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あの変態はなぜパンツを求めるのか?  作者: すなぎも
第一章:三人の変態
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エピソード5:部長の岡惚れ人は鉄面皮

 「おやおや? どうやら先客がいるらしい」

 「いやな客ですね」

 「そういうな、米倉くん。観客のいるほうが盛り上がるじゃないか」

 風紀委員会―――右腕の腕章に書かれた「風紀」の文字は、あからさまに俺たちを威嚇していた。

 裏ミス鷺森への道のりは風紀委員たちによって阻まれている。

 さすがは裏ミス鷺森。

 簡単には近づけさせてもらえないか。

 先頭に立つのは副委員長の常森。彼女は腕章を左手の指先でつまみ、それを俺たちに見せつけると、

 「風紀委員ですのぉ! てめぇら、覚悟はできてんだろうな!」

 「落ち着きたまえ、常森くん。語尾を統一しなさい。キャラがぶれてる」

 「うるせぇ! ぶっ殺してやる!」

 「冷静になれ、常森」

 今にも飛びかかってきそうな常森を、委員長が制止する。

 「し、しかし」

 「部長さん。なぜこんなことをするのですか?」

 委員長は常守を無視して部長と話をはじめた。

 ちょっとしょんぼりしてる常森がかわいそうに思えてくる。

 「そうだね……誰かに振り向いてもらいたいから、といえばわかるかね」

 「まったく理解できません」

 「まぁ、そうだろうね」

 部長は深いため息をつく。

 そこでふとした疑問が頭に浮かんだ。

 「そういえば、部長の想い人って誰なのか、山田は知ってるか?」

 ひそひそと。

 山田に話しかける。

 フラれた女の子に再度告白をするために、部長はカメラで女子のいかがわしい写真を撮るようになったと聞いている。

 「あれ? 先輩は知らないんですか?」

 「うん」

 「ほら、あの人ですよ。あの人」

 山田が指差す人物へ目を向ける。

 「うっそ!?」

 「びっくりしますよね」

 人はいう、彼女を鉄の処女、アイアン・メイデンと。 

 誰もが恐れ、罪人は許しを請うて涙を流しながら彼女の前に膝をつく。

 断罪者。

 あまりに残忍な処刑方法に、誰もが悪寒を感じずにはいられない。

 風紀を犯した者を断じて許さない鉄面皮。

 部長が惚れた女性とは、風紀委員長その人に違いなかった。

 「マジかよ……」

 「マジでありますよ」

 いやでも、よくよく見てみれば確かに部長が惚れるのもうなずける。

 短く切りそろえられた黒髪に、余分な脂肪をそぎ落としたムダのない体。両のつり目が冷たい光を放つ。何もかもを見下すその視線。その瞳に魅入られただけで、ある種の人間は恐怖を通り越して快感を感じてしまうのだろう。 

 待てよ。

 「あれ、じゃあ部長って、マから始まる特殊性癖でももってるわけ?」

 「あったりまえじゃないですか。先輩はホントに何も知らないんですね」

 知らなかった。いや知りたくなかった。

 部長、何があなたをそこまでの変態に仕立てあげてしまったのですか?

 やっぱりあなたは尊敬すべき阿呆ですね。

 それでこそ部長です。

 これからも、誰一人として後をついていかない変態街道を切り開いてください!

 俺は部長に心からのエールを送る。

 「部長はとことん屈折してるなぁ」

 「そこが部長のいいところでありますよ」

 「わかる」

 「ツンデレっていうんですかね。部長も盗撮で告白なんて、回りくどいことするもんです」

 ん? 盗撮が告白?

 なにそれ新しい。

 「つまり、どういうことだってばよ」

 「えーっと……部長が中学生のとき、委員長に告白したのは知ってますか?」

 「ああ、知ってるよ」

 「そのとき、部長は興味すらもってもらえなかったそうです」

 うわぁー。

 なんか簡単に想像できる。

 部長が「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」といっても、その都々逸の意味を理解した上で委員長は「ごめんなさい、興味がない」とバッサリ一刀両断する姿が。

 「ですから、彼女に自分の存在を印象づけるために、盗撮をはじめたんでありますよ」

 「それがなぜ盗撮につながるのかわからない」

 「考えてみてください。委員長は風紀委員会にずっと所属しています。風紀委員会は、規則を破る者に対してそれ相応の処罰を与える機関。盗撮なんかしてみれば、一瞬で風紀委員の耳に伝わりますよ」

 「それじゃあ部長は、委員長に名前を覚えてもらうためだけに、盗撮してるの?」

 「そのとおりであります。あと、部長は委員長にお仕置きを受けたいという願望もあるんでしょうね」

 まわりくどぉい!

 部長はなぜもっと普通の方法を思いつかないんだろう。

 全くもって意味不明。

 「つくづく部長はアホだな」

 「アホですよ」

 「そんで、変態だな」

 「変態ですね」

 ですが、と山田はつぶやくと、

 「だからこそいいんじゃないですか」

 「心からそう思う」

 山田と俺の口元がニヤリとつり上がる。

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