのだ。ビデオで。
サチは満足気だった。
そんな姉を見るアコも満足だった。
さっき母が見せてくれた思い出のかけらをかみしめ、アコは感慨深かった。
扇風機の羽が揺れているこの部屋の窓の外では、セミに負けない子供たちのはしゃぐ声が響いていた。